ラグビーリパブリック

絶妙なタメ。野中健吾の妙技がU20日本代表を加速させる。

2023.05.29

NZU戦で相手を引き寄せてパスを出す野中健吾(撮影:松本かおり)


 入場無料となった東京・秩父宮ラグビー場で見られたのは、52-46というトライ合戦だった。

 天気に恵まれた5月27日。NZUことニュージーランド学生代表を下した20歳以下(U20)日本代表にあって、渋く光ったのは野中健吾だ。

「きつい時間帯もあったんですけど、そこでチーム一丸となって引き締めて戦えた。(修正点)まず、チームでディフェンスすることをもう一度、確認したところではあります」

 身長181センチ、体重93キロの早大2年は、インサイドCTBとして先発した。

 28-39と11点差を追う後半23分。チームは好スクラムでペナルティキックを得て、敵陣10メートル線付近左からのラインアウトから攻める。右中間に展開する。ここから左へ折り返し、突進を交える。

 さらに左へ回すところで、端側のユニットを野中が動かす。

 自身の手前に立つFWが相手防御の注意をひくなか、SOの楢本幹志朗のパスをやや深い角度で受け取る。残されたタックラーは自らが引き寄せ、左端から駆け込むWTBの矢崎由高へつなぐ。

 早大1年で途中交代から間もない矢崎はここからラン、キックを交えてトライ。35-39と迫り、逆転劇への序章を奏でた。

 42-39と勝ち越していた後半32分にも、自陣からの連続攻撃で魅する。

 左端の深い位置に立ち、味方のパスをもらった。右への折り返しを匂わせながら、ゆらりとした動きで相手防御へ直進。その左で待っていたNO8の宮下晃毅へ球を託し、前進させた。
 
 最後は宮下のバトンを受け継いだFLの小林典大がフィニッシュ。47-39と点差をつけた。

 アタックを加速させたポジショニングとプレー選択について、野中自らは淡々と振り返った。

「外にスペースがあるのは確認していた。そこへどうアタックするかを、瞬時の判断でできたところがあります」

 課題は防御か。序盤からタックルを外されたり、数的優位を作られたりする場面が多かった。野中自身はロータックルとその後の起き上がりを徹底できたが、組織的な改善点があるのを認めた。

 捕まったまま球をつなぐオフロードパスでスペースを破られぬよう、1人の走者を複数名で倒し切るイメージを改めて共有したい。

「フィジカルで負ける相手には(タックラーは)1人ではなく2人がマスト。オフロードを阻止しないと戦っていけない。引き締めていかないと」

 U20日本代表は今年、3年ぶりに活動を再開させた。南アフリカでのU20チャンピオンシップの開幕を6月24日に控え、5月のサモアでのパシフィック・チャレンジ、今回のNZU戦で実戦経験を積む。

 ジュニア・ジャパン名義で3つのゲームをおこなったサモアでは、毎日、芋が中心の似たような食事しか提供されなかった。日本の若者たちは各自、焼肉のたれ、お米のパックなどを持ち込んで対処しにかかったが、飽きが来るのは時間の問題だった。野中の述懐。

「なかなか、しんどくなる時も…。でも、適応するのは大事だと」

 グラウンド内外で試されるのを実感しつつ、チームを、個人を磨く。

 2022年から、代表資格に関する規定が変わっている。今回のU20日本代表は、海外出身者を1名のみとする。

 国内出身者が大半を占める陣容にあって、野中は日に日に「自信がついてきた」ようだ。

「自信がついてきた。スキルの部分では(強豪国と)大きな差はない。日本もチームとなって戦えば怖くないと体感できました」

 その言葉に説得力を与えたのが、この午後に見られた妙技と連係プレーだった。

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