「優勝した事が信じられない、でも素直に嬉しい」。
熱戦の後に、そう語ったのは、オークランド代表の片岡 瑞帆(かたおか・みずほ)だった。
ニュージーランド(以下、NZ)の女子ラグビー国内選手権【ファラ・パーマー カップ】のプレミアシップ決勝が9月9日、クライストチャーチのラグビーパークでおこなわれ、オークランドが39-27のスコアでカンタベリーを破り、8年ぶりに王者に輝いた。
レギュラーシーズン1位で通過したカンタベリー(5勝1敗)は、準決勝で同4位のホークスベイ(3勝3敗)を相手に前半から圧倒し59-29の大差で勝利し決勝へ。
もうひとつの準決勝は、レギュラーシーズン3位のオークランド(4勝2敗)が、同2位(5勝1敗)のワイカトに29-22と僅差で勝利し、決勝は2年連続でカンタベリー×オークランドの因縁のライバル対決となった。
冬を終えたばかりでも、夏の日差しを感じるほどの天候の中の決勝となった。
両チームには、昨年の女子によるラグビーワールドカップで優勝したブラックファーンズ(NZ女子ラグビー代表の愛称)の選手が多数所属する。
カンタベリーは、PRピップ・ラヴ、HOジョージア・ポンソンビー、PRエイミー・ルルー、LOチェルシー & FL/No8アラナ・ブレムナー姉妹、CTBエイミー・デュプレッシー。
そしてオークランドには、昨年のワールドラグビー女子15人制年間最優秀選手に選ばれたSOルアヘイ・デマントを始め、LOマイア・ルース(決勝はFLで出場)、FL/No8 リアナ・ミカエレトゥ、CTBシルビア・ブラントなど、その他、代表経験のある選手が並ぶ。
これらスター選手たちと一緒にサクラフィフティーン(ラグビー女子日本代表)としてRWC2017 の経験がある片岡がオークランドの背番号7を付けてフィールドに立った。
片岡は現在、弘前サクラオーバルズに所属している。
日本代表キャップは11。日体大出身で、PR、FLとしてテストマッチへ出場経験がある。1994年10月11日生まれの28歳だ。
決勝と言う事もあり試合前にはNZの国歌斉唱があり、女子ラグビーならではの雰囲気で笑顔で【God Defend New Zealand】を皆で大合唱する光景は温かさを感じる。
試合は、ブラックファーンズの選手たちが流石のプレーを連発した。
注目マッチアップとして、ミカエレトゥ× ブレムナーのNO8対決は、迫力満点だった。
BKではブラント × デュプレッシーが13番で対決。お互いにラインブレイクを連発してチャンスを作り出していたのが印象的だった。
ホームのカンタベリーがオークランドのパスをインターセプトしトライを奪い先制。開始わずか1分の事だった。
しかし、オークランドが2連続トライで14-13と逆転に成功。(19分)
男子顔負けの激しいコリジョン(衝突)は、まるでテストマッチレベルと言えるくらい見ごたえがあった。
前半終了間際に連続攻撃から3つ目のトライを奪ったオークランドが22-13でリードしてハーフタイムを迎えた。
◆後半。カンタベリーが追い付くも、オークランドが再逆転
後半に入り先にトライを奪ったのはオークランド。27-13と大きく差をつけてスコアーでプレッシャーをかける(45分)。
このまま黙っていないのが王者のカンタベリー。CTBデュプレッシーが持ち味の強さを活かした突進でインゴールになだれ込み27-20と7点差に詰め寄った(50分)。
勢いがついたカンタベリーは、今度はゴール前のラインアウトからモールを押し込みトライ。コンバージョンも決まり14点差から27-27の同点に追いついた(62分)。
どちらに勝利が転がるか分からない展開に観客の気持ちの高まりを感じた。
しかし、オークランドはカンタベリーの猛烈な追い上げに屈しなかった。FLルースが見事なサポートプレーからインゴールに持ち込み再び7点差に(68分)。
そして試合終了間際にオークランドがゴール前のラインアウトからモールで押し込んだ後、BKに展開しSOデマントがダメ押しのトライで試合を決めた。
その数分後、SOデマントがタッチに蹴りだして試合終了のホイッスルが鳴った。
オークランドの選手は、歓声を挙げながら抱き合い、長年遠ざかっていた優勝を喜んでいた。中には涙する選手もいた。
名門のオークランドが2015年から優勝から遠ざかり、近年では2019、2022年とラグビーパークでカンタベリーに打ちのめされていたことから、今回の優勝は特別な思いだったに違いない。
14点差から諦めず、追いついたカンタベリーの凄さも見れた。しかし、オークランドが試合をコントロールした。レギュラーシーズンの敗戦(24-27)と合わせて、昨年(14-41)の決勝のリベンジに成功し優勝を勝ち取った。
試合後のオークランドの選手のインタビューでは、「自分自身、そして仲間を信じた」という言葉を多くの選手が口にした。まさにチームが一つになって決勝に挑む強い意志が感じられた。
「決勝のハイライト動画」https://youtu.be/_okcFCHkeWA
◆レベルの高い環境でプレーする日本人選手
スター選手が多く出場したテストマッチ並みのレベルの高い決勝の大舞台に、日本人の選手の片岡が出場していた事を誇りに思う。
周りの選手と比べると明らかにサイズが小さい。しかし、果敢にタックルに入る姿は勇ましかった。
持ち味のフィットネスの高さで素早くブレイクダウンに入り、仲間をサポート。時にはリンクプレーで攻撃に参加するなど、常にハードワークする姿が印象的だった。
58分でピッチから退く片岡に向けて、観客席から温かい拍手が送られた。決勝を見たカンタベリアン(カンタベリーの人のニックネーム)の心を掴んだかもしれない。チームメイトとの信頼関係の良さもうかがえた。
試合直後に片岡に話を聞いてみた。
素直に優勝した事が嬉しいと言いながらも、まだ実感がわかない様子だった。
サイズのハンデを覆しての活躍に価値がある。
「NZに来てからずっとそこがネガティヴに捉えていた部分でしたが、チームメイト、コーチ陣から、“貴方は小さいかも知れないが、フィジカル強いよ”と言う事を何度も言ってもらい、背中を押してもらって救われ、ポジティヴになれました」
言葉を噛み締めながら、そう話す。
ブラックファーンズの選手に囲まれてのプレーで学んだことについては、「一つひとつの基本的なプレー、激しさ、そして失敗を恐れず、とにかくチャレンジすることの大切さを学びました」と熱く語る。
背番号7を付けて名門オークランドのレギュラーとして活躍した。その活躍はアッパレだ。
片岡のチームメイトとして一緒にプレーしていた日本人選手がいた。
永田虹歩(にじほ)は現在日本代表に合流しており、決勝の2週間前に帰国した。決勝の舞台には立てなかった。
永田は、ほぼ毎試合背番号2を付けていた。オークランドの最前列でレギュラーとして活躍していた。
片岡は、永田が帰国してからの日々を「虹歩ロス」と語る。ふたりはNZの地で、いろいろな面で助け合っていたそうだ。それは、『X』(旧Twitter)に投稿されている、永田の帰国前最後の試合の写真からも伝わってくる。
片岡、永田の他にも、今年のファラ・パーマー カップに出場していた日本人はいる。
永岡萌、堀毛咲良の2人(ともにYOKOHAMA TKM)がベイ・オブ・プレンティーでプレーしていた。レギュラーシーズン第3節(7月29日)にカンタベリーとクライストチャーチで対戦。12-42で敗れたものの、前半は昨年の王者カンタベリーを慌てさせるくらいの善戦をした。
また、過去にファラ・パーマー カップに出場していた選手たちもいる。
オークランドでは、福田千夏、藤本麻依子、鈴木実沙紀、カウンティーズ・マヌカウのパラキゆき、ワイカトの山あずさ、ウエリントンの高野眞希、マナワツの末結希らだ。
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