本領を発揮する。アーロン・クルーデンは、シーズン終盤に入って尻上がりに調子を上げてきた。
元ニュージーランド代表の34歳。前年度までコベルコ神戸スティーラーズに在籍していた。昨年12月中旬からの現シーズンに際し、東京サントリーサンゴリアスに移ってきていた。
新天地の特徴は。本人が語っている。
「チームメイトがお互いに対して求める責任感のレベルが高い。皆がお互いを信頼し、結果を出している」
適応には時間を要した。試合開始早々のレッドカードをもらったり、タフなサンゴリアスのスケジュールにあってコンディション調整を余儀なくされたり。
もっともシーズン終盤に差し掛かると、持てる技や判断力をクラブのスタイルにマッチさせる。
自陣でミスボールを拾えば無理なくスペースへキック。敵陣深い位置でチャンスを得るや、適宜、位置取りを変えてスペースへパスをさばく。
サンゴリアスは「アグレッシブ・アタッキングラグビー」を標ぼうも、中盤戦から陣地の獲得を重視。マイナーチェンジを試みるなか、万能型のクルーデンはより際立った。
5月14日のプレーオフ準決勝。2003年度からの旧トップリーグ時代から通算し6度目の王座を目指すサンゴリアスにあって、3試合ぶりに先発する。田中澄憲監督は期待する。
「彼は経験豊富ですし、逆に言ったらこういうプレッシャーゲームで力を発揮してくれると思います。ファイナルゲームで何が大事かを十分にわかっている。しっかりリードしてくれる。こういうゲームになると1~2点(の差になりうる)。ひとつのゴールキックも大事になる。彼はそこの精度も高い。ぜひ、チームを勝ちに導くリードをして欲しいです」
さかのぼって4月24日。プレーオフに出る4チームがメディアカンファレンスに臨んでいた。
サンゴリアスとぶつかるクボタスピアーズ船橋・東京ベイからは、主将でCTBの立川理道が登壇。日本代表としてワールドカップ出場経験がある33歳だ。
キャリアと実績から精神的支柱と見られる立川は、ちょうどともに登壇していたサンゴリアスの2選手に質問した。
「僕としては10番(先発のSO)が気になるんですけど。誰が出てくるのかなと」
4月までのレギュラーシーズンにあった両軍の直接対決では、クルーデンは欠場していた。
返答したのは、サンゴリアスで共同主将を務める齋藤直人だ。日本代表のSHでもある25歳はこう述べた。
「本当に、わからないです。それぞれ違った強みがあるので…」
それから3週間弱が経った5月12日。両軍は別個でオンライン会見に出た。
その頃は、出場メンバーが発表されていた。最初に回線をつないだスピアーズ側は、サンゴリアスのメンバーについて聞かれる。立川は、スマートフォンでその並びを確認する。
「サンゴリアスではシーズンを通していろんな10番の選手が出ていましたが、今回はクルーデン選手。しっかりマークしないといけないと思います」としながら、改めて立場を表明する。
「ただ、誰が出てきても自分たちのスタイルは変わらないです。いままでやってきたことを信じて戦いたいです」
まもなくサンゴリアスが会見した。齋藤が出席した。クルーデンとの試合運びについて聞かれ、混じりけなしの執念を伝える。
「僕も一緒に、勝ちに導くゲームコントロールを前半からしたいと思います。取れる時に取れる点は取る。その判断も含め、一緒にゲームを作っていきたいです」
自分たちの強みを発揮するための「コントロール」ができるのは、どちらのチームか。