ラグビーリパブリック

待っていたぞ。ウィル・ジョーダン(クルセイダーズ)、8か月ぶり復帰

2023.05.11

仲間とファンの歓迎を受けたクルセイダーズのFB、ウィル・ジョーダン。(撮影/松尾智規)



 スーパーラグビー・パシフィックも終盤戦に差し掛かってきた。
 第11節は、ニュージーランド(以下、NZ)のフランチャイズのチームで大物3選手が復帰した。
 また、ハリケーンズはフィジアン・ドゥルアに24−27と逆転負け。話題が豊富な週末となった。

◆チーフス、圧勝でレイナート=ブラウンの100キャップをお祝い。

 5月5日、ダニーデンのフォーサイス・バー・スタジアムでおこなわれたハイランダーズ×チーフスは、3連敗中のハイランダーズが先制トライを挙げるも、それ以降はチーフスがワンランク上のレベルを見せつけて52-28 と圧勝した。

 2位に9ポイント差をつけ、独走体制に入りつつあるチーフス。勢いは、このまま続くのか。

 この試合はチーフスの12番、アントン・レイナート=ブラウンの 復帰戦(2月24日の開幕戦で足首のケガ)。同時に、100試合出場という節目の試合だった。

 道のりは順調ではなかった。
 ここ数年はケガに泣かされ、手術も経験している。98試合目、99試合目でもケガを負い、100試合目前で足踏み状態だった。
 試合後のインタビューでは、「とてもナーバスだった」と正直に胸の内を話した。

 しかし、節目の試合で自らトライを挙げ、ディフェンスの面でも相変わらずの強さを見せた。
 オールブラックスへの復帰も、視界は明るい。

 対戦相手のハイランダーズでは兄のダニエルも出場し、弟・アントンの100試合を一緒にお祝いした。
 何より無事に復帰戦を終えたレイナート=ブラウンのホッとした表情が印象的だった。

◆ブルーズ冷や汗勝利。トゥイヴァサ=シェックは復帰も課題は残る。

 5月6日にイーデンパークでおこなわれたブルーズ×モアナ・パシフィカの対戦は、序盤から試合を有利に進めていたブルーズが途中で失速し、最後の最後までもつれる大接戦となった。

 決着はあっけなかった。
 ロスタイムに入り、ブルーズはゴール前でマイボールのスクラムを得る。
 モアナ・パシフィカは耐え切れず、痛恨の反則を犯した。

 ペナルティトライとなり、スコアがひっくり返る(31−30)。衝撃的な結末となった。
 ブルーズは、今週末のクルセイダーズとの大一番に向け、選手の気持ちがそちらに向いていたか。

 この試合はブルーズの12番、ロジャー・トゥイヴァサ=シェックの復帰戦だった。
 しかし注目された男は、モアナ・パシフィカに押される展開もあり、攻撃面であまり見せ場はなかった。ラインブレイク気味のプレーも数回あったが、本来の力はまだまだ出せていない。

 ディフェンスでは反応の遅さも影響し、タックルにいくも、トライを許した。
 攻守ともに課題を残す結果となった。

◆クルセイダーズ圧勝。ジョーダン、8か月ぶりでいきなり魅せた。

 レイナート=ブラウン、トゥイヴァサ=シェックの復帰は、話題性があった。
 しかし、NZのメディアをもっとも賑わせたのは、クルセイダーズのウィル・ジョーダンだった。

 ジョーダンは昨年、オールブラックスが北半球遠征の初戦、日本代表戦に向けてNZを旅立つ直前にチームから離脱した。
 それがここまで長引くとは、誰も想像していなかっただろう。

 内耳/片頭痛、関連の問題(脳震盪とは関係ないとの事)で8か月ぶりの復帰となったジョーダン。シーズン開幕後、「復帰が近いかも」という声は数回出ていた。
 しかし、なかなかメンバー表に名前が挙がらない。メディア、ファンの間には、なかば諦めのような空気もあった。

 先週木曜日に発表された(フォース戦)先発メンバーの中に、15番・ジョーダンとあった。
 その直後からラジオのニュースでは大きく取り上げられ、復帰のニュースは、夕方のテレビも賑わせた。
 復帰にあたってインタビューの様子が流れてもおかしくなかったものの、チームは許可を出さず、試合に集中させる方針をとった。

 ジョーダンの復帰は5月6日、ホームのオレンジセオリースタジアム(クライストチャーチ)。
 勝利を目指すことこそ最重要項目も、チーム全体でジョーダンに試合勘を取り戻してもらう姿勢だったように見えた。

 幸い試合展開も、スコアに余裕がある展開となり(46-13)、その試みを多くできた。
 ジョーダンも周囲の期待に応える。あえて体をぶつけ、キックの感触を確認。一つひとつのプレーを真摯にテストしていた。
 スタンドには、それを温かく見守る雰囲気があった。

 8か月ぶりの実戦ということもあり、完璧ではなかった。
 想定内も、ボールをもらうタイミング、タックルされた後のダウンボール、連携プレーで微妙にズレがあった。ときどきミスが起こった。

 ジョーダン自身はその小さいミスに対し、苛立っている様子もあった。しかし、積極性が感じ取れた。
 流石のプレーも随所に出た。
 持ち味のスピードを活かしたランでギャップを突き、ディフェンスの裏に出る。最後はきれいなパスで11番、レスター・ファインガアヌクのトライをアシスト。
 このトライは、スタジアムをもっとも盛り上げた。 

 ブランクは長かったものの、ランプレーは離脱前と変わらないほど。トライのアシストは2度あった。
 数試合の出場を重ねれば、本来のジョーダンが戻ってくるだろう。
 そう思わせる復帰戦だった。

 8か月ぶりのプレーで、すぐに結果を出したことも、ジョーダンの価値をあらためて感じさせた。
 今週末に迫ったブルーズとの大一番に向け、チーム、そして本人にとっても良い準備ができたといえる。

 試合後のジョーダンは、復帰の喜びを噛み締めていた。
 ウエルカム・バック、ジョーダン。
 この先、健康状態に問題なくラグビーができる事を願うばかりだ。


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