タフでスマート。ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ率いるラグビー日本代表が選手へ求める資質だ。
2016年秋の着任以来、指揮官は走り込みと実戦練習を交互におこなったり、合間、合間の個人面談で感触を探ったりし、その選手の忍耐力、さらには相手の話を理解して実践に移る聡明さを見定めてきた。
2023年8月15日。9月からのワールドカップ・フランス大会に出る33名のうち、30名が発表された。
姫野和樹、流大が主将、副将となったこのラインナップを「今年やってきたラグビーを理解しているメンバーじゃないですか」と見るのは堀江翔太。身長180センチ、体重104キロの37歳だ。
「…なので、ここから何かをいじったり、例えばいままで違うラグビーをしたりしても、(対応)できるメンバーだと思います」
それまでのチームが目指してきたラグビーの狙い、各種プレーの詳細を深くわかっているから、ここからマイナーチェンジが加わっても難なくアジャストできるという見立てだ。
「ラグビーの知識、理解度、頭を働かすという部分は、持っているメンバーかなと」
話をしたのは16日。コンディションチェックなどを経て、残りの3名が発表される2日前のことだ。この体制にとって2度目、自身にとって4度目で最後となるワールドカップを見据え、こうも続ける。
「ここから対戦国別にいろいろと(新たなプレーを)入れていくところもあると思いますけど、それにも適応できる」
今年は6月中旬から浦安、宮崎でキャンプを実施。ジョー・ドネヒュー スポットコーチによる約1時間ぶっ通しの格闘技風セッションで心身を鍛え、戦術確認とランメニューを織り交ぜたような実戦練習も重ねた。
1勝4敗に終わった国内5連戦では、課題も、収穫も得られたと堀江は言いたげだ。
5戦連続で2桁にのぼったハンドリングエラーの数は、あえて問題視していなかった。
「完成度がもうちょっと足りないところは結構あったけど、十分に修正できると思いますよ。個人のミスなんてしたくてしているものじゃないし、コーチ、監督も、僕らもどうにもできない。信頼して、お互いに『頑張れよ』って言い合うしかないです」
例に挙げたのはフィジー代表戦だ。8月5日に東京・秩父宮ラグビー場であったこの一戦では、前半7分にピーター・ラブスカフニが一発退場。その後も果敢に攻めながら、12-35と敗れている。堀江の所感は。
「戦術、戦略を最後までやり通したと、僕は思っている。その部分は、結構、大切かと思います」
所定の攻撃陣形を作る流れで、ノーマークとなった選手に意図的に球を運ぶ意思が見られた。スコアボードに反映されぬそのプロセスに、タフな時間を過ごす日本代表のスマートさが垣間見えたか。
「前半は(ラブスカフニの退場で)人数が減って、ちょっとパニックになった部分もあると思います。ああいう状況でもパニクらんと、自分たちのやってきた形に持っていけるかが大事。そうできれば、自信を持っていいラグビーができる」
再集合までのブレイク期間は、京都へ渡った。独自の理論を持つ佐藤義人トレーナーとのトレーニングで、身体を見つめ直した。
砂浜で足を振り上げた。スピードを司り、加齢により衰えるリスクのあるという腸腰筋を鍛え直すためだ。
コンタクトの時に活かる首、背中、膝の力も引き出すべく刺激を入れた。虎視眈々と準備を施す。
佐藤氏のことは、堀江は2015年からずっと信頼する。佐藤氏のもとでの身体づくりにより注力すべく、2019年の日本大会後は代表活動と距離を置いた。
昨年までの約3年間で、招集に応じたのは22年夏のみ。それでもフランス大会開催年にはメンバーに加わり、選考過程を経て登録メンバーとなった。
「僕にコミットしてくれた人たちがたくさんいる。感謝したいです。代表に来ない(参加しない)のは、選手としてはリスクがあるんですよね。(首脳陣に)愛想をつかされるってことが、あり得るので。その分、パフォーマンスを出さなあかんと思いながらやってきました。いい感じです」
19日、事前試合をおこなうイタリアへ飛んだ。「また天井がどこにあるのかはわからない。これで完璧かどうかもわからないですし、まだ完璧と思いたくもない」と、自らの伸びしろに期待している。スクラムを組むたび、タックルをするたび、背中の力をもっとうまく使えないかと思案するという。
最後の最後まで進歩を止めず、計7勝を挙げた過去2大会に負けない結果を出す。