前節で入替戦回避が決まったブラックラムズ東京は、このあとのリーグ戦第16節(対相模原DB)が今季の最終戦だ。
10番に入るのは、堀米航平。今季はここまで15試合中11試合に出場、10試合に先発した。
入団6年目にして、キャリアハイである。
2シーズン前の最後のトップリーグでは、出場機会ゼロ。躍進の理由に、当時の「覚悟」があった。
「アイザック(ルーカス)がきて1試合も出られず、ラグビーを辞めようかなと思ったこともあります。でも家族やいろんな方のサポートもあって、諦めずにもう一年頑張ろうと。本当に変わりたかったんです」
10歳から始まったラグビー人生で、1年間公式戦に出られなかったのは初めてだった。悔しかった。落ち込んだ。もうこのチームでは出られないのではと思った。
「でも、オフシーズンになって、落ち着いて自分にベクトルを向けられるタイミングが来た。この1年自分がどのくらいできたかを考えると、全然ダメだったし、アピールも足りなかった。出られないのは自分の実力不足だと」
その時にラグビー人生で初めて「覚悟を決めた」。まず、ライバルのアイザック・ルーカスと同じ土俵で戦うために、プロ選手になった。1試合も出られなかった選手の熱い思いを理解してくれた、西辻勤GMには感謝しかない。
「(加入)3年目で一度も試合に出られなくて、翌年プロになってまた試合に出られなかったらおそらくクビ。とにかく変わるしかないと」
誰しも遠ざけたくなる、自分の悪いところを性格含めて芯まで振り返った。自分にコントロールできることは、すべてあらためたつもりだ。
「食事でいえば、ただ栄養バランスのいい食事とかではなく、自分に合ったものを探しました。以前は朝はパンを食べていたけど、オートミールにフルーツを入れた方がお腹の調子が良かったり、肉より魚を食べた方がコンディションが上がるなとか。YouTube(3年前に開始。登録者数1万人超え)には魚の動画ばかりあげてますが、ただ好きだからだけではないんです(笑)。オフシーズンの食事もめちゃくちゃ考えていました」
「毎日のミーティングはどういう姿勢で臨めていたかも振り返りました。それまではバラバラでてきとうに座っていたけど、いまは一番前のど真ん中です。SOでゲームを作る立場なので、先頭にいないとダメだよなと。いまは遅れてきてもそこは空いてます。
発言もすごくするようになりました。出られていない時は、ほとんど聞いてるだけでした。誰かが言ってくれるだろう、となってました。でもいまは準備をしっかりできているからちゃんと発言できる」
そして大きく自分を変えてくれたのが、ラグビーノートの存在だ。大学の時から始めてはいたが、「クオリティはまったく違います」。「それまではただの”メモ”が書かれた見直さないノートでしたが、それが見るためのノートに変わった」という。
「試合と毎日の練習の映像を見て、その時思ったこと、できたことできなかったこと、クリアにしなければいけないこと、改善しなければいけないこと、今週は何にフォーカスするのか、全部書き出します。具体的に言えば、何分何秒のプレーはこうした方が良かったとか、裏のスペースが空いてたからキックを蹴った方が良かったとか、ここは逆目に行った方が良かった、みたいな感じ。
試合の振り返りでこれまではノートに書いても半ページ越えるくらいでしたが、いまは2ページぎっしり埋まることもあります。練習に関してはこれまでも映像は見てましたけど、書くことはなかった。始めてからは一度も欠かさずに書いています。
それから書いたことは常に見直す。毎日見てます。練習前には復唱したり、テーピングにメモったりして、書いたことを常に意識する。それを1年間サボらずにやって習慣になったことで、そこからプレーが良くなりました。
毎日出てくる課題はラグビーだとシチュエーションが毎回変わってしまうけど、似たようなシチュエーションではミスをしなくなった。ミスをしなければコーチからの信頼も生まれる。僕はプレーに波があると言われていたけど、一貫性のあるプレーができるようになってきました」
これも自分の欠点を振り返った成果だった。忘れっぽい性格と気づけたから変えられた。
特に意識したいフォーカスポイントには、赤でラインが引かれる。3月中旬に書かれた赤線の上には、「ディフェンスをもっとアグレッシブに」とあった。
「僕が試合に出られている理由のひとつはディフェンスだと思っているので、静岡戦(第12節)あたりから積極的に書いてました。その翌週の東芝戦では、ベストブロッカー賞(ファンが選ぶ、試合を通して諦めずに戦った選手に送られる賞)をもらえたんです。それはこうして毎日書いてたことが、ファンの方にも伝わったということ。たまたまできたわけではなくて、こういう準備ができてこそだと思うんです」
4月初旬のインタビューで今シーズンを振り返り、「いままでにない充実感がある」と話す。
「でも出られなかった日々があるので、出ていることが当たり前と思ってはいけない、というのが常に頭の中にあります。あの時の気持ちを忘れない、覚悟を決めた時のマインドでやっています。そうならないと僕はダメになるので」
それは昨シーズンを経験して分かったことだ。プロ1年目で立てた目標は、「試合に出ること」。結果、第9節、10節と、13節、14節の4試合に出場できた。前2試合はFBの控え、後の2試合は12番での先発だった。
「はじめFBで結構、パフォーマンスも良かった。それで次の週も入れたけど、全然ダメで落とされた。また頑張って今度は12番をもらえて、そこでも良いパフォーマンスができた。でも次の試合がダメでまた落とされました。試合に出てパフォーマンスが良いと気持ちがふわふわしたり、安心感が出てきて、準備が疎かになっていたんです。そのマインドがダメだったんだなと」
いまも脳内で格闘を続ける日々だ。
「今年もやはり誘惑はあるんです。リトルホンダ(本田圭佑)みたいに、リトルホリゴメがいるんですよ(笑)。今日の振り返りは早めに終わらせてもいいじゃんとか、練習のスイッチをオンにしなくていいじゃんとか、漫画にあるようなやりとりを結構リアルにしてるんです。
でもこのまま許したら去年と一緒になる、絶対にダメだと言い聞かして。今のところそいつ(誘惑)には勝っています。だからこの試合は全然ダメだった、というのはなかったはずです」
今季掲げたターゲットは「10番を取る」だった。その目標は達成したと言っていいだろう。昨季はCTB、FBとプレーの幅を広げたが、SOへのこだわりは強い。
それは「日本代表のSOになりたいという気持ちがある」からだ。ノートの1ページ目に書くシーズン目標が、「日本代表入り」となる日はいつだろう。その指標にもなる、今シーズンを締めくくる最終ゲームが本日22日、敵地・相模原ギオンスタジアムで見られる。