チームのオーダー通りに動く。さらに自分の色を付け加える。
その職業倫理を示すラグビー選手は、まだ競技で対価を得る前の大学生だった。
「レベルの高いところで3回もできていて、自分も成長できている。いい感触でできているかなと感じます」
同大新2年の大島泰真は今年2月から、20歳以下(U20)日本代表候補のキャンプへ参加している。
話をしたのは3月下旬。千葉県内でおこなわれた3度目の候補合宿で、実戦形式の練習を終えた直後のことだ。
持ち場は司令塔のSOだ。
身長170センチ、体重78キロと決して大柄ではないが、相手防御に近い位置で戦える。
圧力のかかる攻防の境界線(ゲインライン)へ自ら仕掛け、そのまま抜け出すこともあれば、自身の周り、大外、防御の裏側へと適宜パスやキックを配すこともある。自らの判断と技術を介し、チームを前に進める。
「ゲインラインの近くでプレーするのは、得意です」
今回のU20日本代表では、元U20ニュージーランド代表ヘッドコーチのロブ・ペニー氏が指揮を執る。攻めのキーワードは「首振り」。攻撃ラインは防御ラインと一定の間隔を取り、全体を見渡しながらスペースを探す。適宜、キックを用いる。
いわば「ゲインライン」と距離を取る動きも求められるなか、大島はこうだ。
「言っていることはやります。でも、自分のよさは消さないという選手になりたいです」
チームのオーダー通りに動く。さらに自分の色を付け加える。
「僕はどんどんボールを持って、走って…というところ(が強み)。それを織り交ぜながらキックを使っていけばもっとよくなる。自分のランができるという能力にプラスして、ロブさんの目指すキックをやっていければ」
京都成章高では1年時から全国大会に出て、主将を務めた3年時は「U19」こと高校日本代表に選ばれた。かつては毎年恒例だった海外遠征ができなかった代わりに、国内の猛者同士でエキシビションマッチをおこなった。
その後、同大ではルーキーながらレギュラーになって大学選手権に出場。宮本啓希新監督が目指す複層的なアタックに、高校までに磨いたよさを適応させた。
ポジション柄、人に指示を出しながらプレーしなければならない。自分の意思を周りに伝えるのもラン、パス、キックと同じように求められるのだが、意思伝達に関するスタンスはこの2年で変わったと本人は言う。
高校3年時は「(周りを)引っ張っていかないといけないので、勝手に自分(の意思)が出る」だったのが、大学1年時は「下級生で試合に出ているのに自分(の意思)を出さないのは、上級生に失礼」。能動性が異なる。
「(昨季は)夏までは自分の殻に閉じこもっていたのですが、秋シーズンの試合が始まったら、試合ごとによくなっていったかな、という印象です。練習中に(周りの選手と)『こうだったな、ああだったな』と話していくなかで、プレーも、試合中のコミュニケーションも変わっていきました」
本来はおとなしい大島だが、ラグビーで道を切り開くからには自分の性格で自分を縛らないつもりだ。静かに覚悟を語る。
「(同大で)ひとりのラグビー選手としての自覚が、出たのかなと」
U19で一緒に戦ったメンバーも多い20歳以下のチームでも、「U19の頃よりはコミュニケーションが取れている」と成長を実感できる。
「まだ足りないところはあると思うんですが、自分を、出せるようになっている」
果たして大島はメンバー入りを果たし、5月3日からはジュニア・ジャパンとしてサモアでのパシフィック・チャレンジに挑む。ここでは環太平洋諸国の猛者とぶつかり、6月24日からのU20チャンピオンシップ(南アフリカ)で勝つための肥やしを得る。
対戦国は、自分たちよりも骨格の大きい選手を並べる。もし体格差で劣るとしたら、どこか別な領域で活路を見出すほかない。大島は言う。
「やってみないとわからないことは多いですが、(相手は)大きいし、速い。僕自身がしているゲインラインの近くでプレーすることは、重要だと思います。深いところでやっていても、(相手が大きくて強いと)前に出られないと思う。ゲインラインの近くでキックできる、パスできる、走れるというところを、活かしていきたいです」
所属する同大は他大学と比べ小柄なチームだ。そのため自分が大学でしてきた工夫は、世界に挑む日本の代表チームでも転用できると大島は考える。
「いまのSOって、ゲームをコントロールすることがメインになってきています。ここ(U20日本代表)でも周りをコントロールして、キックを使うことを求められている。そういったなかでも、僕は自分の強みは消さないような選手になりたいです。周りとコミュニケーションを取って、自分はこういう選手だというのを感じてもらって、プレー中にも自分から発信する…そうすることで、そのよう(自分の強みを消さない選手)になっていける」
チームのオーダー通りに動く。さらに自分の色を付け加えることで、チームをよりよくできたらいい。