日本一になっても課題ばかりだったという。
東福岡高ラグビー部の主将として昨季の全国高校大会を制した大川虎拓郎は、その約4カ月後、「優勝はチームのものなので、個人としてはしっかり反省しています」と振り返る。
「キャリー(突進)、タックルの回数は少なかったですし、タックルに至っては成功率も低かった。選手として成長できなかった、悔しい1年間でした」
年度末には、高校日本代表としてアイルランドに遠征していた。同国の同世代代表から白星ももぎ取ったが、本人は強豪国との「体格の差」を実感した。
身長186センチの身長は簡単に変えられないにしても、93キロの体重は努力次第で増やせる。
この春から明大へ進むにあたり、決意していた。
「大事なことはサイズアップかなと」
チームもこの「サイズアップ」を検討課題にしていた。
5季ぶり14度目の大学選手権制覇を目指すなか、肉体強化部門のテーマは「獰猛明治」。ノーサイドの瞬間まで走り、当たり勝つイメージか。
4年生PRの中山律希によると、選手の動き全般を管轄する里大輔パフォーマンスアーキテクトが走り込みのメニューで「異常な設定タイム」を提示。各部員は「絶対、入られへん(クリアできない)」と唖然としながらも合格に挑む。必死に続けるうち、パスできるようになる。
ルーキーの大川は、組織の基本方針に沿って自らの課題と向き合った。
高校時代と比べて格段に増えた「自分の時間」を自主トレとリカバリーに充て、入寮からの約2カ月で体重は約5キロ増。現在は「98キロ」だ。
「ウェイトの数値もだいぶ、あがりました」
何より、短期間で身体を大きくしながら機動力は保つ。「明治のランフィットネスはきついので、それで走れるようになりました」とのことだ。
待望の公式戦デビューは5月28日。山梨のJITリサイクルインクスタジアムで、関東大学春季大会Aグループの東海大戦に後半31分から出場した。
前日には互いの控えチーム同士のカードに先発し、45-24で勝っていた。この日はわずか9分間ながら主力のバトルを経験し、「(AとBの間でも)全然、レベルが違う」と感じたというが、コンタクトシーンでは引けを取らなかった。
34分頃には、相手ボールスクラムの脇でLOの佐藤大地、NO8の木戸大士郎とチョークタックルを決めた。自軍スクラムを勝ち取った。
神鳥裕之監督は驚く。
「彼はこの数カ月でよくなりました。最初はフィジカルの壁にぶつかっていたのですが、この2カ月くらいで努力して急速に力をつけました。そこが彼の凄いところです」
本人は、6月3日の帝京大戦(静岡・エコパスタジアム)を見据える。
「しっかりリカバリーして、練習からアピールして、次の帝京大戦でもメンバーに入りたいです」
ちなみに明大のファーストジャージィは紫紺と呼ばれ、1年生が手洗いする。
「洗剤ポール」で全体を洗い、「ウタマロ石鹸」で細かい汚れを落とす。終わったら「ジャージィ長」という役職の部員が1枚ずつ明りで透かし、しみや汚れが残っていれば再び「ウタマロ石鹸」でこする。大川もすでに「何回も洗いました」という。
この風習についての所感を問われれば、絶妙なバランス感覚を滲ませるのだった。
「受け継いでいかないといけない伝統、変えていかないといけないものと、いろいろあると思うのですが、自分たちは新しく組織に加わった者で、この組織のルールに従うのは当たり前のこと。まずはルールを、文化を覚え、いい文化を後輩に伝えていけたら」
いずれにせよ、粗末に扱ってよいジャージィではないことを理解している。これから4年間かけて、紫紺の品格を保ってゆく。