2023年4月5日から9日まで、アルゼンチン 第2の都市コルドバにて、第2回世界デフラグビーセブンズ大会が開催された。デフラグビーとは、聴覚に障がいを持つ人のためのラグビーである。障がいの幅が広いのが特徴で、手話を日常言語とする「ろう者」や、補聴器をつけて口話で話す難聴者が混在する。今回のコルドバ大会は、2018年のシドニー大会に続き2回目。リポートの3回目は、大会で笛を吹いたレフリーの目線。
今大会では、レフリーとして3試合を担当しました。初日が2試合、2日目が1試合、最終日は0試合。レフリーのほか、アシスタントレフリーは5試合、インゴールジャッジが1試合でした。
初日のレフリングは、やはり緊張しました。周りが見えておらず、アシスタントレフリーとうまく連携が取れませんでした。2試合目はスクラムに時間をかけてしまい、セブンスらしくないゲームになってしまったのが反省。デフラグビーは一般のラグビーとは違い、レフリーの手をコールの代わりとしてエンゲージします。他のレフリーの方々からレビューをもらい、それをもとに初日の試合映像を振り返り、2日目に臨みました。
2日目のリフリーは準々決勝の1試合のみでしたが、初日の反省を意識してゲームに挑み、私なりに良いジャッジができたと思います。3日目の決勝戦では、審判団の一員に関わらせて頂きました。
決勝戦のカードは、ウエールズ対オーストラリア。私がデフラグビーの選手であった頃、15人制、7人制ともに試合をしたことがある国同士で、内容的にも良い試合でした。
私がレフリーを志すきっかけとなったのは、高校時代の恩師からレフリーをやってみたらどうかと言われたことでした。
それまでの14年間はデフラグビー選手として、メンバーと一緒に汗を流し、世界大会での優勝を目指して頑張ってきました。レフリー転向は4年前。それ以来、デフラグビーの世界大会を目標にしてきました。居住地は埼玉ですが、茨城県所属で活動しており、レフリーコーチをはじめ各チームの皆様のサポートのおかげで、さまざまなカテゴリーにかかわらせていただき感謝しています。
ラグビーに限らず、障がい者スポーツの審判は、健常者が担当しているケースがほとんどかと思います。
私のように、選手と同じ障がいを持つ者が、レフリーを担当することで、障がいを持つ子どもたちや、レフリーをやりたいけど踏み出せない人たちの後押しに少しでもなればと願っています。
もちろん苦労もあります。聴覚障がいにおいては、コミュニケーションが壁となります。ラグビーの場合、カテゴリーが上がるとインカムでのコミュニケーションが必要です。勝敗に関わる重要なやりとりが行われるので、難聴者である私はいつも苦労しています。
約1年前、この大会でレフリーをさせてもらえないかと依頼しました。返信は、ありませんでした。これまでの苦労を無駄にしないために、現地で直談判するしかないと腹を括りました。自腹での渡航を決意しました。大会10日前のことです。そこから自分で航空券を手配したり、必要な書類を集めたりと大変でした。1人で地球の裏側まで行くのはそれなりの覚悟が必要ですね。
今大会にて痛感したのは、英語の必要性です。
ある程度英語が話せないとやっていけません。試合以外では他のレフリーを見て勉強したり、コミュニケーションを取ってアドバイスをもらいました。私自身の課題が見えてきたので、今回得た経験を次の世界大会に繋げながら、次世代のデフレフリーの育成にも力を入れていきたいと思います。(連載終わり)
NPO法人 日本聴覚障がい者ラグビー連盟オフィシャルウェブサイト
https://deaf-rugby.or.jp/
前回大会(2018年)のレポート
https://deaf-rugby.or.jp/special/world-deaf-rugby-7s/wdr7_2018/
筆者PROEILE/柴谷晋 (しばたに・すすむ)
元デフラグビー日本代表、今大会は英語通訳、分析として遠征に同行。著書に「静かなるホイッスル」(新潮社)など。同書は、日本デフラグビー創設から2002年の世界大会での初勝利、セブンズ大会準優勝までを描いたノンフィクション作品。大田東京ラグビーアカデミー代表、’23年4月より武蔵野横河アトラスターズ アカデミーヘッドコーチ。リーグワンチームでアナリストを務めた経験を元に、ラグビーマガジン誌上での分析記事や、チーム向け分析指導もおこなう。