ラグビーリパブリック

「クワイエット・ジャパン」、7人の戦い。大会初日はフィジーと熱戦繰り広げる。第2回世界デフラグビーセブンズ大会 (1)

2023.05.02

開会式前の日本選手団。中央が岸野楓主将。左に小林建太副将、右に相澤一志副将(撮影:JDRFU)

 2023年4月5日から9日まで、アルゼンチン 第2の都市コルドバにて、第2回世界デフラグビーセブンズ大会が開催された。

 デフラグビーとは、聴覚に障がいを持つ人のためのラグビーである。障がいの幅が広いのが特徴で、手話を日常言語とする「ろう者」や、補聴器をつけて口話で話す難聴者が混在する。今回のコルドバ大会は、2018年のシドニー大会に続き2回目。日本代表「クワイエット・ジャパン」は、シドニーにてオーストラリアを破るなど健闘したが、8チーム中4位とメダルにあと一歩届かなかった。

 本大会は男女ともに実施され、各出場チームは、以下の通り。

◉男子(8チーム):日本、アルゼンチン、ウエールズ(前回優勝)、イングランド(前回準優勝)、オーストラリア、フィジー、南アフリカ、バーバリアンズ

◉女子(4チーム):ウエールズ、イングランド、オーストラリア、バーバリアンズ

*バーバリアンズは、混成チーム。香港、ブラジル、アルゼンチン、ウェールズなどの選手で構成された。

 試合会場は、コルドバ市北西にあるクラブ・ラ・タブラダ。1943年創立の名門クラブで、多くのピューマ(アルゼンチン代表)を輩出している。6面あるラグビー場の中の第1グランドが大会会場となった。

 日本の注目選手は、早大ラグビー部OBの岸野楓(富士通勤務)。中学生時代からデフラグビーの練習に参加し、第1回大会時は、現役の早稲田ラガーとして出場した。今大会では、主将としてチームをリードする。

 近大ラグビー部OBの小林建太(キヤノンマーケティングジャパン勤務)は、今回が国際大会初参戦。キレの良いステップとオフロードが持ち味で、アタックのキーマンだ。

 4月1日に成田を出発した選手団は、約30時間のフライトを経て、2日夜にブエノスアイレスに到着。同地で一泊後、翌日空路コルドバへ。5日の開会式までは、コンディション回復に努めた。

 開会式では、各国の選手が、マリオ・ケンペス・スタジアムに集結。開催者によるスペイン語の挨拶を、各国の手話通訳者がそれぞれの手話に訳す姿が見られた。日本の西尾香月(マツダ勤務)も、大柄な男性通訳者に囲まれながら、日本選手団に手話を届けた。

 開会式直後には、抜き打ちの聴力測定が実施された。本大会の聴力規定は、両耳平均40dB(デシベル)以上とされている。これは中度難聴レベルであり、大きな声で話せば聞こえる程度と言われている。ただし、補聴器をつければ日常会話ができる選手も多く、検査会場では手話ではなく、英語で会話している選手の姿も見られた。

 チームによって考え方は異なるが、日本チームの場合は、チーム内の言語は手話と決められている。チームの誰もがコニュニケーションを取れることを大切にしているためだ。中には、国際手話を学んでいる選手もいて、チーム広報も務める大塚貴之選手(帝京大OB、ワイルドナイツスポーツ プロモーション勤務)は、各国の選手、スタッフと手話で交流をしていた。また大塚選手は、大会前に送られてきた試合日程の不備(試合間隔が短すぎることなど)を運営側に指摘し、代替案を提示。開会式場にて、大会幹部を説得して変更を実現させるなど、大会運営に貢献した。

 大会1日目。

 日本の初戦の相手は、デフ・バーバリアンズ。香港の選手が中心だが、経験の浅い選手が多く、日本は43-0で快勝。続く相手は、優勝候補のウエールズ。前半は0-7と接戦を演じたが、後半に入って失点を重ねて、0-31の敗戦となった。

 実は、今大会、日本の選手登録は7人のみで、リザーブ選手を連れてきていない。国内には、ともに練習を重ねてきたデフ選手はいるのだが、国際試合を安全に戦えるレベルまで達していないとのJDRFU(NPO法人 日本聴覚障がい者ラグビーフットボール連盟)の苦渋の決断により、連れてくることができなかった。大会規定により、他国のバックアップ選手をレンタルすることができるため、7人での大会参加に踏み切ったという背景がある。

 初日3試合目の相手はフィジー。開始早々、小林建太がスクラムサイドをブレイク。そのまま走り切って先制トライ。その後、日本のディフェンスミスから独走トライを許して前半を5-7で終えるが、ほとんどの時間を日本が敵陣で戦っており、ペースを握っていた。後半直後に再びトライを与えるが、大塚貴之のトライと、相澤一志(北陵ラガークラブ、秀真電設勤務)のコンバージョンで12-14と迫る。しかし、残り2分で2トライを許し12-28でノーサイド。初日を、1勝2敗で終えた。
※(2)に続く

NPO法人 日本聴覚障がい者ラグビー連盟オフィシャルウェブサイト
https://deaf-rugby.or.jp/

前回大会のレポート
https://deaf-rugby.or.jp/special/world-deaf-rugby-7s/wdr7_2018/

筆者PROEILE/柴谷晋(しばたに・すすむ)
元デフラグビー日本代表。今大会は英語通訳、分析として遠征に同行。著書に「静かなるホイッスル」(新潮社)など。同書は、日本デフラグビー創設から2002年の世界大会での初勝利、セブンズ大会準優勝までを描いたノンフィクション作品。大田東京ラグビーアカデミー代表、’23年4月より武蔵野横河アトラスターズ アカデミーヘッドコーチ。リーグワンチームでアナリストを務めた経験を元に、ラグビーマガジン誌上での分析記事や、チーム向け分析指導もおこなう。
ウェブサイト:http://susumu-shibatani.com/

初戦のバーバリアンズ戦でジャッカルを成功させた岸野(手前)。攻守に渡って、前回大会以上の活躍を見せた(撮影:JDRFU)
イングランド戦(大会2日目)でのジャパン スクラム。左から日野敦博、岸野楓、福井拓大。この直後、ターンオーバーを奪い、逆転トライ(撮影:JDRFU)
ハーフタイムでの話し合い。コミュニケーションは手話が基本。手話を使わずに育った選手も、チーム加入後に手話を身につける(撮影:JDRFU)