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【連載】プロクラブのすすめ⑨ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] リーグワン、これからどうなる?

2023.07.04

 日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。

 9回目となる今回は、リーグワンの将来像について語ってもらった。
 リーグワンは次の次のシーズン(2024-25シーズン)から「フェーズ2」に突入し、現行のフォーマットや試合数、制度などを見直す。いまがその議論の佳境だ。リーグはこの秋までに、新たなフォーマットなどを発表する方向で動いている。(取材日6月5日)

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――はじめにブルーレヴズのニュースから。元NZ代表で現トンガ代表のチャールズ・ピウタウ選手の加入が発表されました。

 これだけ実績のある選手が加わってくれたことを嬉しく思います。リクルートはご縁とタイミング。いまは清水建設でプレーしているお兄さん(シアレ)が、以前ヤマハに在籍していたこともあって、本人もこのチームに親和感を感じてくれていました。ちょうど日本でプレーをしたいというタイミングに当てはまったということもあります。

 FWはうちの強みですが、BKに関しては個人技で戦わなければいけないところがどうしても出てくる。そうした時に彼のスキルが必要です。ランスキルやオフロードの技術、キックパスも器用。ユーティリティな選手でもあるので、他の選手たちのケガを含めいろんな状況にも対応できる。
 われわれのチームにフィットするだろうと、コーチングスタッフと議論し判断しました。

 合流はワールドカップ後の11月を予定しています。ブルーレヴズとしては、プール戦のトンガ代表×南アフリカ代表は熱いカードですね。クワッガ(スミス)との対戦が見られますから。

――今回はオフシーズンに入りましたので、あらためて「リーグの将来像」を山谷さんに解説していただきたいと思っています。

 はい。まずはじめに、リーグの将来像を話す上で前提となる、「スポーツとは」というところまで掘り下げて話そうと思います。
 スポーツは「競争、競い合い」です。それを見て、楽しむことに価値があるので、そこにお金が発生する。
 なので、プロスポーツで一番大事なのは「試合」がおこなわれることです。この試合の価値が高ければ高いほど、見たい人が多くなる。見たい人が多くなれば、チケットがたくさん売れるし、高く売れる。放映権も広告費も高くなります。これがプロスポーツの原理です。

◾️価値の高い試合とは

 では、見る側にとって、価値の高い試合かどうかは何で決まるのか。大きく分けて3つで決まると思っています。
 ひとつは、「スポーツは競い合い」なので、どっちが勝つかわからない、予定調和がない、ハラハラ、ドキドキする試合であるか。それは中学生の野球でもプロ野球でも、競技レベルに差があっても変わりません。
 2つ目は、選手がベストパフォーマンスを出せる状況にあるか。この時の試合が一番面白いはずですよね。これにはレフリングも関わってきます。
 3つ目はどういう環境で見るか。どんなスタジアムで、どんな天気で、どんな季節で見るのか、です。

◾️リーグがやるべきこと

 これらを踏まえた上で、主催者であるリーグは何をしなければいけないのか、3つの段階に沿って、進めていくことが考えられます。

 まずはじめは、当たり前ですが「試合の組み合わせ」を作ること。何チームで、どういうフォーマットで、何試合やるのか。
 試合の面白さや選手のコンディションに直結するところです。

 その次に求められるのは、試合の価値を高めるための「ルールや制度」を作ることです。
 例えばドラフト制度やサラリーキャップ。これは勢力を均衡させて、より面白い試合にするため。
 レフリーを育てる仕組みを作ったり、1万5000人以上収容できるスタジアムを確保しなければいけないといったライセンスを設けることも、このルール作りにあたります。

 最後は、高まった価値をしっかりお金に変えて、さらなる成長に回していく「循環」を作ること。放映権のまとめ売りが、その一例です。

◾️リーグワンが次にやること

 ここまで説明して本題です。これらの内容をリーグワンに照らして、「試合の組み合わせ」から見ていくと、まずそこでつまずいている。

 現状のフォーマットは変なわけです。D1は12チームで戦うのに、16試合しかない。ホーム&アウェーでやるなら、最低でも22試合。ある一定のチームとしか2試合を戦わないのは、公平ではありません。

 次のフェーズ(2024-25シーズン〜)で変えていくのは、まさにこのスタートラインからです。いまは試合数を増やす方向で議論していて、何試合になるかを詰めている状況。
「ルールや制度」、「循環」については、次のフェーズ以降の話になるでしょう。それだけ未成熟、未発達ということです。

――2つ目にあたる、ライセンスの導入は、フェーズ2では間に合わないということですね。リーグ創設時はそうした事業面での審査が主な対象となってディビジョン分けをしたので、てっきり設けると思っていました。
*東海林一専務理事はラグマガ8月号のインタビューで、フェーズ2ではライセンスを設けないことを明言

 本来はあるべきですが、チームの運営形態が企業チームもあれば、われわれのように独立分社化してるチームもある。不揃いであるのは事実です。そこが揃うまでは、共通のライセンスは作れないのではないのかと思っています。

 ただ、BリーグやJリーグとは違う、もう少しライトなライセンスは作った方がいい。というのも、ライセンスを作るとチームの首を絞めると思われていますが、逆の考え方もできるんです。
 ライセンスがあれば、チームにとっては大義名分ができる。リーグのルールで決まっているので、「これが実現できなければリーグから離脱してしまう」と話せば、行政の皆さんも耳を傾けてくれるし、協力してくれるはずです。納得感が生まれやすいですから。
 自分たちがより高い価値を発揮するために設けられたハードルなので、いかに地域と乗り越えるか、とか、その解決策を考えていくポジティブな手段としてライセンスは見たほうがいいと思います。

――2026-27シーズンから始まる新フォーマット*に向けて、準備を進めるBリーグの各チームの進捗を見ると、その成長速度に驚かされます。
*「新Bリーグ」はこれまでの競技成績による昇降格を廃止する

 B1に入るためには、スタジアム内のVIPルーム設置義務や、今季と来季の平均観客数4000人以上、売り上げ12億円以上など、かなり高いハードル(審査基準)があります。アリーナスポーツで4000人はかなりレベルが高いです。
 ただ、これによってBリーグはこの2年間めちゃくちゃ成長しています。観客動員数は正直、びっくりするくらい増えている。(2020年度まで社長を務めた)茨城ロボッツも1000人くらい増えていました。
 乗り越えなければいけない壁や目標があると、各チーム努力するんです。ファンやスポンサー、行政が、それならば応援しようという動きにもつながる。

 なので、リーグの成長のためにはライセンスは欠かせません。
 リーグはクラブの集合体なので、何をするかはクラブの集まりで決まる。あるチームは儲けたい、一方であるチームはそこまで儲けなくていいという状況では、当然意見はまとまらない。ある方向性を定めるという意味でも、ライセンスはその役割も果たします。

――東海林専務理事は喫緊の課題のひとつとして、「スタジアムの確保」を挙げていました。ブルーレヴズだと、どのくらい苦労しているのでしょうか。

 われわれが使うヤマハスタジアムは、一緒に使うのが同じグループのジュビロ磐田ですし、社長は元ヤマハ(HO)の浜浦(幸光)さんなので、とても協力してくれます。ただ、シーズンが被る時期(2月中旬〜)になると、やはり調整は必要です。例えば、土曜にラグビー、日曜にサッカーだと難しい。芝生の状態はサッカーの方が敏感で、荒れた中でのサッカーは厳しい。
 Jリーグの日程が決まるのは年末で、リーグワンの開幕は12月初旬なので、開幕前には2〜4月の予定は決められない状況です。自分たちを好意的に思ってくれているスタジアムでさえそうしたことが起きているので、他のチームが苦労するのは間違いないでしょう。

 しかも、Jリーグは現在、秋春制(7月末から8月初旬に開幕し、12月末から約1か月の休止期間を挟んで、7月末から8月初旬に閉幕する)への移行を議論しています。そうすると、ラグビーとほとんど被る。リーグ同士で協議しないといけないですし、ラグビー側にもライセンスという”武器”がないと説得ができないと感じます。自治体にも訴えられない。
 そうなることも見据えながら考えていかないと、サッカーの方が優先順位が高いまま、スタジアムの確保はさらに難航する。対等に話し合って、お互いに試合ができる状況を作っていかなければなりません。

――そのほか、山谷さんが変えたい、変えてほしいルールはありますか。

 シーズン中にも移籍ができるようになってほしいですね。今できないのは企業チームの名残りが残っているだけだと思うので(社員選手は移籍しないのが当たり前のため)。
 選手のモビリティ(流動性)が上がれば、年俸が高騰するという課題も出てくるのですが、プレータイムを得られない選手が違うチームに移ったり、他のチームで成長を促すためにレンタル移籍させることもできる。
 われわれは将来的に、選手の育成と選手層を厚くするため、サテライトチーム(2軍=D3に所属することなどを想定)を作ろうと、真剣に考えています。いまでも(ノンメンバー同士の)B戦はありますが、下部リーグであっても、順位争いをして、結果を出さないといけないという中でプレーするということがすごく大事なんです。
 サテライトができれば、ケガ明けの選手や疲労度の高い選手を下で調整させることもできる。試合数が増えるのであれば、これは必要なことだと思っています。

PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

静岡ブルーレヴズ立ち上げの際の記事はこちら(ラグビーマガジン2021年9月号)
リーグワン2022を振り返った記事はこちら(ラグビーマガジン2022年7月号)