自分を大きく育ててくれた場所に、サクラのジャージーを着て戻ってくる。
ラグビー選手の夢のひとつだ。
日本代表のSH、流大(ながれ・ゆたか)が、7月15日(土)に熊本・えがお健康スタジアムでおこなわれるオールブラックスXV戦に背番号21で臨む。
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福岡・久留米から電車で熊本・荒尾高校に通学し、3年間学んだ。
願いが届き、花園で躍動。3年時には主将も務めた。
思い出の詰まった地でのビッグゲーム前日、流は「特別な感情を持っています」と言った。
「いま自分が日本代表でやっていられるのも、高校3年間をここ熊本で過ごしたからだと思っています。福岡で生まれ、熊本に通っていました。九州という地で、日本代表として戦えるのは貴重な機会。お世話になった方々に成長した姿を見せたい」
「ここ数年、地震や雨の影響で大変な思いをしている方も多い。ラグビーですべてを変えることはできませんが、少しでも元気になってもらえるような試合をできたら、と思っています」と続けた。
1週間前、同じ相手に6-38と敗れている。
その試合にも途中出場している流は、「アタックのチャンスに自分たちでボールを手放し、簡単な判断をしてボールを失っていた」と分析する。
それを踏まえ、「アタックに重きを置いて練習してきました」。
FL姫野和樹とHO坂手淳史が共同主将を務める2戦目。その準備過程では、先発でピッチに立つ姫野が積極的にチームを引っ張った。
流もリーダーとしてチームを鼓舞し続けた。
「練習の後半は体力的にきつい状況にもなるのですが、声を出し、エナジーが高い状態で動けるように意識しました」
「(試合中)もっと喋らないといけない。初めての試合ということもありましたが、お互いがどういうプレーをしたいとか、どういう癖があるとか、分かっていないままプレーしていました。なので、選手間のミーティングも増やしました。全員が同じ絵を見られるようにしてきた。(2戦目は)経験ある選手も増え、コミュニケーションも良くなると思います」
チームは試合前日に宮崎からバスで熊本に移動した。
到着後はそのままキャプテンズランに入らず、グラウンドへ出る前にロッカールームへ。ミーティングで「頭をクリアに」するためだ。
一人ひとり、やるべきことを明確にして戦いに挑む。
リーダーシップの強さは、流の武器の一つだ。
荒尾高、帝京大、サンゴリアスと主将を務め、チームを引き上げた実績がある。
その気持ちの強さを知るひとりが、高校時代の恩師、ラグビー部監督だった徳井清明先生だ。
先生は、現在もときどきLINEなどで連絡を取り合う間柄。リーグワンのセミファイナルでクボタスピアーズ船橋・東京ベイに惜敗した時も、先生は労いの連絡を入れた。
「いつも通りに、ポジティブな返信が来ました」と言う。
高校時代から、いつもそうだ。最上級生時には主将を務めたSHは、常に前を向いていた。
成長を続ける流の根底にあるのは「人間性」と話す。
「負けず嫌い。そして、当時からポジティブな思考習慣を持っていました。強気だけど孤立することなく、周囲を巻き込んで前へ進む。結果、自分も成長する。そういう男です」
そんな面を知っているから先生は、日本代表の中でも中心にいる現在の姿にも、「不思議ではありません」と話す。
荒尾高校は現在、岱志(たいし)高校と校名が変わり、同校ラグビー部の部員はひとりになった。
流自身が学んでいた頃と状況は大きく変わったけれど、輝き続けるSHは、荒尾高校ラグビー部の存在を、人々の記憶の中にいつまでも残し続けてくれている。
徳井先生もスタジアムへ駆けつける。
熊本の人たち、九州のあちこちから集まるファンの前で、持ち前のガッツを見せ、チームを勝利に導きたい。