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「間合い」の攻防。日本代表・具智元、重量級相手のスクラムをどう捉えたか。

2023.07.29

トンガ戦前日、キャプテンズランでの具智元(撮影:松本かおり)


 英語を話す選手も「間合い」という日本語を使う。

 ラグビー日本代表のFW陣は、長谷川慎アシスタントコーチのもと緻密な設計のスクラムを学ぶ。

 大切なキーワードほど、英訳されない。

 組み込む際に力を入れる「丹田」。微妙な力のかけ具合に関する「塩梅」。そして、相手との距離感を指す「間合い」。いずれも、英単語で簡潔に落とし込むのが難しい領域だ。

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 7月22日の札幌ドームで、具智元はその「間合い」について考えさせられた。

 パシフィックネーションズシリーズの初戦で、日本代表はサモア代表に22-24で惜敗。試合の序盤はスクラムで圧をかけられたが、その背景に「間合い」の妙があったようだ。

 最前列の右PRで先発した具いわく、「試合前は、バインドでプレッシャーが来ると感じていたのですが…」。戦前、対するサモア代表はレフリーの「バインド」の合図で極端に重圧をかけてくると読んでいた。

 諸外国に比べ小柄な日本代表にとって、スクラムの際のベストな「間合い」は「相手を窮屈にさせる」ことだ。

 「バインド」のひとつ前の「クラウチ」の合図が出るよりも先に、相手となるたけ近い位置で低い姿勢を取る。すると「バインド」の直後の「ヒット」の時点で、向こうの最前列の背中を丸めたり、膝が浮かせたりと、押し合うにはやや「窮屈」な姿勢を強いることができる。

 今回のサモア代表戦に向けては、相手が自分たちに接近しながら組んでくるのを想定し、かつ「相手を窮屈にさせる」ための立ち位置を定めた。

 ところがいざ本番になれば、思っていたようなプレッシャーがかからなかった。自ずと相手との距離感が想定外に開き、本来目指していたような組み方ができなかった。

 サモア代表は先発FWの総重量で79キロも上回る。互いが間合いを取り、勢いよくぶつかれば、自ずと重いほうが勝る。具の実感。

「相手のセカンドプッシュ(組み合ってからの押し込み)が強くて…」

 問題点に気づき、手を打ったのは「前半の最後くらい」だったと具は振り返る。

 ベストな「間合い」を保つべく、自分たちの足の位置を「前に詰め」た。相手により近い位置で従来通りの姿勢を取ることで、それまでの「間合い」で快適に組んでいたサモア代表の姿勢を「窮屈」にできた。

 形成逆転。後半13分頃には、自陣中盤右での相手ボールをプッシュ。反則を誘い、具は雄叫びをあげた。

「いい感じで組めていたので、(サモア代表の塊が)きれいに割れた。向こうが(スクラム全体を)回そうとしてきたのにも皆で耐えられたので、よかったかなと」

 自分たちの土俵に引きずり込めば、どんな大きな相手にも対抗できる。そう確信できた。しかし、2点差で負けた。

「負けたのは残念だし、テストマッチだったので勝ちたかった。自分の(仕事の)スクラムであれば、もう少し早く(問題に)気づいて修正できればよかったと反省しています」

 29日には東大阪市花園ラグビー場で、トンガ代表とぶつかる。ベンチスタートとなる具は、出場して早々に最適な「間合い」でスクラムを組むか。

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