ラグビーリパブリック

日本代表も注目。イーグルスのハラシリ、先輩マフィから授かる魂。

2023.04.22

4月15日のリーグワン第15節でも奮闘したイーグルスのシオネ・ハラシリ (C)JRLO


 ちょうど年度の変わり目だった。12月中旬から実施の国内リーグワン1部は、休息週に入っていた。

 横浜キヤノンイーグルスのシオネ・ハラシリは、千葉の新浦安へ出かけた。ラグビー日本代表候補の短期合宿へ呼ばれたのだ。

 キャンプに集められたうちFWの面々は、スクラムを学んだ。8対8で組み合う攻防の起点だ。

 これから代表に定着したい選手が中心となり、日本代表の形をグラウンド上で確認したのだ。

 ハラシリはここへも混ざった。最前列の左PRで声がかかっていた。

 身長180センチ、体重120キロの23歳。大きな瞳と問答無用の突破力が印象的な通称「ジェイ」は、トンガから来日後に在籍した目黒学院高、日大では、突進役のNO8だった。

 大学時代から現職への転向を視野に入れていたが、本格的に左PRへ取り組んだのはイーグルスへ入った2022年からだ。

 そのため、スクラムの深みを知るのはこれからだと自覚する。今回は、キャンプ中の同じグループに庭井祐輔がいたのはよかった。

 庭井はイーグルスの8季先輩だ。ポジションは両PRにはさまれるHOで、現体制の日本代表でもプレー経験がある。

 ハラシリは、勝手を知る庭井と隣同士で組めたのが幸運だったという。

「庭井さんが、俺がまだPRとしては全然…というのをわかって、(その都度、注意点を)全部、言ってくれた。楽になりました」

 ここで教わったのは、長谷川慎アシスタントコーチが唱える日本代表の組み方だ。FW8人が前後、左右で密着し、一定の高さの塊を作る。自分たちよりも大きな選手のいる相手へも、まとまりで対抗する。

 日本代表で不動の左PRである稲垣啓太は、この集まりへは「コーチ」として参加した。これまで長谷川から学んできた内容をアウトプットすることで、自らの理解度も確かめた。

 ハラシリは、稲垣に「テクニックを教わりました」と感謝する。

「やっぱり、テクニックがないと、だめだなぁと」

 ワールドカップ・フランス大会を今秋に控え、決意を新たにできた。

「(メンバーに)入りたいです。ずっと、ジャパンには入りたいと思っていました」

 今季のリーグワン1部にあって、イーグルスは第15節までに12チーム中4位。最終節へ挑む前に、他会場の結果を受けてクラブ初の4強入りを確定させた。5月はプレーオフで優勝を争う。

 ハラシリは第15節まで全試合に出て、6トライと暴れてきた。

 その所感を問われれば、「大変だった! いまはもう大丈夫だけど」。開幕後は新しい職場の左PRに加え、もともとプレーしていたFL、NO8といったFW第3列も担ったからだ。

 特に第7節以降は、先発NO8の座を託された。攻撃布陣における立ち位置、サインプレーの時の動き方を、すべて覚え直した。

 手を差し伸べてくれたのは、本来の正NO8だ。

 アマナキ・レレイ・マフィ。ハラシリの10歳上で、同じトンガ出身だ。

 第6節の途中で負傷退場し、しばらく入院生活に入っていた。その間、同郷の後輩にコンタクトを取っていたようだ。

 4月15日に神奈川・日産スタジアムであった第15節の前にも、メッセージがあった。

「この試合、絶対に勝て!」

 昨季準優勝の東京サントリーサンゴリアスに9-11と惜敗も、イーグルスの背番号8は攻守に身体を張った。

「嬉しいですね。ナキが全部、教えてくれるから、ちょっと楽になりました。優しいです」

 話をしたのはその3日後。都内の本拠地グラウンドでチーム練習を終え、グラウンド脇の観覧席へ腰をかけていた。

 ここへちょうど歩み寄ってきたのが、先輩のマフィだった。

 まだプレーはできないようだが、少しずつグラウンドへ出られるようになったのだ。

「嘘ばっかり」

 座席とグラウンドを挟む手すりの向こうから、インタビューで格好をつけるなという旨で話しかける。

 和やかな雰囲気を醸す。

「おい、頑張れよ、ジェイ」

 先輩の呼びかけに、「ジェイ」という愛称のハラシリは微笑む。

 さらに、別な問いかけへの答えとして「大変だった」と応じれば、そのやりとりもそばで聞いていたマフィは笑顔を足す。

「かわいいな、お前の日本語」

 その場を去る。

 芝の上ではちょうど、別な選手が居残りでキック、パスのスキルトレーニングを重ねる。ハラシリは「雰囲気がいいです」と表情を崩す。

 23日、東大阪市花園ラグビー場。コベルコ神戸スティーラーズとのレギュラーシーズン最終節で、自分たちのグルーヴを表す。

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