8月27日のオーストラリア戦で快勝した後、フランスには5日間のオフが与えられた。
その間にCTBジョナタン・ダンティーがオーストラリア戦で負傷していたことが発表され、続いてLOポール・ヴィレムセがオフ期間中の個別トレーニング中に負傷したことも明かされた。
ダンティーは近々復帰が見込まれているが、ヴィレムセは今大会欠場となり、代わりにバスチャン・シャリュローが召集された。
シャリュローは2020年に「被害者の人種や民族を理由とする暴力行為」で懲役6か月の判決を受けていた。本人は暴力については認めて反省しているが、レイシストではないとして上訴中である。
当時在籍していたトゥールーズから解雇され、ちょうどLOを探していたモンペリエに期限つきのメディカルジョーカーとして入団した。そのあと正契約を獲得。昨年、代表デビューを果たしたというのがここまでの大きな流れだ。
今回シャリュローの追加招集が発表されるや否や、「過去にレイシストとして判決を受けた人間が、人々の模範となる国の代表選手としてふさわしいのか?」と、特に2名の国会議員の『X』(旧ツイッター)上の投稿などで物議を呼び、ついには記者会見を開き、「僕はレイシストじゃない」とシャリュロー自身が記者の前で涙ながらに訴える始末。
自国開催のワールドカップ(以下、W杯)の開幕戦を数日後に控えているフランスチームにとって、決して理想的な状況ではなかっただろう。
9月6日、開幕のオールブラックス戦を戦うフランスのメンバーが発表された。
そのメンバー発表が、それらのノイズを吹き飛ばしてくれた。大きなサプライズはない、安定したメンバーだ。
最も注目されていたダンティーのポジションには、ヨラム・モエファナが選ばれた。
「今大会は33人で戦う。プール戦だけでも4試合あり、大会を通じてチームは適応しながら変化していく」と前置きした上で、「ヨラム(モエファナ)とガエル(フィクー)のCTBペアーを信頼している。このチームが今の時点でベストなフランス代表チーム」とファビアン・ガルチエ ヘッドコーチ(以下、HC)が太鼓判を押す。
左PRには負傷しているシリル・バイユに代わって、この1年で頭角を表してきたレダ・ワーディーが入る。普段は左LOチボー・フラマンが右LOに入り、カメロン・ウォキとコンビを組む。
ベンチスタートのフィニッシャーに、CTBでのプレーも期待されているFLポール・ブドゥアンを入れ、いつものFW6人+BK2人ではなく、FW5人+BK3人とした。
「現在の選手の調子や、選手同士の補完性、力のバランスを考慮し、戦術に合わせた選択。このプール戦の4試合はそれぞれ異なる戦術で準備することになる」とガルチエHCが説明する。
同席したキャプテンのアントワンヌ・デュポンには、プレッシャーとどのように対峙するのかという質問が続いた。
「僕たち全員で一つのミッションに取り組んできた。この大会で大きなことを成し遂げる責任を全員が負っている。僕はキャプテンだから先頭に立ってはいるが、全員が、この大会でこれまでのフランス代表チームが成し遂げられなかった快挙を成し遂げたいという激しい意欲を抱いている」
感じている重圧については、「確かにプレッシャーはある。でもそれは、僕たちが期待されているからであり、この4年間結果を出してきて、人々に希望を与えてきたから」と話した。
「このプレッシャーは、僕たちのモチベーション、自分たちに課している高いスタンダード、また僕たちの野心に比べれば小さなもので、決して僕たちを押しつぶすようなネガティブなプレッシャーじゃない。僕たちは、このグループらしく自然体であり続け、これまで通り真剣で厳しくあり続ける。このプレッシャーからポジティブなエネルギーを汲み取り、ファンや、これまで築いてきた自信を力にして、自分たちを信じて全力を出し切る」と、いつものように淡々と、しかし力強く答えた。
開幕戦の対戦相手であるNZについては、「見る人を最も魅了し、世代を超えて憧れられてきたチーム。W杯ができて以来、傑出した選手を擁し、最もインパクトを与えてきたチーム」と敬意を評した。
「ラグビーに熱中する多くの人と同じように、僕も子どもの頃からこのチームとこのチームの選手に憧れてきた。W杯という大会の開幕戦で、しかもフランスで、このチームと対戦できるなんて、素晴らしいイベントになる条件が揃っている。ポジティブな結果が出せるかどうかは僕たち次第」
さらにガルチエHCも、「この大会をスタートするにあたって素晴らしい対戦相手。NZ以上の対戦相手があるだろうか? NZはW杯が始まって以来、プール戦で負けたことがない。しかも3度優勝している。このチームと対戦できることをとても幸せに感じている」と言った。
そして、「この試合は祝祭であり、喜びであり、大いなる幸せだ。ブラックスとのこの試合は、ラグビーのあらゆる分野でのチャレンジになる。見えない力が湧いてくる。私たちが、同じ方向に向かっているチームであり、お互いにとても強く愛し合っているということを金曜日にお見せすることになるだろう」と締め括った。
SOロマン・ンタマックとCTBジョナタン・ダンティーという2人のディフェンスの要(かなめ)の選手を欠いたフランス、前回のオーストラリア戦からどこまで修正されたのかが気になるところだ。
ラグビーワールドカップ2023、いよいよ開幕。