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【車いすラグビー日本代表】“世界一のチーム”でパリ・パラリンピック出場権獲得!

2023.07.04

全勝優勝でパリ・パラリンピック出場権を獲得した車いすラグビー日本代表(撮影:張 理恵)


 55-44。
 日本は、世界王者の心を折る圧巻のラグビーで、パリ・パラリンピックへの切符を勝ち取った――。

 6月29日~7月2日、来年のパリ・パラリンピック予選を兼ねる「三井不動産 2023ワールド車いすラグビー アジア・オセアニア チャンピオンシップ」が東京体育館(東京都渋谷区)で開催され、全勝優勝を果たした日本が、同地域に与えられた「1枠」のパラリンピック出場権を獲得した。

 今大会には、日本(世界ランキング3位 ※2023年5月現在)、オーストラリア(同2位)、ニュージーランド(同8位)、そして韓国(同15位)の4カ国が出場し、全チームの総当たり戦を2回おこなう予選ラウンドの後、上位2チームが決勝戦に進む方式で実施された。

 2004年のアテネから5大会連続でパラリンピックに出場している車いすラグビー日本代表は、前回の東京パラリンピックでは開催国枠が確保されていたため、数年ぶりに味わうパラリンピック出場をかけたプレッシャーはひときわ大きかった。また、2017年から6年間、日本代表を指揮したケビン・オアー ヘッドコーチ(以下、HC)が健康上の理由から今大会をもって退任するとあって、精神面でのコントロールも要求された。

日本は精度の高い連係プレーが光った。左は今井友明、中央は池透暢(撮影:張 理恵)

 けれども、そんな心配は一切無用だった。
 大会前の記者会見で、キャプテンの池透暢が「日本代表のラグビーは最高レベルに到達してきている」と語った通り、精度の高い洗練されたラグビーがコートで表現された。
 日本の初戦となった6月29日のニュージーランド戦、試合が動いてすぐに、池の言葉が決して大げさではないこと、むしろ、こちらの予想をはるかに超えたものだということを知らされることとなった。

 東京パラリンピック、そして昨年10月の世界選手権と同じ12名のメンバーで臨んだ今大会、オアーHCがメンバー選考で最も重視したのが「プレーの質(クオリティ)」だった。

 アグレッシブなボールプレッシャーにスペースの使い方、パスの精度、距離感、タイミング…と、見ていて惚れ惚れするくらいの連係と技術が展開される。特に、オフェンスの起点となる「インバウンド」(ベースライン、あるいはサイドラインからコート内にボールを入れるプレー)の強化を徹底的におこなったとあって、障がいの重い“ローポインター”である若山英史の高い成功率のスローインや、コート内の橋本勝也に絶妙な距離感でボールを投げ入れる小川仁士のタイミングは、安定した攻撃のリズムを作りだした。

車いすの向きや角度にまでこだわったディフェンスを見せた倉橋香衣(撮影:張 理恵)

 今大会に向けて最も高められたことのひとつが「コミュニケーション」だと選手たちは口々に言う。
 トークを重ねながら、ボールを取る位置やタイミング、守備では2人で相手のどことどこに付くのか…等、プレーを一つひとつ完成させていった。そうして、お互いのプレーへの信頼を生み、迷わずブレない見事な連係を可能にした。
 さらに、リスクを避ける安全なプレーを選択するのが印象的だった。ターンオーバーの起きやすいパスではなく確実なラン、ロングパスではなく短いパスでつなぐ、といった意識が安定感をもたらした。
 地道で緻密な作業に取り組んだこの2カ月間の強化合宿を、オアーHCは「世界一の合宿」だと評価し、選手たちに大きな自信を与えた。

 さらに「チームの深み」と指揮官が表現する選手層の厚さ、ラインアップ(コート上4選手の組み合わせ)の多彩さが、いまの日本の強みだ。
 プレーヤーたちは障がいの程度により、障がいの重い“ローポインター”、比較的障がいが軽い“ハイポインター”、中間の“ミッドポインター”と大きく3つに分けられるが、その組み合わせによってラインアップごとの特徴、色が変わる。
 車いすラグビーでは、バスケットボールやアイスホッケーのように何度も選手交代が可能なため、ラインアップの充実さは攻撃パターンに変化をつけられるだけでなく、疲労を軽減しフレッシュな状態で戦えることになる。
 東京パラリンピックと比べると、倍以上のラインアップがいまの日本代表にはあり、ラインアップ同士のレベル差がなくなってきたことで、12人全員で戦える集団になった。

 例えば、キャプテンの池は武器である高さとプレーの信頼度から、8分×4ピリオドの32分間の試合の中で、東京パラリンピックではほとんどの試合でフル出場を余儀なくされた。しかし、今大会の決勝戦で池のプレータイムは19分30秒程だったことからも、他のラインアップの成長がHCの信頼を得たことを証明できる。

オアーHCの「プレッシャー!」の声が会場に響いた(撮影:張 理恵)

 さらに、相手がこちらのラインアップに対応する前、流れが相手に渡る前に、一気にがらりとラインアップを変え、絶対に主導権を握らせないというオアーHCの采配も光った。
 決勝戦だけでも17回の選手交代(ピリオド開始時を含む)をおこない、その中で、第1ピリオドで4点リード、前半終了時には5点差、第3ピリオド終わりには8点差、試合終了時は11点差と、昨年の世界選手権王者・オーストラリアを相手に一度もリードを許すことなく55-44の完勝を収めた。
 世界一のメンバーと、世界一の合宿で培った、自分たちのやりたい「日本のラグビー」を見せつけ、パリ・パラリンピックの出場権を獲得した。

 決勝戦。勝利を確信したオアーHCは、試合終了を待たずして目に涙を浮かべて顔を赤らめ、胸に手を当てながら、6年間ともに歩んできたチームを誇らしげに見つめた。
「一番の記憶に残るゲームになった」
 オアーHCがそう語る最後の試合は、まさにオアー・ジャパンの集大成ともいうべき試合となった。
 20年以上にわたり日本の車いすラグビー界をけん引してきたベテランの島川慎一は、「どちらが勝つかわからない試合ではなく、しっかり日本が強いということを見せつける試合ができた」と高らかに語った。

キャリア最高のパフォーマンスで優勝に貢献した島川慎一(撮影:張 理恵)
豪州のタックルをものともしない池崎大輔(撮影:張 理恵)

 表彰式では、優勝チームのメダルプレゼンターをオアーHCが務めるという粋なサプライズもあり、一人ひとりに声をかけながら、輝く金メダルを首にかけた。
「選手に対して自分は厳しい要求をしてきた。その中で選手たちはしっかりと応えてくれて、自分を信頼して、信じてくれたことにお礼を言いたい。アリガトウゴザイマス」
 HCとしての最後の言葉は、感謝の言葉だった。

 パリ・パラリンピックまで1年。
「やっといま、パリに向けてのスタート地点に立てた」と池崎大輔が語るように、パラリンピックを見据えた本格的な戦いが、いま始まった。
 キャプテンの池は、「ここに選ばれたメンバーは世界一。いますぐパリ大会があれば、間違いなく金メダルを獲れただろう。これから世界のラグビーがさらに発展してきたとしても、自分たちはそれをさらに超えて、絶対に金メダルを獲りにいきます」と力強く宣言した。

 新体制ジャパンで挑む次なる戦いは、ラグビーワールドカップと同時に、10月にパリで開催される「International wheelchair Rugby Cup」(IWRC)。世界の強豪を相手に日本がどんな戦いを見せるのか、期待が高まる。

世界一のメンバー、世界一のHCと、世界一のチーム力を見せつけた(撮影:張 理恵)

<2023 ワールド車いすラグビー アジア・オセアニア チャンピオンシップ>
【最終順位】
優勝 日本
2位 オーストラリア
3位 ニュージーランド
4位 韓国

【大会MVP】
池 透暢(日本)

【試合結果】
〔予選ラウンド〕
▼6/29 
日本 51-40 ニュージーランド
日本 53-46 オーストラリア

▼6/30
日本 70-18 韓国
日本 57-52 オーストラリア

▼7/1
日本 49-40 ニュージーランド
日本 58-20 韓国(※)

〔決勝〕
▼7/2
日本 55-44 オーストラリア

※韓国は大会途中で棄権したため、エキシビションゲームとしておこなわれた。
WWR(ワールド車いすラグビー)競技規則により、棄権した試合の結果は【1-0】で韓国の敗戦として記録される。上記は、実際の得点を反映したもの。

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