充実が増す王者の姿は、30度を超える過酷な状況の中でも際立っていた。
6月25日の熊谷。帝京大は関東大学春季大会Aグループの最終戦で、早大を60-21と圧倒した。
昨季のレギュラーメンバーから何人も卒業し、ピッチに立つ顔ぶれは、今年1月に国立競技場で躍動した布陣とは変わっている。
しかし、各ポジションに新しい力が出てきた。そんなニューパワーが、チームの強さを支えている。
例えば、この日10番を背負った井上陽公(ひたか)、1番で先発した平井半次郎らは、新チームに入ってからAチームで躍動している選手たちだ。
井上は4年生。京都工学院の出身だ。今季の関東大学春季大会では全4試合(明大戦は中止)に出場して3試合に先発。チームをすべて完勝の4連勝に導いた。
昨季まで、関東大学対抗戦の出場はない。
試合後の記者会見に出席した井上は、「自分たちの強みは出せたが、フィニッシュの部分にまだまだ課題が残った」と試合を振り返った。
昨季は、同じポジションに高本幹也(現・東京サンゴリアス)という絶対的な存在がいた。そのパフォーマンスについて「素晴らしいゲームコントロールでした」と話し、リスペクトしていることを伝えた。
「それを一番近くで見ていました」と言う4年生は、自身と比較して言う。
「まだまだ劣っています。もっとチームをまとめられるようにしたい。SOとして引っ張り、チームの勝利に貢献できるようなプレーができるようにしたい」と話した。
先輩のレベルに追いつくのは簡単ではないと分かっている。だから、独自性も出していきたい。
「周りを見る力と状況判断は、真似しようとしても真似できないくらいすごい。真似できるところは真似をして、できないところは、違った良さを自分の中で作れるように努力します」
Aチームの中で、強豪相手との試合を経験できることは、それ以上ないレッスンだ。春季大会での試合を通し、相手から得ることもあれば、味方から学ぶこともある。
「去年から出ている選手たちの(経験値の)大きさを感じます」と体感を伝える。
特に感じるのは、江良主将やFL奥井章仁の落ち着きと献身ぶりだ。
「人はしんどい時にその人の本当の姿が出ると思います。江良や奥井は、きつい状況でも常に周囲を見て声をかけ、チームをいい方向に導いてくれます」
自分もそうならなければ。
相馬朋和監督も、その成長に目を細める。部内の競争をさらに高めるからだ。
指揮官は、「井上は去年ジュニア選手権の全試合で10番を務めました。安定したゲーム運びが特徴です」と、その持ち味を紹介した。
そして、この日はFBでプレーした3年生の小村真也について、「皆さんも見ていて感じるように、ワクワクするようなプレーをする」と続けた。
「(井上、小村の)ふたりが(同時に)グラウンドにいることがチームにとってプラスとなっています。しかし、これが江良の率いるチームの完成形かと言ったら、そうではないと思います」
「井上自身が先ほど言ったように、もっと成長しないといけない。それがすべて。成長していければ(この先も)井上が(10番を)着るし、そうでなければ、別の選手が出てくる。みんなで成長していきたいですね」
PRの平井は御所実出身の3年生。高校時代はLOとして活躍していた。大学1年時もセカンドローでプレーした。
相馬監督も、「フィールドプレーが良かった」と評す。フロントローをやってみないか、と声をかけて転向が決まった。
フロントローでプレーするための体作りから始めた。現在は、180センチ、108キロの体躯を誇る。
スクラムの練習を積み、昨季はジュニア戦などで経験を積んだ。この春からAチームに入り、春季大会に出場。4戦に出場し、3戦で先発した。
HOとしてスクラムのとなりで組む江良主将は、平井の成長を肌で感じている。
「自分で、すごく考えだしています。そこに成長を感じます。以前は、僕や上杉(太郎/4年/3番)から聞くだけでした。でもいまは、自分ではこう考えているのですがどうですか、と質問の質が変わりました」と話す。
「そんなふうに変化してきたから、チームにフィットしてきたと思います。平井のことは、横でやっていて、どれだけすごいか分かっています。その力を、僕や上杉、チームでもっと引き出していきたい」
王者の中では、いろんなポジションで、同じようなことが起きているのだろう。