ラグビーリパブリック

「Mother」に負けない愛を。東洋大タニエラ・ヴェアの覚悟。

2023.07.09

関東大学オールスターゲームでリーグ戦選抜のNO8を務めたタニエラ・ヴェア(撮影:福地和男)


 服のサイズが合わなかった。

 東洋大のタニエラ・ヴェアは7月2日、関東大学オールスターゲームのリーグ戦選抜でベンチ入りした。最初にもらったジャージィは20番。持ち場であるFW第3列のリザーブがよくつけるナンバーだ。

 ところが身長184センチ、体重125キロのヴェアにとって、オーダーメイドではない20番の1枚は小さかった。東海大のHOとして入った下江康輔が持つ17番と交換した。縦、横ともに大きなFW第1列用であれば、問題なく着られた。

 当日は前半30分から計50分、3列目の一角であるNO8でプレー。対抗戦選抜を相手に好突進を重ね、43-43と引き分けた。
 
 対抗戦選抜の加盟校は、昨季の全国4強のうち3つを占める。上位校の選手たちは勤勉で強かったと、ヴェアは振り返る。

「自分たちができることを100パーセント、出し切った試合でした。自分たちに何が足りないのか、または対抗戦の強さがわかりました」

 父が教師で姉と2人きょうだいだ。「自分は(勉強が)苦手」だったと笑う。小学1年で、トンガカレッジでラグビーと出会えた。好きなスポーツは、やがて家族を助ける手段になるとわかった。

 目黒学院中に3年から編入し、基本的な言葉を覚えてから内部進学した。全国大会出場を争う目黒学院高で活躍し、将来も日本でラグビー選手になることを目指した。

 進学した東洋大は、3年時にリーグ戦1部昇格と進歩の過程にあった。

 ヴェアがまだ2部にいた東洋大に誘われたのは、目黒学院高が練習やトレーニングマッチで東洋大のグラウンドを使っていたのがきっかけだ。

 遠征に訪れて帰路につく際、バスの入口で全ての仲間が乗るのを待っていたのがヴェアだった。その姿が、福永昇三監督の目に留まった。

 さまざまなルーツを持つ選手が集まることから「ダイバーシティ」を謳う東洋大だが、海外出身の学生はヴェアが初めてだった。「利他の心」を重んじる福永は、最初の留学生選手にはこの気遣いのできる青年がぴったりだと感じた。

 期待は裏切られなかった。

 ヴェアは昨季、3年生FLとして臨んだリーグ戦1部でベストフィフティーンに輝いた。

 攻撃のみならず、タックルとその後の素早い起き上がりといった「利他」の動きが光ったためだ。チームの大学選手権初出場も果たし、今季は、主将になった。

「チームがよくなるために、毎日、毎日、練習でチームにかける言葉が(難しい)。まぁ、慣れっすかね」

 日々、仲間を奮い立たせる大変さをこのように語ったのは、オールスターゲームの直後のことだ。

 4~6月の春季大会では、対抗戦とリーグ戦の上位3チームがひしめくAグループへ参戦。船頭役の難しさを実感するなか、5戦全敗と結果を出せなかった。

 しかし、「自分たちにとってプラスなこともあった」と前向きでもある。

 明大戦を7-102で落としたが、これもラグビーの普遍を再確認できた意味では価値があったという。

「ファーストプレーで受けて、それが80分、続いて、自分たちの強みを出せずに試合が終わりました。(終了後に)話しました。『ファーストタックル。ファーストスクラム。ここに集中する。ここで試合が決まる』と」

 今季のスローガンは「Mother」。高校2年生の頃に母のムーナさんを亡くしているヴェアに、首脳陣が提案して決めた。福永は言う。

「一日、一日を、一回、一回の練習を大切にしよう。お母さんがあなたたちに注いだのと同じくらいの愛情をチームに注げば、いいものが生まれるんじゃないか」

 ヴェア本人もその意図を理解し、クラブに「愛情」を注ぐ。夏合宿、秋のシーズン本格化を見据え、基本の動きを見つめ直したいという。

「リーグ戦で優勝するような準備をしていきたいです。いままで自分たちがやってきた細かいことを、どれだけ丁寧にできるか(が大事)です」

 卒業後に進む国内リーグワンのクラブでは、本当に第1列へ転じる予定だ。

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