決戦の時がきた。
6月29日(木)~7月2日(日)、「三井不動産 2023ワールド車いすラグビー アジア・オセアニア チャンピオンシップ」(以下、AOC)が東京体育館(東京都渋谷区)で開催される。
来年のパリパラリンピック・地域予選を兼ねる今大会では、優勝した1チームのみにパラリンピック出場権が与えられる。そのわずか「1枚」の切符をかけて、日本(世界ランキング3位 ※2023年5月現在)、オーストラリア(同2位)、ニュージーランド(同8位)、韓国(同15位)の4か国がしのぎを削る。(当初、出場を予定したタイ代表は辞退)
車いすラグビー日本代表にとって、この「パリパラリンピック出場権」の獲得こそが、今年最大の目標だ。日本はこの大一番に、東京パラリンピックと昨年の世界選手権と同じ12名のメンバーで挑む。
開幕まであと2週間となった6月14日、ケビン・オアー ヘッドコーチ(以下、HC)と日本代表選手が、AOCに向けた「日本代表オンライン記者会見」に臨んだ。
はじめに、オアーHCは今回のメンバー選考について、このように語った。
「今大会での目標はAOCで勝ってパリパラリンピックの出場権を獲得することだ。その目標を達成するには『質』を揃えなければいけない。東京パラリンピックと世界選手権という直近の主要大会で戦ったこのメンバーは充分なクオリティーを見せてきた。パリの出場権を獲得するにあたって、そこが一番重要になると考えた」
その上で、「4月と5月におこなった2回の強化合宿は、2017年に私がコーチに就任して以来、一番よい内容の合宿になった」と続けた。
18名の強化指定選手を招集し、オフェンスとディフェンスの精度を高めて効率性をあげることにフォーカスしたという。その過程で育成選手の成長も見られ、日本代表の選手層の厚さを確認し、AOCに向けたいい準備ができたと手応えを口にした。
日本代表キャプテンの池透暢は、「日本チームは今、最高レベルに到達してきている」と、これまでにない表現でチームの状況を述べる。
そして、ディフェンスの要となる(障がいの重い)ローポインターの今井友明も「東京パラリンピック、世界選手権と同じメンバーではあるが、まだまだこれだけ伸びしろがあったのかと思うほど、世界選手権と比べてもかなり伸びていて成熟度も増している」と堂々と語る。
強化合宿では、日本が課題としてきた、オフェンスの起点となる「インバウンド」(ベースライン、あるいはサイドラインからコート内にボールを入れるプレー)の改善に努め、あらゆるシチュエーションを想定した連係の強化が徹底的におこなわれた。コート内の「受け手」側だけではなく、ボールを投げ入れる「インバウンダー」も、どの選手がどのくらいの成功率でボールを供給できるのかということにまで拘り精度を追求したという。
また、オアーHCが、かねてより重視している「メンタルタフネス」の強化にも取り組み、スポーツ心理のスタッフを採用し、プレッシャーのかかった状況の中で一貫した成功率を保つための集中力を鍛えた。ただ、「余分なプレッシャーはかけすぎないようにしたい」と指揮官が言うように、「自分たちのラグビー」をするため、“オアー・ラグビー”の原点でもある「楽しむ」気持ちを忘れないことも、勝利へのカギとなるはずだ。
日本にとって、大きな壁として立ちはだかるのがオーストラリアだ。
パラリンピックではロンドンとリオの2大会連続で金メダルを獲得し、昨年の世界選手権では王者奪還を果たして世界チャンピオンに輝いた強豪だ。昨年の世界選手権でMVPを獲得したライリー・バットと、キャプテンのクリス・ボンドを軸に、フィジカルを活かした「Steelers(スティーラーズ)」の愛称のごとく力強い攻撃を仕掛けてくるのが特徴だ。
東京パラリンピック後は、女性選手の起用や、2032年に自国で迎えるブリスベン・パラリンピックに向けた新人の発掘や育成にも積極的に取り組んでいる。今大会に向けては、昨年の世界選手権出場の12名のうち10名がメンバー入りしており、その中には、肩のリハビリを経て8か月ぶりに代表復帰したライリー・バットも含まれる。
まさに「最大のライバル」であることに間違いはないが、東京パラリンピック以降(※パラリンピックを含む)の日本との対戦成績を見ると、日本が6勝0敗としている。特筆すべきは、世界選手権でオーストラリアが戦った、予選から決勝までの全8試合のうち、唯一黒星を喫したのが、予選ラウンドでの日本戦だった。言い換えれば、日本だけがオーストラリアから勝利を収めたのだ。とはいえ、一瞬たりとも気の抜けない接戦になるのは必至であるが、この「勝ちグセ」がメンタルにポジティブな影響をもたらすことを期待する。
さらに、日本にとっては“ホーム”という大きなアドバンテージがある。
大応援団の声援が、キツくてつらい時、諦めかけた時、車いすを押すパワーを与えることだろう。
「応援が力になる。一方で、負けられないというプレッシャーもすごい。しかし、そのプレッシャーは僕らを強くするものでしかない」
キャプテンの池は表情を引き締め、12名のメンバー全員が、力の限りを尽くすことを誓った。
もちろん、オーストラリアだけではない。「ホイール・ブラックス」の愛称をもつニュージーランド代表によるハカ、新たな歴史を刻もうと奮闘する韓国代表と、見どころ満載の大会となりそうだ。
全試合入場無料。そして、大会記念グッズの販売や、試合の合間には車いすラグビー体験会も予定されているので、ぜひとも会場で、車いすラグビーを全力で応援し、全力でその魅力を感じてほしい。
【2023アジア・オセアニア チャンピオンシップ 車いすラグビー日本代表】
倉橋 香衣 0.5F
長谷川 勇基 0.5
今井 友明 1.0
小川 仁士 1.0
若山 英史 1.0
乗松 聖矢 1.5
中町 俊耶 2.0
羽賀 理之 2.0
池 透暢 3.0
池崎 大輔 3.0
島川 慎一 3.0
橋本 勝也 3.5
※ 数字は障がいの程度や体幹等の機能により分けられるクラス(持ち点)。数字が小さいほど障がいが重いことを意味する。
※ 「F」は女性選手。