2023年度のスーパーラグビー・パシフィックは、レギュラーシーズンを終えて8強が決まり、いよいよノックアウトステージが始まる。準々決勝の4試合は、6月9,10日の2日間で開催される。
いちばんの注目は、ブランビーズ×ハリケーンズの対戦になるだろう。
今季の8強は、ニュージーランド(以下、NZ)からチーフス(1位)、クルセイダーズ(2位)、ブルーズ(3位)、ハリケーンズ(5位)の4チーム。オーストラリアから、ブランビーズ(4位)、ワラターズ(6位)、レッズ(8位)の3チーム。そしてパシフィックのチームからは、フィジアン・ドゥルアが2年目にして初のプレーオフ進出を勝ち取った。
ドゥルアは、レギュラーシーズン最終戦でレッズに41−17で圧勝し、7位に食い込んだ。今季6勝を挙げて大きく飛躍した。
準決勝翌日の6月18日、NZではオールブラックスのメンバーが発表される。
選手がアピールできるのは残り2試合。ノックアウトステージの勝敗も注目されるが、ワールドカップ(以下、W杯)イヤーだ。個々の選手のパフォーマンスが非常に気になる。
スーパーラグビーが大詰めを迎え、NZ国内のスポーツニュースではTV、ラジオともにスーパーラグビーの話題が活発になってきている。
NZ勢を中心に準々決勝の4試合の展望をしてみたい。
◆ブルーズ × ワラターズ
ノックアウトステージは6月9日(金)にキックオフとなる。まず、ホームのブルーズがオークランドでワラターズを迎える。
4月22日のレギュラーシーズンでの対戦は、55−22でブルーズが圧勝しているカードだ。
今季のブルーズは、昨季のレギュラーシーズン13連勝(開幕戦を落としたのみ)の勢いは感じられないが、しっかり3位につけてきた。キックのオプションにこだわっていた感があり、決定力のあるBKを活かし切れていなかった。
しかし終盤になってゲームプランを昨季の高速ラグビーのスタイルに戻し、勢いが出てきた。
準々決勝は、足のケガでWTBケイレブ・クラークが欠場、そして先週の試合で手の骨折が判明したパトリック・トゥイプロトゥの離脱は痛いが、WTB、AJ・ラム、LO/FLトム・ロビンソンの能力の高い選手でカバーする。
アキレス腱付近の深い切り傷のケガが心配されていた司令塔のボーデン・バレットは、急所が外れていたため、長期の離脱とはならず準々決勝に間に合った。
対するワラターズは、マイケル・フーパ—を筆頭にワラビーズの選手も何人かいてメンバーは悪くない。しかし先週、モアナ・パシフィカに今季初勝利を献上するなど、シーズン途中でもアップダウンがあった。いまいち波に乗れていない。
主力にケガ人が出ているものの、ブルーズの先発メンバーにオールブラックスの選手は9人並ぶ。ひと際目立つWTBマーク・テレアの存在は相手には脅威か。
ベンチも豪華でオールブラックス以外の選手の能力も高いことから、ブルーズの勝利は固いだろう。
◆チーフス × レッズ
第2試合は、今季、攻守ともに安定感抜群のチーフスがホームのハミルトンでレッズを迎える(6月10日)。
5月12日のレギュラーシーズンでの対戦時は、25−22でレッズが勝利してチーフスに唯一黒星を付けた。
主力を休養させたチーフス相手だったとはいえ、NZ国内(ニュープリマスで開催)での勝利だっただけにレッズには力がある。今回、ハミルトンで下克上の再現はあるだろうか。
しかしレッズに敗れた後のチーフスは1週間で修正し、強敵のハリケーンズ、ブランビーズに勝った。主力を休養させた最終節も良いパフォーマンスを見せ、ホームに強いフォースに圧勝した。敗戦が良い薬になったようだ。
今季のチーフスは、レッズ戦以外はしっかりと試合をコントロールしている印象がある。選手層の厚さも魅力的だ。
司令塔のダミアン・マッケンジーのゲームメイクが抜群で、バックスリーの能力も高い。W杯イヤーのオールブラックス入りが期待されているWTB/FBのショーン・スティーヴンソン、WTBエモニ・ナラワの決定力がチームを勢いに乗せる。
今回は、ほぼベストメンバーのチーフスがリベンジに燃えており、勝利は固そうだ。
◆クルセイダーズ × フィジアン・ドゥルア
第3試合は、ホームのクルセイダーズがクライストチャーチでフィジアン・ドゥルアを迎える(6月10日)。
3月11日のレギュラーシーズンでの対戦では、25−24とドゥルアのアップセット勝利。クルセイダーズがベストメンバーではなく、フィジー開催で気候的にドゥルア有利だったという奇異系はある。
しかし、昨年の王者を破ることは容易でない。ドゥルアの力を感じさせる勝利だった。
ただドルアは、フィジーでの開催では強さを見せているが、遠征になると分が悪い。今回は寒いクライストチャーチでの開催だ。
寒さが苦手なパシフィックの人々にとって、ゼロ度に近い気温は厳しい条件になりそうだ(昨シーズンの終盤に対戦した時も寒い中でのクライストチャーチでの試合はクルセイダーズが圧勝)。
勢いに乗っているドゥルアではあるが、今回の対戦でアップセット勝利を手にするのは厳しい。
クルセイダーズでは、LOのサム・ホワイトロックがアキレス腱に違和感があって欠場となる。これは、ニュージーランドのメディアを騒がせた。ワールドカップを控えているだけになおさらだ。
2週間前にケガで退場したCTBデイヴィット・ハヴィリ、NO8カレン・グレースのレギュラー陣の離脱も先日発表された。
しかし今季のクルセイダーズは、多数のケガに泣かされながらもレギュラーシーズンを2位通過した。層の厚さと底力には驚くばかりだ。苦境を乗り越えた事でチームは成長した。
ケガ人は多いが、嬉しいニュースもある。
シーズン途中にケガで離脱していたFL/NO8のイーサン・ブラカッダーが復帰し、この試合でベンチ入りを果たした。大物の復帰はクルセイダーズにプラスとなる。オールブラックスの6番もまだ決まっていない。代表ヘッドコーチも注目するだろう。
◆ブランビーズ × ハリケーンズは、準々決勝の大一番!
準決勝最後の試合は、ホームチームのブランビーズがキャンベラにハリケーンズを迎える(6月10日)。
4月28日のレギュラーシーズンの対戦は、32−27でハリケーンズが勝利している。
ブランビーズは、シーズン途中まで抜群の安定感を見せつけて今季は頂点を狙えるかと思わせた。
ただW杯イヤーという事もあり、ワラビーズ勢の休養を意識しすぎてチームの勢いが感じられなくなったことは否めない。
シーズン終盤に入ってフォースに19−34と敗戦。ほぼベストメンバーで挑んだチーフス戦では21−31と敗れるなど、ブランビーズらしさが感じられなかった。
このまま黙っているはずがないブランビーズは、代表勢を中心に豪華なメンバーで準決勝に挑む。
持ち味である安定感抜群のセットピース(スクラム、ラインアウト)を強みに戦うことができれば、勝利は固いのではないか。
ただ最終節でクルセイダーズを破ったハリケーンズも、かなり手強い相手だ。
シーズン通してラインアウトが不安定で、ときにはチャンスをつぶし、その結果、大事な試合をいくつか落とした。しかし、大ベテランのデイン・コールズの復帰で課題解消。クルセイダーズを撃破した。準々決勝でもコールズは2番で先発する。
ハリケーンズの注目のセレクションはFW第3列だ。NO8にブレイデン・イオセを抜擢した。
この選考について、ジェイソン・ホランドヘッドコーチは、「先週見たように、彼(イオセ)はパワフルでフィジカルな選手。我々は彼がボールを手にして何ができるかを見てきたし、週末にキャンベラで再び力強いパフォーマンスを披露するのを見たいと思っている」と語った。
ブレイクダウン、ディフェンスで大活躍しているデュプレッシー・キリフィをベンチ(7番アーディー・サヴェア)にしてまでイオセのダイナミックなプレーにかける意気込みが伝わってくる。
BKに目を向けると、カム・ロイガード、ブレット・キャメロンのハーフ団が注目だ。
シーズン途中にケガで離脱したキャメロンが先週から先発に復帰したのは大きい。キッキングゲームを含むゲームメイクが抜群で、豪華なハリケーンズのBK陣をうまく活かしている。 イオセ、ロイガード、キャメロン、そしてコールズのパフォーマンスに注目したい。
キャンベラでブランビーズに勝つのは容易でない。しかし、勢いに乗っているハリケーンズならやってくれるかもしれない。
激戦になる事は間違いないだろう。楽しみだ。