都内にキャンパスを置く国公立大の大会、2023年度は有観客(事前申し込み無し)で開催されている。6月3日、4日の週末は準決勝2試合がおこなわれ、東京学芸大が東京大を34-12、一橋大が昨年度優勝の東京都立大を42-19で下し決勝へ進んだ。両校の対戦は記録にある2016年から19年まで4年間連続で。学芸大が’16,’18、’19年と優勝を飾った。またコロナ禍の’21年は交流戦として対戦し、学芸大が52-10で制した。
決勝戦は6月11日、学芸大グラウンドで有観客のもと14時15分キックオフだ。
「学芸大、風下の前半がまんで勝機をつかんだ」
東京学芸大vs東京大。6月3日、台風2号の影響で朝方まで暴風雨が吹き荒れた。午後は強い日差しが戻るも強風は残っていた。
ホームの学芸大が「風下」のエリアを選択した。「前半はがまんしていこう」(岩本悠希監督)
試合は言葉通り前半からがまんの時間になった。2分、東大が学芸陣でスクラムを得るもディフェンスがからみボールを出させない。東大がオフサイド。学芸大のタッチキックは長距離を蹴ることができる1年生SO佐々木幹太(秋田中央)、FB岡田喬一(4年、桐蔭学園)も風下で自陣内の外へ出すのがやっとだった。7分、東大がハーフライン内の左ラインアウトから攻めるも学芸大NO8甲川敬浩(3年、都武蔵)がタックルでノックオンに仕留めた。3分後、甲川は東大ボールのブレークダウンでノットリリースを得て東大の先制を許さなかった。
学芸大は敵陣が遠い。17分、ようやく22メートル右ラインアウトから攻撃するもFB岡田からSO佐々木へのパスがスローフォワードになる。
ウォーターブレーク後、20分から30分にかけて東大が再び学芸ゴール前で仕掛けるが、「前半はがまん」と学芸大主将のLO安達航洋(桐蔭学園)が仲間に呼びかけた。
35分過ぎ、東大が学芸大に危険なタックルを浴びせる。学芸大は東大ゴール前5メートルの左ラインアウトへ。ここで身長190センチの安達主将と兄で187センチ右LO安達拓海(院2年、桐蔭学園)の「安達ツインタワー」が機能した。東大は安達兄弟の高い位置でのボール確保からモールを警戒する。学芸大は、低い弾道のボールをラインアウトへ投じた。これを安達主将が胸で受けてそのまま左中間インゴールへ飛び込んだ。コンバージョンは失敗も5-0と先制した。
風上の後半は学芸大が東大ディフェンス網を切り裂いた。3分、中央付近のスクラムからSH北澤陽斗(3年、茗渓学園)が持ち出し45メートルを駆け抜けポスト左、インゴールへ運んだ。FB岡田も楽々、コンバージョンを決めた。3分後、ラインアウトから継続すると岡田がファイブポインターになる。
東大円陣ではCTB西久保拓斗主将(4年、開成)が「プライドを持とう」と鼓舞する。しかし12分には学芸大が自陣スクラムからフェーズを重ねると、HO内田隼平(3年、横須賀)がチーム4本目のトライを奪い24-0と大きくリードした。
東大はリスタートで学芸大のノットリリースを誘い左ラインアウトへ。モールで押し込みHO安富悠佑(4年、水戸第一)がようやく5点を奪った。その後、両校が1トライずつ記録、最後は37分、学芸大SO佐々木がPGを決めて34-12で終えた。
公式戦デビューの学芸大SO佐々木は、「前半、ボールを回せていたが、うまくゲインにつながらなかった。東大のディフェンスに合わせていた感じです。後半はコーチから『スペースがあれば自分でアタックして』と言われたのでランもできました」と振り返った。
岩本監督は人数不足の中の勝利を称えた。「なかなか対人の練習ができない。前半は相手の激しいあたりに負けていた。しかしディフェンスで耐えて完封したことが大きい」
敗れた東大、LOで先発した2年生、領木彦人(げんと)は試合後、クールダウン中も涙を隠さなかった。出身校は父親の仕事で韓国ソウル外国人学校だ。「とにかく負けて悔しいです」。日本に住んでいた幼少のころにラグビースクールで楕円球に触れるも以後は海外で過ごした。「韓国でもタッチフットを数回したくらい」。ようやく大学で本格的にラグビーに取り組んでいる。「勝つというプライドを持つ」、涙は真剣さの証か。青山和浩監督は「これが今の実力です。ディフェンスが機能しなかった」。東大はこれから早大、明大、立大などとの定期戦が続く。敗戦を糧に秋の対抗戦B優勝へ鍛えていく。
「一橋大が6連続トライ42-19で前年王者・都立大の連覇を閉ざす」
6月4日、この日も前日につづき30度近い暑さながらグラウンドにはやや強い風が吹いていた。やはりホームの東京都立大が風下のエリアを選択。
前半の入りで一橋大は反則を繰り返してしまった。7分、自陣22メートル内のマイボールスクラム、都立大が押して一橋大がノットロールアウェーを取られた。都立大が右ラインアウトから攻めると続いてオフサイドを犯す。8分、都立大のラックからFL新山昂生(3年、國學院久我山)が先制トライを右隅へ奪った。新山は1年時に入部も、一時離れて3年になり戻ってきた。
11分には一橋陣でノットロールアウェーを取られて都立大のラインアウトに。得点はされなかったが、17分も都立大NO8中原亮太(3年、湘南)がブレークダウンでノットリリースを誘った。
試合に慣れてきた20分すぎから一橋大に流れが出てきた。21分、都立大が一橋大のキック処理をミスし、一橋ボールのゴール前5メートルのスクラムにつながる。スクラムを押すと後ろについたSH鈴木譲(3年、県浦和)がポスト右へ同点トライ、コンバージョンを1年生FB松尾尚寛(神戸)が成功し、7-5と逆転した。
前半残り10分で敵陣ゴール前、一橋大がスクラムからNO8高田康世(2年、桐朋)が持ち出すも絡まれて追加点にならず。しかし40分、同じ形でスクラムを押すと、高田が仕留めた。コンバージョンは松尾が決めて14-5に。
八王子市内の山を切り崩し整地した都立大グラウンド。後半、風向きは微妙に変わり一橋大有利に。一橋大がその流れを放さなかった。14分、左サイドから右へのパントを受けたCTB内村颯太(2年、福山)、22分はルーズボールからフェーズを重ね1年生WTB榊原悠仁(小倉)がインゴールへ運んだ。
リスタート後、都立大へ衝撃なことが起きた。ランで進む一橋大ランナーへ都立大がダブルタックルを仕掛ける。ここで主将のPR船津丈(4年、仙台第三)と1年生SO新井航(川越)が頭をぶつけ、船津は出血、新井は脳震盪でピッチを去った。リザーブが3名の都立大は苦しい状況へ。
30分、34分と一橋大SH鈴木が連続トライでハットトリックを記録。前半から6連続トライとなり、42-5と試合を決めた。SO松尾はゴールキック6本をすべて成功。大きな得点源になっている。
都立大は38分、敵陣で反則を得るとタップからアタックし、FL新山が2本目のトライを返す。さらに終了間際、一橋大が7本目のトライを狙ったラインアウトで投入されたボールを奪うと、船津に代わって入った2年のオリモブ・ムハマド・オリム(日大藤沢)がつなぎ最後はNO8中原が右隅へ意地のトライを決めた。オリムはウズベキスタン出身、1年時はウェートで体力をつけて2年生でラグビー部へ。「トライに貢献できた」、中学3年以来、遠のいていた楕円球に向き合う。
一橋大は先発15名中、FW1、BK3名が1年生。リザーブにも3名が名を連ねた。4月に足首を負傷しリハビリ中の主将、村山直人(湘南)はピッチの外で仲間を見守った。「前半の入りが悪かった。規律が保てず。(立て直した後は)鈴木のPKでのクイックスタートなどが効いた。体の大きい相手の時は止められることもあるので注意しないと。1年生、SO松尾もよかったし榊原もトライを取れた」
都立大は今季11名の1年生が選手で入部した。数少ない経験者中、LO米倉慶一郎(北海道、北嶺)、SO新井、インサイドCTB萩原唯斗(國學院久我山)が先発。萩原が話す。「ディフェンスでがつがつ入ることができた。キャプテンと新井が抜けた後、12番としてチームを回さないといけなかった」と自身の課題を見据える。