日本に住んだことはない。ただ、日本に親しみがある。
ハリー・ウィラード。母国イングランド出身の父と、大阪にいた日本人の母との間に生まれた。学園都市のダラム大で法律を学びながら、6歳で始めたラグビーに親しむ。
現在19歳。いまは、3年ぶりに再開の20歳以下(U20)日本代表へ帯同中だ。6月24日から南アフリカでおこなわれる「U20チャンピオンシップ」に出たい。
「自分は何ができるのか。それを見せられることを楽しみにしています」
両親はイングランドで着物、こけしといった日本の製品を扱う店舗を営む。本人も少年時代、祖母のいた大阪に年に1度のペースで訪問した。
「この、ポーズの人がいた橋を覚えているよ」
食品メーカーの「グリコ」の看板が目印となっている道頓堀へも、行ったことがある。
2019年には家族旅行で来日し、ラグビーワールドカップの試合を生観戦した。
予選プールの期間中、静岡のエコパスタジアムで日本代表が強豪のアイルランド代表を破った。ウィラードはその様子を現地で観るや、日本代表が出そうな準々決勝のチケットを購入したものだ。故郷のイングランド代表を観に、大分へも出かけた。
日本のラグビーとより密接にかかわったのは、昨夏のことだ。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイの練習に参加した。同部コーチと共通の知人がいたのが縁だ。
以後、大学が長期休暇に入るたびに船橋へ渡った。チームや選手に親近感を抱くようになった。
5月20日には東京・国立競技場で、リーグワンのプレーオフ決勝を見守った。
スピアーズは昨季王者の埼玉パナソニックワイルドナイツを17-15で下し、初優勝した。なかでも新人WTBである木田晴斗は、キックチェイス、決定的なトライと獅子奮迅の活躍だった。
ウィラードも嬉しかった。
「最後の1分は自分もドキドキしました。交友関係のある選手が大きなステージに立っているのを見られてよかった。晴斗とはプレシーズンのトレーニングも一緒におこないました。まもなく彼は日本代表にも選ばれましたが、それは喜ばしいことです」
ルーツを持たない海外出身者の代表入りには、一定期間の連続居住が必要だ。特に2022年以降は、その長さが3年から5年に延びた。
おかげで今度のU20日本代表では、国内で生まれ育った学生がほとんどだ。過去の年代別代表に名を連ねたような留学生選手はひとりもおらず、日系戦士のウィラードは現チーム唯一の海外出身者だ。
ロブ・ペニーヘッドコーチに評される。
「身体が大きく、いい態度で練習に臨んでくれている。慣れない国でラグビーをするのは難しい状況だと思いますが、自信を持って、積極的にやってくれている。現時点ではポジティブに捉えています」
これまでNO8などを主戦場としてきたが、U20日本代表ではLOに挑む。公称で「身長190センチ、体重110キロ」のサイズを活かし、セットプレーを支える。
ニュージーランド出身のペニー、同部屋でFLの小林典大とは英語で話せる。それがありがたいという。
「新しいポジションでいろんなアドバイスをもらっています。英語で話せる選手、スタッフがいるのは助かります」
将来はプロを目指す。 市場を限定せず、視野を広く持つ。
「これから先の数か月の戦いは、自分のキャリアにとって大きなステップとなりうる。うまくいくことを願っています」