「流れに身を任せています」
NZの南島サウスランド州代表のワイダースコッド(WS)入りしているトヨタヴェルブリッツSH田村魁世は、オンラインの向こうで笑った。
留学が決まったのは突然だった。当初、行くはずだった先輩SH福田健太が出発寸前に日本代表スコッド入りし、日本に残ることに。先方のチームはSHを必要としており、白羽の矢が立った。
5月末に赴いたのは南島の南端、インバーカーギルにあるパイレーツオールドボーイズ。PR淺岡俊亮、SO丸山凜太朗らと現地のクラブトーナメントに出場した。加入当初は自分のプレースタイルと、求められるプレーの違いに大きく戸惑った。
「最初に“こちらのSHはパススピードを重視している”と言われて、結構迷いました。何にフォーカスするか自分の中でモヤモヤしていた」
残り3試合という時に、サウスランド州代表のチームディレクターと面談する機会があった。
「自分の強みを聞かれて、テンポアップだと話したら、“そこに全力でフォーカスすればいい”と言われて、一番の強みを出せばいいんだ、と。もちろん課題を克服することも大事ですけど、自分の武器は何か明確になった。そこからは強気なプレーも出来るようになった。あの面談で変われた」
その後、リーグ最終戦、決勝トーナメントの準決勝、決勝と出場。みごと優勝を勝ち取った。当初は大会終了とともに日本に戻る予定だった。土曜の決勝戦に出場、月曜のフライトに備えパッキングを済ませ、日曜に夕食をとっていたところ、突然「州代表のワイダースコッドとして残れないか」と連絡が来た。決勝で対戦した相手のSHが負傷したのだ。
「自分としては帰る気満々、目の前に日本食が見えていたので(笑)、正直迷いました。“最終的には僕の判断に任せるよ”と言われたんですけど、
こんなチャンス普通はない。逃げたくなかったし成長に繋がるかなと」
自ら決断して帰国を延期、現在はサウスランド州代表の練習に参加している。
「当初はバタバタでしたが、流れに身を任せようと(笑)。留学のメンバーに選んでいただいたのもありがたいし、州代表のチームに参加させてもらっているのも幸運のめぐり合わせ。チャンスを大切にしたい」
昨年トヨタに加入、すぐに大学時代から痛めていた肩を手術したため、グラウンドに復帰したのはシーズン半ば。プレータイムは十分ではなかった。
「いま日本はオフシーズン。こちらで毎週試合があるとスキルも成長しますし、ラグビー感覚も衰えずに、いい状態でトヨタのシーズンに合流できるのかなと」
「先輩の代役」から、州代表のワイダースコッドへ。任せた流れは追い風となって、成長を促している。
田村と同じくサウスランド州代表のWSに入ったPR淺岡俊亮。一昨年秋、昨年春と日本代表スコッド入りしているが、さらなる成長を求め、5月にNZへ。田村と同じく現地に残っている。
田村同様、当初はNZと日本のプレーに対する評価の違いに戸惑った。
「クラブチームで言われたのは、“ラックに入る数やタックル数、キャリー数を増やせ”と。そのプレーが効果的かということもあると思うんですが、周りを見ていると回数を重視している感じがして。増やそうと思っても、周りとコミュニケーションをとれないと真ん中に入れない。そこはしっかり5〜7月でコミュニケーションをとって、今は増えてきたんですけど」
そしてスクラム。淺岡の強みは1番と3番、両方に対応できること。両方こなせれば、それだけ出場の機会が増す。
「試合によって言われる番号が違う。僕はどっちでもよくて、それはリーグワンに戻っても通用するので」
苦戦しているのはスクラムの解釈の違いだ。
「組み方が違って、僕が学んできたことを伝えられない。日本代表のやり方をやると、逆に(相手に)やられる。日本人相手なら、一人でもなんとかなりますが、外国人と組むと体重も力も強いので、自分一人ではどうにもできない。もどかしいですね。組み方自体、あまりこだわってないのかもしれないけど」
それでも日を追うにつれ、己の成長は感じられるようになってきた。
「組織としてはなかなか組めないですけど、シェイプだったり、どうヒットしたら当たれるとかいうのは、自分の中では結構はまってきた」
最近、頼もしい若手が現れた。7月に南アフリカで開催されたU20 チャンピオンシップにNZ代表として参加していたHOジャック・テイラーが大会を終えて、チームに戻ってきたのだ。
「まだちょっとしか練習してないんですけど、スクラムも細かいところにこだわって、日本のHOに似ていると感じた。僕たちと一緒ですね」
現在、州代表スコッドは両PRの層が厚く、開幕前に行われた練習試合も、淺岡はディベロップメントチームでの出場だった。
「下で圧倒すれば上のチームに上がるチャンスはある。練習は一緒にしているので、そこでやっつければ上がれる。狙っていきたいです」
サウスランドは南島最南端にある小さな街インバーカーギルが拠点。チームにトレーナーは一人。NZに行ってからマッサージを受けたことはない。米が好きだが、食事はもっぱら肉と野菜。週に3回、日本食屋で摂るランチが米をとる機会。「米が少ないので体重の変動はないです」。
体重コントロールは万全だ。
日本とは異なる環境の下、果敢にポジション取りに挑む。