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【日本選手権予選・東京大会】車いすラグビー日本選手権・予選が開幕!  STORMERSが東北魂でトップ通過を果たす

2023.08.09

見ごたえある試合が観客を魅了した東京大会。左からSTORMERSの中町俊耶、AXEの峰島靖、STORMERSの橋本勝也。(撮影/張 理恵)

STORMERSの今野匡人(中央)はチームスローガンの「執着」を体現した。(撮影/張 理恵)
「優勝のチャンスはある」と本大会への自信をのぞかせたSTORMERSの中町俊耶(右)。左はAXEの乗松隆由。(撮影/張 理恵)



 チームの力を結集する時がきた。

 8月5日と6日、「第25回車いすラグビー日本選手権予選 東京大会」が江戸川区スポーツセンターで開催された。
 全国3つの会場でおこなわれる予選大会の先陣を切って開催された東京大会には、TOHOKU STORMERS(東北・福島)、AXE(埼玉)、SILVERBACKS(北海道)の3チームが出場し、真夏の猛暑を吹き飛ばすほどの熱いプレーが観客を魅了した。
 各チームが2回ずつ対戦した全6試合の結果、TOHOKU STORMERSとAXEが日本選手権の出場権を獲得した。

『東北魂』で4戦全勝のトップ通過を果たしたのは、TOHOKU STORMERS(以下、STORMERS)だ。
 STORMERSは、「車いすラグビー アジア・オセアニア選手権」(6/29〜7/2)で優勝した日本代表メンバーの中町俊耶と橋本勝也を擁し、昨年度の日本選手権ではチーム最高位となる準優勝に輝いた。

 今シーズンは「執着」をチームスローガンに掲げ、ボールへの執着心を持ってターンオーバーを奪い、取られても取り返し、大量リードをしている試合でも最後の0.0秒までスコアすることにこだわり、チーム全員が“STORMERSラグビー”を遂行した。

 なかでも、中町−橋本とともにスターティングメンバーに名を連ねた今野匡人は、スタートを務めるにあたって、気持ちと身体の作り方や、ゲームを作るためにはどうしたらいいのか…等、自身のテーマを明確にして日々の練習に臨んだといい、ボールキープにおける課題にも意識的に取り組んだ。

 目を見張るほどの「執着心」がアグレッシブなプレーを生み、チームに勢いをもたらした。
 また、コロナ禍やケガを乗り越え、3年ぶりに結成当時のメンバーがベンチに戻ってきたこともチームにとって明るい材料となった。

「東北に車いすラグビー文化を作りたい」との思いで設立したSTORMERSは、東北と関東に在住するメンバーで構成されている。
 今大会では、橋本勝也(福島)に庄子 健(宮城)、そして岩手の熊崎 敬と岩渕 鋼による“東北ライン”が復活、熊崎も岩渕も渾身のトライを決めチームの士気を高めた。

「東北、行くよー!」と仲間をコートへと送り出したキャプテンの中町は、「(初期メンバーの熊崎選手と岩渕選手が)帰ってくるのをみんな待ちわびていた。コロナ禍の影響でなかなか練習に参加できず、ラグビーを離れることも頭をよぎったと思うが、また戻ってきてくれたことがすごくうれしい。スポーツをする楽しさを感じながら、これからも一緒にラグビーをしたい」と喜びをかみしめた。
 そして、日本選手権に向けては「厳しい戦いになると思うが、まずはしっかり決勝の舞台に行って、昨年の自分を超えたい」と闘志を燃やした。

 2勝2敗の2位で本大会への切符をつかんだのは、日本代表の羽賀理之と倉橋香衣、そして新たに日本代表ヘッドコーチに就任した岸 光太郎が所属するAXE。分析に基づいた戦術で、組織的なラグビーを展開するのが特徴的だ。
 今大会は、攻守の要となる羽賀がベンチで見守る中での戦いになったが、期待の若手・青木颯志(高校3年生)の成長や、先月に韓国リーグでもプレーした乗松隆由のハードワークが光った。

「かっこいいハイポインターなりたい」と目標を語るAXEの貝谷紗璃菜。(撮影/張 理恵)

 今年6月には、国内で5人目の女性プレーヤーとして選手登録した貝谷紗璃菜(20歳)がチームに加入した。貝谷は4年前、車の事故により頸椎を損傷し車いすユーザーとなった。病院でリハビリ中に車いすラグビーを知り、体験会に参加してその魅力に取りつかれた。

「やっているうちに、もっとうまくなりたい、もっと知りたいと思った。今でも楽しいラグビーを、もっと楽しみたいと思ってチームに入った」
 コート内での硬い表情とは打って変わり、満面の笑みで語る。

 貝谷は障がいの比較的軽い『ハイポインター』にクラス分けされ、得点力が求められるポジションを担う。自身初の公式戦は「すごく緊張した」と、はにかんだが、4試合で11得点をあげ、「これまで日本には女性のハイポインターがいなかった。男性ハイポインターにも勝てるくらい、かっこいいハイポインターになりたい」と志は高い。
 倉橋と貝谷、2人の女性選手が入るラインアップが、AXEを勝利へと導く『女神のライン』になる日も、今後訪れそうだ。

 昨年度の日本選手権の結果は5位。キャプテンの羽賀は「対戦相手に応じたコンセプトのもと、全員で守り全員で攻めて、本大会では昨年よりいい位置にいきたい」と意気込みを語った。

 そしてSILVERBACKSは、複数選手のコンディション不良により規定範囲内でラインアップが組めなくなり、2試合目以降はエキシビションゲームとしておこなわれ3位で大会を終えた。
 チームにとっては悔しい結果となったが、客席ではSILVERBACKSがトライする度に大きな歓声が起きた。

 なかでも、「フレー、フレー、44!」と会場中に響く小さな応援団の声援を一身に受け、中学3年生のハイポインター、横内太陽(背番号44)が躍動した。
 昨シーズンSILVERBACKSに加入した横内は、スピードもパワーも飛躍的にアップし、今大会では全4試合中2試合でフル出場を果たした。

「コートでは休まずに、フェイントをかけてゴールを狙うことが目標」と横内。小島謙一ヘッドコーチも「『心』が強くなった。競技を始めた頃は1ピリオド(8分)ももたなかったが、今は自分に負けなくなってきた。走り続けて、最後までコートに立ち続けることができるようになった」とその成長ぶりを喜ぶ。
 大会を終え、未来のエース・横内は「タックルの音が好き。ラグビーは楽しいです」と笑顔を浮かべた。

 横内の加入により、昨年の予選大会では51歳だったチームの平均年齢が、今大会では43歳とぐぐっと下がったSILVERBACKS。
 11月末に開催されるプレーオフで勝ち上がり、2年連続の日本選手権出場を目指す。

中学3年生のSILVERBACKS、横内太陽(中央)はめざましい成長を見せた。(撮影/張 理恵)

 三者三様のチームカラーが観客の目を楽しませた東京大会。
 9月23日と24日には、第24回大会チャンピオンのFreedom(高知)、Fukuoka DANDELION(福岡)、RIZE CHIBA(千葉)が出場する福岡大会(会場:福岡市立住吉小中学校)が開催される。
 海外選手の出場も予定されており、こちらも見逃せない大会となりそうだ。

【第25回車いすラグビー日本選手権予選 東京大会】試合結果
◆8月5日
AXE ○66-25● SILVERBACKS
TOHOKU STORMERS ○52-22● SILVERBACKS ※
TOHOKU STORMERS ○58-45● AXE
SILVERBACKS ●22-48○ AXE ※

◆8月6日
SILVERBACKS ●27-61○ TOHOKU STORMERS ※
AXE ●38-59 TOHOKU STORMERS

※エキシビションゲーム。公式記録は【1-0】でSILVERBACKSの敗戦。上記は、実際の得点を反映したもの。




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