迷いのない表情をしていた。
トヨタヴェルブリッツ福田健太。SHとして流大、齋藤直人とともに2023年ワールドカップ日本代表の座をつかんだ。
スコッド入りは今春も、国内での出場機会はなし。キャップはゼロのままだ。
ジェイミー・ジョセフHCはトンガ戦前のメンバー発表会見で福田の起用について聞かれ「SHはレベルの高い競争が出来ている」と、答えるにとどまった。
本人は試合に出られない悔しさを抱えつつも、日々有意義に過ごしている。
「もちろん出たい気持ちはありますけど、レベルが高いので、練習をやるたびSHとしての成長を実感できている。こういう時間を無駄に過ごさないことが、チャンスをつかめるかどうかにかかってくる」
ベースとなっているのは、トヨタ加入後、試合に出られなかった2年の日々だ。今季で加入5年目。明大主将として大学選手権優勝を果たし、鳴り物入りでトップリーグ(現リーグワン)へ。しかし1年目は出場ゼロ、2年目は出場時間7分、先発として定着したのは3年目のことだ。
「1年目は(出られないのが)すごく悔しくて、練習に対して百㌫で出来ていなかった」
本人の言を借りれば「そのクオリティなら、やらない方がまし」の練習。ある日、ふと気づいた。
「このままだったら成長しないで終わる」
同じ時期にスティーブ・ハンセンDORに「今に集中し続けろ」と声をかけられた。その言葉は、いまも支えとして胸に刻む。
「ゲームに出て成長するのが一番ですけど、出ていないときに成長しないとチャンスは回ってこない。出られない時間にどれだけ成長できるか」
この春、初めて代表スコッドの練習に参加したときは、ジャパンのラグビースタイルに戸惑った。
「リーグワンでの感覚でサポートコースに入ったら、遅れることがあって。代表では〝そこで繋ぐんだ〟と、普通ではありえないところでゲインするので、常に気にかけながらサポート入ってます。みんな世界に勝つためにどうするか、いつも考えてる。国内ならボールを持ってキャリーするところも、短い距離でパスを繋いでいく。FWの選手もパススキルが高い」
流大、齋藤直人とSH3人での練習でも多くを吸収中だ。
たとえばコンテストキック。
「リーグワンでは〝ここに落とさなきゃダメだ〟と100点満点を目指して、フォームを変えすぎて安定しなかった。でもナギー(流)さんは〝80点でいいんだよ〟と。そうするとメンタルに余裕ができて、結果的に90〜100点のキックができる」
桜を胸にピッチに出る日に備え、黙々と磨きをかける。これから起用される試合はイタリア戦か、W杯。初キャップの感慨に浸る間もない戦いになるだろう。
「以前の僕だったら、〝ここで一発見せてやろう〟と思ったでしょうけど、チームプレーに徹して、その中で持ち味を出すことを2年間学んできた。常にチャンスを見つけて持ち味を出せればいいなと」
強みはサポートの嗅覚とトライをとりきるスピード。昨季のリーグワンでも、しばしば苦境を救ってきた。
「テストマッチはチャンスがたくさんあるわけじゃない。きつい状況でどれだけサポートにいけるか。1㍍でも前に進めるようサポートコースを意識して、常に練習から取り組んでいきたい」
イタリア出発前日、トヨタで共にプレーした南アフリカ代表FBウィリー・ルルーから代表入りを祝う動画が届いた。
世界有数の15番とは、ことのほか気が合い、様々なアドバイスをもらっていた。
ルルーも、将来時間ができたら柴犬を飼い、「ケンタ」と名付けると決めている。
ともにプレーした仲間も、世界の舞台で待っている。出られない時期に学んだフォアザチームの信念は揺るがない。