スタンドのノンメンバーから大きな声援が飛んだ。
後半29分、背番号22がピッチに入ったときだった。
観客が沸いた。
後半36分、ラインアウトから走り、ゴールラインに迫ったNO8シオネ・ハラシリがタックルを受けた後にボールを浮かす。それを手に、インゴールに入った。
横浜キヤノンイーグルスの田畑凌(たばた・りょう)には忘れられない日となった。
2019年春に京都産業大学から入社、入団して5度目の春。4シーズン目にして初めて国内最高峰リーグに足跡を残した。
これまで、ルーキーイヤーのトップリーグで、カップ戦に1試合出ただけだった(三菱重工相模原戦)。
4月9日、柏の葉公園総合競技場でNECグリーンロケッツ東葛に45-19と完勝したこの日。
チームは初めてのトップ4入り、プレーオフ進出を狙っている。勝ち点5を得る勝利に貢献した。
出場のチャンスを掴んだのは、3月31日に実施された、豊田自動織機シャトルズ愛知との練習試合で好パフォーマンスを見せて評価を受けたからだ。
そのシャトルズ戦、出場選手たちは燃えていた。
久々の試合機会。イーグルスでは、控え選手たちで構成するチームを『ライザーズ』と呼ぶ。
試合への準備の中で、Aチームの模擬対戦相手となる。圧力をかけてレベルアップに貢献する。
イーグルスを代表して戦う選手たちを支えてきた男たちが、久しぶりに迎えた対外試合で燃えないはずがない。
34-14とシャトルズに快勝した。田畑も活躍した。
「(沢木敬介)監督からは、情熱が伝わってきた、と言ってもらえました」
デビュー戦でのプレーを振り返り、「15分でしたが、ライザーズで積み重ねてきたことを出せました」と話す。
ピッチに入るときは緊張した。スタンドからの仲間たちの声が聞こえた。気持ちが高まった。
SOの田村優は、「おめでとう。楽しんでいこう」と笑顔で招き入れてくれた。
高いレベルの練習環境に日々身を置いている。その自信が、不安になりそうな自分を奮い立たせた。
武器は、強さとハードワーク。すぐにタックルの機会がきた。バッキングに走る。トライシーンは、忠実なサポートから生まれた。
「短い時間でしたが、やりたいことをやれました。トライは、(ゴールラインまでの)1メートルが遠く感じました」
試合後は仲間たちからあらためて祝福を受けた。
両親にもいい報告ができる、と笑顔だった。
入団からここまで、心が折れそうになったこともある。
しかし、試合に出られなくてもチームのためにできることがある。そんなマインドを持てるようになって変わった。
同じ立場の仲間たちの存在が大きかった。
一人ひとりがチームのことを考える集団になったことと、イーグルス浮上の軌跡が一致する。
日本代表でもある梶村祐介主将、南アフリカ代表のジェシー・クリエルが同じポジションにいることも、「毎日のように向き合っている最高の対戦相手」と言える自分がいる。
「力を伸ばすには、いちばんいい環境」
チャレンジの積み重ねが、この日の結果を呼んだ。
試合後の記者会見、沢木監督は田畑のパフォーマンスを「見ての通り、よくやっていた」と話した。
「ただ、きょうのようなプレーを継続して出すことが大事」
それを受けて「本当にその通りだと思います」と言った。
「またメンバー外になっても、これまでと同じように、(Aチームに)プレッシャーをかけ続けます」
競争の先にあるスポットライトが当たる場所。そこにある空気を初めて吸い込んで、あらたなエナジーが湧いた。
正念場を迎えるチームにとって、決して小さくないパワーになる。