すべての試合はパッションの激突。W杯を楽しめたら結果はついてくる。9月8日にラグビーワールドカップ2023のメイン会場、スタッド・ド・フランスでフランス、ニュージーランドが激突する。大一番で開幕する楕円球の祭典には、世界中の目が集まる。
J SPORTSではラグビーワールドカップ2023 フランス大会全48試合を生中継・LIVE配信
日本が登場するのは9月10日。トゥールーズで初出場のチリと戦う。2015年大会に出場し、南アフリカ撃破の一員となり、リーグワン2022-23では、クボタスピアーズ船橋・東京ベイを頂点に導いた立川理道は、今大会、Jスポーツでの解説に挑む。
立川は勝負師の視点で初戦の重要性を語る。
「自信と勢いを得る。いまのジャパンには、とても意味のある試合だと思います」
チリの戦いぶりを映像で見たという。同じ南米のウルグアイと似た空気を持つチームだ。粗さはあるもののフィジカルを前面に出し、激しさもある。そして、何よりパッションを感じるチームだ。
「実力では間違いなく日本が上でしょう。ただ、相手は失うものはなにもない。全力で向かってくるのは間違いない。ジャパンが、それをはね返す。そんな試合にしてほしいですね」
大事なのは、技で勝とうとするのでなく、気持ちの部分でも負けないことだ。結束力高く戦い、相手を圧倒することが次戦にもつながる。
2戦目では、イングランドと戦う(9月17日/ニース)。イングランドは大会直前のウォームアップゲームで史上初めてフィジーに負けるなど、重い空気に包まれている。
「ある意味、大会前のジャパンとイングランドは、似たような状況にあると思います。思うような結果を残して大会に臨むことができず、自信を持てていない」
そうは言っても日本にとってイングランドは、これまでの対戦で一度も勝ったことがない相手だ。
「キャップをたくさん持っている選手が何人もいます。そして、どの選手も力がある。経験のある選手がいると、どういう状況でも冷静に対応して試合を進めます。イングランドは堅いゲームを好むでしょう」
伝統国だ。決して侮ってはいけない。しかし立川は、「ジャパンがイングランドに勝つと思っています」と言う。
「ロースコアで勝つイメージしか頭に浮かびません。強いFWと、キッキングゲームへの対応はカギになると思います。自分たちはどう戦って勝つか。それが明確になっていればいるほど、正確に、はやく判断ができる。しっかり準備をしてその日を迎えてほしいですね」
日本がイングランドを倒すイメージを思い浮かべる時、立川の頭にはこんな光景が浮かぶ。
「日本らしいアタッキングラグビーをすると、ファンが喜んで、チームを後押しする大声援を送ってくれると思います。その中で結果を残せば、チームに勢いが出ると思います」
イングランドとの大一番を制したとしても、サモア(9月28日/トゥールーズ)、アルゼンチン(10月8日/ナント)と続くプールDの戦いは、難敵が待っている。
サモアを率いるセイララ・マプスア ヘッドコーチ(以下、HC)は、とても強いリーダーシップでチームを束ねる人だ。セイララ・マプスアHCは日本でブレーした時、スピアーズに在籍。立川はCTBの位置に並んでピッチに立った記憶がある。
「まだ若かった僕をいつも助けてくれていました。落ち着いていて、判断も確か。真のリーダーで、指導者になると思っていたら、やはりサモアを強くしました。いいチームにしていますよね」
もともとハードヒッターの多いチームカラー。若い才能も多いところに、他国代表経験のあるベテランが加わって、チーム力が高まっている。ワールドラグビーの規約変更で、元豪州代表のクリスチャン・リアリーファノらが自身のルーツ国で大きな貢献をしている。サモアはその影響を大きく受けているチームのひとつだ。立川も「直近の試合を見ても、イングランドより手強いと僕は感じています」と話した。
プールステージの最後に戦うアルゼンチンが手強いのは最初からわかっている。三重ホンダヒートでプレーするFW第3列のパブロ・マテーラを筆頭に、前8人の接点での強さは世界トップクラス。BKの瞬発力も世界中で恐れられている。
「そのチームと、お互いプールステージ最終戦で戦う。そこまでの成績がどうであれ、相手の気力が充実しているのは間違いない。ジャパンも、研ぎ澄まされているでしょう」本物の決戦が、そこにある。
目標は優勝です。
日本の選手たちが、それぞれそう言って大会に臨むことについて、立川は「頼もしい」と同意する。
「そのマインドがすごく大事だと思うんですよね。ジャパンは、2015年大会、2019年大会と、いい成績を残してきました。その中で、次にどこを目指すかというと、やはり、そこしかない。そうでないとベスト4にいけないし、ベスト4にいけるチームは優勝できるチームでもある。なので、選手たちのマインドは、チームのパワーになると思います」
ワールドカップはそれぞれの国がプライドをかけて戦う戦争であり、世界中のファンがラグビーの魅力をあらためて知る機会。立川自身も2015年大会で、極度の緊張感の中で戦う感覚と、独特のラグビーカルチャーが交差するワールドカップならではの楽しさを感じながら日々を過ごした記憶がある。
「今回大会に出場する選手たちにも、その雰囲気だったり、フランスのムードを、存分に味わい、楽しんでほしいですね。不安に思い過ぎず戦って、自信を持ってプレーする。W杯を楽しめたら、結果もついてくると思います」
肩の力を抜いて、持てる力を出し切る。それが成功の第一歩であり、すべてだ。
PROFILE
たてかわ・はるみち
1989年12月2日生まれ、33歳。奈良県出身。180センチ、94キロ。天理高校→天理大学→クボタスピアーズ船橋・東京ベイ。スピアーズでは2016年度から主将。日本代表キャップ56。2015年ワールドカップに出場。ポジションはCTB。ラグビーワールドカップ2023はJ SPORTSで解説を務める。