ラグビーリパブリック

試合中断という戦い、大胆集客の狙い。ヴェルブリッツに惜敗したブラックラムズのいま。

2023.04.19

ブラックラムズ(黒)とヴェルブリッツの接点の激しい攻防(撮影:松本かおり)


 天から落ちる雫はいつしか白い粒に変わった。雹(ひょう)が落ちてきたのだ。

 4月16日、東京・秩父宮ラグビー場が悪天候に見舞われ、国内リーグワン1部・第15節のキックオフは1時間5分、後ろ倒しとなった。

 観客は雨よけのできるエリアへ避難したが、徐々に、この雰囲気さえも楽しもうと思ったのだろう。

 小降りになったのを見計らってスタンド前方へ降り、グラウンドをバックに写真撮影をするファンの姿もあった。

 試合が始まれば、空は明るさを取り戻した。

 ホストのリコーブラックラムズ東京は、自軍キックオフから首尾よく攻撃権を確保。対するトヨタヴェルブリッツの反則を立て続けに引き出し、5分には先制した。

 続く14分までには3-8と勝ち越されたが、その直後、リーグ屈指の花形役者が魅する。

 FBで先発のアイザック・ルーカスだ。

 金のベリーショートと口髭が特徴のファンタジスタは、ハーフ線付近左で球を得るや急加速。目の前に2人いたタックラーをひとりずつかわす。抜け出す。

 さらにもうひとり、ふたりと追っ手を振り切り、敵陣22メートル線を通過した。まもなくブラックラムズは、向こうの防御が揃わぬ左大外へ展開。WTBのシオペ・タヴォのトライなどで、10-8とした。

「前進することが、僕の仕事です」

 こう語るルーカスは、守りでも存在感を示す。

 18分頃、自陣ゴール前の左タッチライン際で好カバー。相手WTBの高橋汰地へ刺さり、トライを防いだ。

 10-15と5点差を追う同27分頃にも、対するFLの姫野和樹を止める。日本代表でもある姫野がグラウンド中盤から駆け上がってくるのを、自陣22メートルエリアで待機。走路を埋め、足元へ刺さった。

 身長180センチ、体重85キロのサイズは、ヴェルブリッツが擁するパワーランナーと比べればややスリムか。

 それでもルーカスは、「いいディフェンスが、自分たちのパフォーマンスを作る」。開幕前の期間にチーム間で話し合い、粘り強さを示すことこそ自軍の矜持だと共有していた。

 試合全体を通してはどうか。

「ふしぎな日でした。ドライな気候でカウンターアタックができる時間帯もあれば、急にザーザー降りになってキックバトルが増えた。その、バランスを見なくてはいけない試合でした」

 確かにルーカスの言葉通り、ゲームが動き出してからも天気に左右された。グラウンドコンディションがプレー選択に影響を与えるどころか、試合の進行も妨げる。

 空に雷鳴が轟いたのを受け、試合が中断したのは後半17分。折しもブラックラムズは、ヴェルブリッツに17-29と差をつけられていた。

 場内アナウンスが観客へ促す。持っているチケットの席種にかかわらず、屋根のある場所へ移るようにと。

 再開が決まったのはその約25分後。両軍の選手がウォーミングアップをはじめ、中断されてから35分ほど経ったタイミングでリスタートがなされた。

 足止めを余儀なくされたアスリートの心境は、さまざまだったろう。

 例えばリードしていたヴェルブリッツ陣営からは、こんな声が連なった。

「流れが途切れたような感じは、ありました」

「気持ちを入れるのは、しんどかったです。お互い様だと思うのですが…天気、グラウンドの状況へのストレスはありました」

 インターバルは、勝負のバイオリズムをダイナミックに動かした。

 ヴェルブリッツの反則、得点機のエラーにより、ブラックラムズが多くのチャンスをつかんだ。後半から出場したNO8のネイサン・ヒューズが2トライを挙げ、37分には局地戦から右PRの千葉太一がフィニッシュ。34-29と先行した。

 ところがその直後、貴重なトライを挙げた千葉が痛恨のペナルティを犯す。

 自陣中盤の接点の周りでインターセプトを狙うも、落球した。それを「故意」だと見なされたのだ。本人は悔やむ。

「なんとかしようとしてしまったのがよくなかったです。もう少し、チームとコネクトできれば…」

 ラストワンプレー。ヴェルブリッツのSH、福田健太に同点トライを決められた。直後のコンバージョン成功で34-36。ブラックラムズは惜敗した。

 ピーター・ヒューワット ヘッドコーチは「チームのレジリエンス(困難を乗り越えるたくましさ)はわかった」としながら、こうも言う。

「ディシプリン(規律)は改善しないと」

 勝ったヴェルブリッツは7勝8敗と12チーム中6位。かたやブラックラムズは5勝10敗で8位となったが、7点差以内の負けにより勝ち点1を積み上げた。下部との入替戦を回避した。

 西辻勤ゼネラルマネージャーは「そのレベルからは早く脱却したい」としながら、けが人がかさんで9位となった昨季からの進歩を感じた。

 だからこそ、自らに矢印を向ける。

 反則数はこの日に限ればヴェルブリッツよりも「10」も少ない「8」に止まったものの、ここまでの15試合を通算すれば「215」とリーグワーストにのぼる。

 ヒューワット、若井正樹ハイパフォーマンスマネージャーのコーチングに信頼を置いたうえで、「反則を減らすためのマネジメントができなかったのは、僕らの責任です」と西辻は言う。

「レフリーとのコミュニケーション(の機会を作ること)もそう。また『いらない反則』が多いのだとしたら、フィールド以外も含めて見直す部分があると訴えられる。反則を減らすだけで、いまの戦力でも十分にベスト4に入れると僕は思っています」

 勝負の場は、グラウンドの外にもある。

 このゲームは、リーグが重点集客試合に指定。ホストだったブラックラムズもまた、大胆なプロモーションをおこなっていた。

 約2か月前からこの日をターゲットに定め、公式ファンクラブのレギュラー会員には「バックS指定席」と「バックA指定席」の観戦チケットを無料で進呈。入会費のいらないフリー会員にも「B指定席ゴール裏(南)」の券をプレゼントした。

 大がかりな発券に賛否があるのは織り込み済み。今回はまず、リーグワン発足後ではクラブ史上初の観客1万人超を達成したかった。組織としての成功体験を積みたかった。

 果たして、観客数は「11,060人」。開門時間を早め、ストレスのないオペレーションに努めた。西辻は、選手のひとりが「試合前にスタンドを見て泣きそうになった」と言っていたのを人づてに聞いて安堵した。狙いは的中した。

 関係者の話を総合すると、有料入場者の割合は全体のうち3~5割といったところか。ただし今回の施策で、ファンクラブの会員は激増したと西辻は説く。これを機に、新たなコアファンが生まれるのを促したい。場内のあいさつではこう訴えた。

「きょう来ている皆さん、仲間を誘って、来季、秩父宮や駒澤(オリンピック公園総合運動場陸上競技場=ブラックラムズのホストエリアの会場)でお会いできるよう、お待ちしております」

 もちろん、今季もまだ終わっていない。

 最終節は4月22日。神奈川・相模原ギオンスタジアムへ出向き、開幕節で負けた三菱重工相模原ダイナボアーズに挑む。

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