再出発だ。前年度の大学選手権決勝で帝京大に20-73と大敗した早大ラグビー部は、フィジカル強化に新機軸を導入した。
1週間あたりのフルコンタクトの練習時間を、前年度比で約4倍とした。
ラグビーの肉弾戦の動きに近い、レスリングに没頭した。大学のレスリング部に胸を借りたり、指揮官の大田尾竜彦が前所属先のヤマハ(現・静岡ブルーレヴズ)で師事した太田拓弥氏(アトランタ五輪日本代表)を招いたりした。
試合や練習で決まったタックルを「Excellent」「Good」「Bad」の3種類に仕分けていたが、その集計の目安も変えた。それまでは相手を止めていれば「Good」に入れていたが、いまはその場で相手を倒し切れていないものは「Bad」に分類する。
就任3季目の大田尾はこう説く。
「去年の決勝を受けてコンタクトの部分を全面的に見直していて、タックルのスタッツ(統計)の取り方も変えました。接点を強化する練習内容にしています」
身体接触に関し、より厳しい基準を設けた。ここで身体つきを変えたひとりが、佐藤健次だ。
スクラム最前列のHOを担う3年生は、体重を昨季終盤の「104キロ」から「109キロ」に増やした。昨春の時点で「110キロ」だったのを踏まえ、こう話す。
「去年はただでかかった。パンパンだったんですけど、今年はそうじゃないのに109キロ。いいトレーニングができていると思います。でかくなりつつも、走れる身体になれるよう頑張っています。優勝するためにはそこ(フィジカリティ)は逃げられない。バチバチやっていければ、最終的に『荒ぶる』(大学日本一になった時のみ歌える第2部歌)に行ける」
5月7日、神奈川・小田原市城山陸上競技場。関東大学春季大会・Aグループの初戦に挑んだ。
東海大に33-19で勝利。同カードでの白星は現体制下では初だった。渦中、鋭いタックルが決まるシーンが多かった。大田尾の述懐。
「練習の成果と学生たちの意志がひとつになっていたと思います」
大学日本一になった回数は史上最多の16度。いつの時代も優勝を至上命題とする早大は、いまの時代に勝つための最善手を打たんとする。
ぶつかり合いを見直したのはそのためだ。
佐藤はこの日、スクラム、接点で奮闘。前半14分頃にビッグゲインを決め、チーム3本目のトライにつなげた。しかし、現状に満足しない。
「スクラムでもフィールドプレーでも波があって、自分たちの軽いミスで相手の流れになってしまうことが多かった。勝って反省して、もう一回、積み上げていければいいなと思います」
「練習強度は去年に比べて高くなっていますし、それが試合に出ているとは思います。ただ、相手の強いランナーにまだ(強く)行けていないところがあったり、『ここで1本、刺さればターンオーバー』というところで引いちゃったりしたところがあった。この強度がゴールじゃない。もっと高いレベルに上げていければと思います」
ちなみに佐藤は後半9分頃、HOの選手にあって珍しい動きを披露している。
自陣中盤右で拾い上げたボールを敵陣ゴール前右隅にキック。その弾道を追い、カバーする相手選手へプレッシャーをかけた。
本人は言う。
「いけるかな、と思って、蹴って。自分で蹴ったから真剣に追わなきゃと思って、走っていました」
春季大会での次の試合は5月14日。熊本・えがお健康スタジアムで明大とぶつかる。