サウマキ アマナキは、落選するかもしれなかった。
8月5日、東京・秩父宮ラグビー場でのロッカールーム。ラグビー日本代表は、フィジー代表戦を12-35で終えた直後に9月からのワールドカップ・フランス大会のメンバーを内輪だけで共有した。
やがて公式アナウンスされる予定だったそのラインナップに、サウマキは入らなかったという。
「ラグビーテストマッチ 2023 サマー・ネーションズシリーズ」
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日本人女性と結婚し、国籍をトンガから日本に変えて久しい26歳は、当時をこう振り返る。
「ちょっと寂しかったです。でも、まだチャンスがあるかな…と」
15日。大会登録選手を公開する予定だったが、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチら首脳陣が発表したのは33名中30名のみ。残る3名は、選手のコンディションを見て決めると説かれた。
サウマキの務めるLOのポジションでは、今年日本代表入りして夏の国内戦全5試合に出たアマト・ファカタヴァが足首を痛めていた。昨季までその位置で主力のワーナー・ディアンズも、肩や足首の負傷で試合に出ていなかった。
報道陣が騒然としたのは、3日後の18日だった。
ジョセフが活躍を期待していたファカタヴァは、回復が間に合わずに選外となった…。かねてLOで選出されていたジェームス・ムーアまで「コンディション不良」のため離脱した…。関係者がそう伝えたためだ。
そして合計4名の追加選手には、サウマキも入った。
本人がメンバー選出を告げられたのは、発表日にあたる18日だ。まもなくチームが用意した取材機会に応じ、スポンサー向けのパーティーに足を運んだ。翌19日には、遠征先のイタリアへ渡った。
「ゲームタイムがなく、フランス(ワールドカップのメンバー入り)はあまり見えなかったですけど、頑張って自分のペストを尽くしていました」
昨年、初めて日本代表に入ったものの、キャンプ中のけがで離脱。今年もワールドカップ行きを争う日本代表に選ばれながら、ファカタヴァ、ムーアらの陰に隠れてテストマッチデビューを果たせなかった。代表キャップ0にして、ワールドカップへの切符をつかんだわけだ。
8月26日に敵地でおこなうイタリア代表戦では、リザーブ入り。出場すれば初のテストマッチ出場となる。
国際舞台に出ることを、かねて心待ちにしていた。
「楽しみ。他の自分のチームメイトが助けてくれる(はず)」
発掘された才能だ。
2016年に19歳の若さで初来日し、現横浜キヤノンイーグルス入りした。
当初はタッチライン際のWTBとして走力を期待されたが、2020年、ポジションを変えた。イーグルスの新監督に着任した沢木敬介氏の勧めで、母国トンガのトゥポウカレッジで務めたFW2列、3列に転じた。
2022年には国内リーグワンでブレイクし、初めて日本代表に名を連ねた。まもなくコベルコ神戸スティーラーズへ移ってからも、代表入りに絡んできた。
「スピードとフィジカルのところで負けたくないです」
前所属先のイーグルスには、兄のホセア・サウマキが在籍していた。2013年に来日したWTBで、ずっと日本代表入りを嘱望されてきた。結局は資格を得られず、21年からはイングランドのレスター・タイガースでプレーしている。一時、トンガ代表にも選ばれていた。
弟は、出国の直前に言う。
「いまはまだお兄さん、お母さんにワールドカップ(メンバー入り)のことは言ってないですけど、でも浦安と宮崎に行ったこと(6月以降の日本代表合宿)には、『すごい! 嬉しいね。頑張って』と言われていました」
家族を代表して、ワールドカップに出る。