今年5月以降のオフシーズンは、故郷でリフレッシュしながらもトレーニングを続けた。
身体がなまらないようにした理由のひとつは、ビッグイベントを控えているからだろう。
ニコラス・マクカランは、6月12日からの約3週間、ラグビー日本代表の浦安合宿へ挑む。在籍する東芝ブレイブルーパス東京所属の代表経験者から、こう耳打ちされているらしい。
「トレーニングはタフになるので準備しとけよ、とは言われました」
2016年秋に始まったジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ体制の日本代表は、段階的にチームを作り上げてきた。信頼するメンバーを、強豪国との実戦や高強度の練習で鍛えた。
4年に一度のワールドカップは今秋、フランスでおこなわれる。チームにとってのターゲットが刻一刻と近づくなか、チャンスメーカーとなるCTBの枠へ新顔が立候補した。それが通称「ニック」だ。
キャンプ前にブレイブルーパスが開いたオンライン会見で、声を弾ませた。
「ワールドカップへ行ける可能性があることに、わくわくしています。(国内で)ベスト中のベストの選手たちと一緒にプレーできるのは嬉しく思います」
かねて選出が待たれていた。国内リーグワンのシーズン中だった3月下旬、常連組を含めた日本代表候補のミーティング合宿に参加した。以後は定期的に、同代表のコーチ陣から公式戦のフィードバックをもらった。
「まず、(3月に)最初に大きなスコッドへ入る可能性があると聞き、驚きました。ワールドカップイヤーに新しく選手を入れることはないと、勝手に思っていましたから。これからチームメイトになるであろう皆さんもよくしてくれる。これから楽しみです。(代表首脳陣からは)助言を受けています。自分の場合はディフェンスで。タックルには行くけれど、そこでもっとドミネート(相手を圧倒)できるようにして欲しい、と」
身長189センチ、体重94キロの27歳。国内にあっては恵まれたサイズを誇りながら、パワーだけに頼らない。
防御の死角へ駆け込み突破を図ったり、タックラーを引き寄せながら基本に忠実なパスを繰り出したり。
アマチュア時代、手本にした選手がいる。コンラッド・スミスだ。技巧と運動量に長けた元ニュージーランド代表CTBで、2015年まで3度のワールドカップに出た職人である。マクカランは語る。
「常に憧れていました。ワークレート(仕事量)、ディフェンス面でもミスをしないところ。そうした一貫性があります。私と似た部分も、あると思っています」
出身はトコロア。ニュージーランド北島はワイカト地方の都市、ハミルトンから南東へ「車で1時間くらい」で行ける町だ。
元ニュージーランド代表のリチャード・カフイら、名選手を輩出した場所でもある。ここでニックは5歳から楕円球を追った。
「毎朝、霜が降りているところに裸足で駆け回ってやっていました。常に楽しくてしょうがなかった」
来日は2017年。2つ上の兄のブロディがNO8、FLでプレーする帝京大へ入った。初年度は大学選手権9連覇を果たし、「ファンにもよくしてもらった」ことで日本代表を目指したくなった。
3年目には、ラグビーワールドカップ日本大会に触れた。
2019年10月13日、神奈川・横浜国際総合競技場。日本代表が初の8強入りを決めるスコットランド代表戦を、現地で観戦した。
両WTBの福岡堅樹氏と松島幸太朗が快足を飛ばしてトライを決めるなか、マクカランは両CTBにインスパイアされた。中村亮土、ラファエレ ティモシーの技術と献身ぶりに惹かれた。
これからは、自分がそのような役目を担えたら最高だ。
2021年にブレイブルーパス入りのマクカランは、入ったばかりの日本代表のスタイルを好意的に捉える。
「(日本代表は)わくわくするエキサイティングなラグビーをしている。パスを展開する自分にも合っていると思います」
ニュージーランドでのトレーニングは、顔がそっくりな兄のブロディも一緒におこなった。
ブロディは今季、移籍して入ったリコーブラックラムズ東京で持ち味の勤勉さを発揮。空中戦、地上戦を支えたが、今回の日本代表入りは叶わなかった。弟はしみじみと語る。
「こちらから直接その話題を出すことはありませんが、兄は自分が選ばれたのを嬉しく思ってくれた」
堅実なスキルとハードワークを貴ぶ心。マクカランらしさは、日本代表らしさとも重なる。