これが2023年の松島幸太朗だ。
4月22日、東京は下町にあるスピアーズえどりくフィールド。東京サントリーサンゴリアスのFBとして、加盟するリーグワン1部の最終節に先発した。
ホストのクボタスピアーズ船橋・東京ベイに対し、防御を引き寄せながらのパス、蹴り合う際の長距離砲を適宜、披露する。
「(スペースが)空いているところは(ランで)行く、空いていないところはキック。行く時、行けない時の判断はできているかなと」
本人が言うところの「空いているところ」で繰り出す走りは、威力が増しているような。
松島は昨季までの2シーズン、フランスのクレルモンでプレー。フィジカルバトルの多い現地では、重い重量を挙げるウェイトトレーニングによって筋肉の鎧を作り上げた。
「身体をでかくしないとやっていけない。走る量もいま(サンゴリアス)に比べたら少なかった」
そして昨冬になると、方針を変えた。
折しも、2020年まで約5年半、在籍していたサンゴリアスへ復帰した。勝手を知る古巣では、器具を持ち上げるよりも自重による体幹トレーニングに注力した。
このマイナーチェンジにより、培ってきた力強さに生来のしなやかさを付与している。
「トレーニングの成果が出てきている。限られたボールタッチのなかでも周りを活かしたり、自分で行ったりができている。身体のきれもいい」
この日は前半35分、ふたつのプレーでチーム最初のトライをもたらした。
まずは自陣中盤左でこぼれ球を拾ってから、タックラーを引きずりながら前進した。
以後、味方が右への展開と突破を重ねたのを受け、敵陣22メートル線付近の左中間で待機。パスをもらうと、自身の左側にいた防御を引き付けながら左へパスを放った。
この動きで、大外へ数的優位を生み出した。球はアウトサイドCTBの中野将伍を経由し、WTBの尾崎泰雅がフィニッシュした。
続く後半2分、松島は対するWTBの木田晴斗との1対1でトライを許している。
相手がハンドオフ(タックルを掌で弾くプレー)をすると読んで相手の腕を狙ったところ、そのまま突っ込まれたのだ。
さらに試合も24-39で敗れた。相手に2人の一時退出者が出た時間帯に失点し、「心の余裕が出てきて、慢心がでたということです。それだけじゃないですけど」と反省する。
もっともゲーム全体を振り返れば、「そんなに悪い印象はないです」。時間を重ねるごとに攻めを意図通りに機能させられた。後半21分までに24-15とリードできた。
今季は田中澄憲新監督のもと、伝統的な部是であるアグレッシブアタッキングを見直し。複層的な攻撃陣形をベースラインに据え、戦術のオプションを積み上げてきた。
シーズン中盤以降はいつ攻めに出て、いつ蹴るかの塩梅について微修正した。
ラグビー日本代表として2度のワールドカップでも活躍してきた30歳は、自身のみならずチームの進歩も実感している。
「いつキックするか、攻めるかを考えながらやるという部分は成長している。(攻め方のバリエーションについては)ここまで来たらいくつかのタイプをやっているので。『今週は○○』『今週は××』と切り替えながらできています」
5月14日のプレーオフ準決勝(東京・秩父宮ラグビー場)では、レギュラーシーズンで計2敗を喫したスピアーズと再戦する。
自分とチームが少しずつよくなってきたことを、結果で証明したい。