トイメンの黒衣の3番、サミュエル・レスターは、192センタ、117キロ。
その巨漢にも、持ち味の低さで対抗すれば戦える。
5月27日に秩父宮ラグビー場でNZU(ニュージーランド大学クラブ代表)と戦うU20日本代表。1番を背負うのが弓部智希(ゆんべ・ともき)だ。173センチ、100キロと、組み合う相手と比べると小さい。
しかし、日本のスクラムで立ち向かえば戦えると思っている。
近大2年のフロントローは、5月上旬にサモアで開催された『ワールドラグビー パシフィック・チャレンジ2023』にU20日本代表の一員として参加。全3戦に出場し、1試合で先発した。
6月のU20チャンピオンシップ(南アフリカ)出場を目指している。
桜のジャージーを着て試合に出たい。そんな憧れを、幼い頃から胸に抱いていた。
小2のとき、福岡・笹丘ラグビークラブに入った。体が大きかった。当時からプロップだった。
城南中を経て、石見智翠館高校へ進学したのは、兄・蒼生(あおい/現・東海大4年/FL・NO8)の背中を追ったからだ。
近大は練習を見学する機会があった際、自分の力を伸ばしてくれる環境があると感じて決めた。
海外チームと対戦するのは、パシフィック・チャレンジが初めてだった。
相手の第一印象はデカい。パワーもある。でも物怖じすることなく、チームも自分も低さで対抗できた。
自身のスクラムを分析する。
「セットスピードをはやく。そして、低く、差し込む」
チームは、フィジー・ウォーリアーズには大敗したが、トンガAに勝ち、マヌマ・サモアに敗れた。
弓部は117分ピッチに立ち、貴重な経験を積んだ。
上半身の筋肉の厚みは、ジャージーの上からでもわかる。
その肉体は、コロナ禍を無駄に過ごさなかったから築かれた。
「食事とウエートトレに力を入れました」
ベンチプレスは130キロを超える。
憧れているのは、近大の先輩で、同じ1番の紙森陽太。
大学での重なりはないが、高校時代に指導を受けたことがある。
先輩は各年代代表を経験し、クボタスピアーズ船橋・東京ベイでも順調に成長している。
先のシーズンは試合出場を重ね、ファイナルでは先発の座もつかんだ。
172センチ、105キロと自分とサイズはあまり違わないのに、相手を圧倒できるのはなぜだろう。
以前本人に教わったことと、経験、U20で学ぶ新しい知識をミックスして、自分のスタイルを作り上げたい。
動ける体を維持しながら、世界と戦えるように体重を増やしていこうと思っている。
鍛えれば鍛えるほど私服の選択肢はなくなるが、そこはスケーターファッションを好むから問題ない、と笑う。
しかし、桜のジャージーを着て活躍することこそ、自分の夢だ。成長のスピードを、もっと高めたい。
「試合になると強気で前に出ます」と穏やかな笑顔で話す。
初夏の秩父宮で、大男を押し込みたい。