ラグビーリパブリック

クライマックスを振り返る。アマト・ファカタヴァ、母国との対戦に「国に帰ったみたい」

2023.08.01

母国トンガの代表と激しくぶつかったアマト・ファカタヴァ(撮影:松本かおり)


 腰を上げ、ふっと息をついた表情が、中継画面に大写しになった。

 ラグビー日本代表の堀江翔太は7月29日、東大阪市花園ラグビー場でトンガ代表と対峙。21-16とわずか5点リードで迎えた後半39分頃にジャッカルを決め、相手の反則を誘った。場所は自陣中盤。逆転されるピンチを脱した。

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 ほっとした顔つきに映ったが、本人の自覚は違った。

「ほっとしたんですけど、すぐラインアウト、放らなあかんので。緊張の方が」

 ペナルティキックを得たら、ラインアウトが待っていた。ここでボールを保持して試合終了のホーンを聞くのが、逃げ切って勝つのに必須だった。堀江はラインアウトの投入役だった。

 結局、今年の日本代表にとっての初白星をつかみ、改めて会心のジャッカルについて普遍を語った。

「どのブレイクダウン(接点)でも、(ジャッカルをするかどうかなどの)判断は必要。いい判断、できたかなと」

 今秋のフランス大会で4度目のワールドカップ出場を目指す37歳のビッグプレー。ファンを沸かせたこのシーンをおぜん立てしたのは、今年から日本代表に入った新星だった。

 アマト・ファカタヴァだ。

 あの時、堀江がボールに絡めると「判断」できたのは、ボール保持者が倒れて孤立していたためだ。

 そしてその状況を作れたのは、ファカタヴァの低いタックルで走者を転ばせたからだ。

「私はただ、チームを助けるためにできることをしました」

 身長195センチ、体重118キロの28歳。トンガ出身で、ニュージーランドのティマルボーイズハイスクールを経て2015年に来日していた。双子の兄であるタラウと大東大で活躍し、2019年から2人でリコーブラックラムズ東京(現名称)に在籍する。

 今年5月まであった国内リーグワン1部では、レギュラーシーズン全試合に出場。すると、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ率いる日本代表にピックアップされた。6月中旬からの浦安合宿で存在をアピールし、7月の対外試合ではここまで全4試合でスターターを務める。

 本職のFLと異なるLOに入りながら、堀江のジャッカルを促したようなタックル、相手走者をつかみ上げる防御、かねての持ち味であるビッグゲインを披露する。

 本人は「ただハードワーク。来週に向けて学ぶことがたくさんあります」と謙遜するなか、昨年の代表主将でHOの坂手淳史が関西弁を交えて称える。

「本当にワークレートが高くて、よう、走ります。シャープですし、ラン、パスといろんなスキルが高い。まだ静かですけど、もっとチームに溶け込んで、しゃべっていくと、より化けるんじゃないですかね」

 坂手が最前列中央で組むスクラムにおいては、ファカタヴァの2列目からのプッシュが効いているという。

 本職は3列目のFLやNO8とあり、LOとして2列目に入るのは不慣れなはず。それでもファカタヴァは坂手いわく、「言われたことをやるんです。まじめで」。長谷川慎アシスタントコーチの理論と組み方を聞き、即、実践してみてくれる。すぐに体得する。

「(最初は何を言われているのかも)わからないと思うんです。でも、言われたことをその場でできる。やり続けられる。その忍耐力がすごい。いい押し、きていますよ。僕のケツに」

 坂手が続けるなか、その隣で組むことの多い右PRの具智元はこう補足する。

「アマトは常に、すごい、頑張って押してくれる。重さもありますけど、常に、頑張って押してくれている」

 トンガ代表戦では、2試合連続となるトライもマークしたファカタヴァ。今回は母国との対戦とあり、試合前の国歌斉唱時は感情が動いたという。

「国に帰ったみたいに感じた。家族のことを思いました」

 チームは戦前、トンガウィークと銘打ち結束を図っていた。日本代表を支えるトンガ出身者が、自国の文化を皆にレクチャーしたり、歌い合ったり、名物の豚の丸焼きをふるまったりした。折しも連敗中だったとあり、あえてリラックスしながら一体感を作ったとも取れる。

 坂手が「リフレッシュして、いいマインドセットを作れた」と振り返るなか、ファカタヴァはすでに先を見据えていた。

「またさらに強くなって、来週、帰ってきます」

 8月5日は東京・秩父宮ラグビー場で、フィジー代表とぶつかる。ワールドカップの大会登録メンバー決定前最後の対外試合だ。

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