3月26日、空模様は生憎の雨であったが、満開の桜並木の見下ろす東京・稲城市総合グラウンドで、第2回となる全国ブラインドラグビー大会が開催され、大阪のBALs大阪が昨年覇者のサンラビッツ愛知を下し、見事初優勝を飾った。
視覚障がい者が参加するパラスポーツの一種であるブラインドラグビーについては、ラグビーリパブリックでも何回か紹介されているが、ルールは7人制でタッチフットをおこなうイメージに近いものである。
後述する通り、視覚障がい者と視覚障がいのない晴眼者が一緒にプレーし、選手の多様性を活かして協力しあう点がパラスポーツの中でも特徴的と言えよう。
おおまかなルールは以下の通りだ。
・タックルは禁止。両手タッチでディフェンス。
・ボールキャリアはタッチされた時点でボールを置き、プレー再開。
・6回タッチされると相手ボールとなる。
・スクラム、ラインアウトはノーコンテスト
・7人の選手のうち2名は晴眼者を入れることができる。
・トライ、コンバージョンキックは視覚障がい選手のみがおこなえる。
今回新潟フェニックスファイターズ、アルコバレーノ東京、かながわLucy’s、サンラビッツ愛知、BALs 大阪の5チームによるトーナメント戦で優勝が争われた。各チーム、選手のモチベーションはいずれも高い。
というのも、今年は、2019年に初めて行われて以来となる国際大会が開催予定されている。
「ブラインドラグビー日本代表」を目指して研鑽を積んできた選手たちにとって、この大会は日頃の練習成果を試す絶好の機会でもあるからだ。
また、この大会は選手権試合であると同時に、ブラインドラグビーの認知拡大のための大会でもある。そのため、15人制フル代表選手らを招いたブラインドラグビー体験会、エキジビジョンマッチも開催された。
晴眼者の選手も、視界に制限をもうける特殊なゴーグルをつけることで、視覚障がい者の視野を擬似的に体験することができる。この状態でパスを受け、走り、相手ディフェンスをかわすことが求められる。
「とにかく視界が制限されるので、味方選手がどこにいるのか、そればかり見てしまう。すると正面の相手を見ることが疎かになってしまう」
女子日本代表の鈴木実沙紀選手(東京山九フェニックス)はブラインドラグビーの難しさをそう語る。
「自分たちのやっているラグビーでも、つい相手を漠然と見てしまうことがあるが、ブラインドラグビーを経験することでいかにしっかり見ることが大切か、良い経験でした。」
ちなみにエキジビジョンマッチでは、鈴木の他に廣瀬俊朗(元日本代表、元東芝)、ナタニエラ・オト(クリーンファイターズ山梨)、クリスチャン・ロアマヌ(同)らが参加し、大会運営に協力したボランティアらとの対戦となった。
視界を遮られた不慣れな状態でのプレーは、率直な感想としてこのあとに紹介するブラインドラグビー選手のプレーとは比べるべくもないもので、元日本代表のレジェンドたちがノックオンを繰り返す姿に、終始笑い声が会場に響いた。
試合は0-5で、ボランティアチームの勝利。参加した元日本代表には次回大会までにぜひともブラインドラグビーのスキルアップを期待したい。
さて、エキジビジョンマッチはそんなわけで笑いと歓声につつまれる中終了したが、その後開催されたBALs 大阪とサンラビッツ愛知による決勝は、うって変わって選手権大会独特のピリッと張り詰めた空気となった。
昨年優勝のサンラビッツ愛知は結成も2019年と、日本でのブラインドラグビー黎明期から活動してきたチーム。ウイングの原久志が「絶対的エース」というトライゲッターだ。
さしずめ「愛知の赤い稲妻」であろうか。繰り返しになるが、ブラインドラグビーではトライを決められるのは視覚障がいのある選手に限られる。そのため、視覚障がい選手の活躍がチームの得点力を左右する。
一方のBALs 大阪は昨年秋にようやく選手が揃い、全体で練習できたのはこの大会前だけだったという、新興チームだ。
こちらもラグビー経験者を多く抱え、特にウイングの出崎琢巳は高校まで一般の部活動でラグビーを経験してきた視覚障がい者で、走力には自信を持っている。元PRらしい鍛えられた体格は「なにわの弾丸」といったところだ。
試合は前半から互いに激しくボールを動かして突破を図るものの、冷静にディフェンスされてなかなか大きくゲインできない展開が続く。
なお、ブラインドラグビーではスクラム、ラインアウトともにノーコンテスト。自然と、パス、ランによる展開ラグビーとなる。2名まで参加が認められている晴眼者がSHかSOのポジションとなり、ゲームを作る。
しかし晴眼者プレーヤーがオープンに展開することばかり意識してディフェンスラインを広げすぎると、ギャップを見つけた晴眼者の声で視覚障がいのプレーヤーが中央から縦の突進をかけてくることもある。なかなか戦略性の高い競技だ。
拮抗した展開の前半終了間際、ようやく試合が動く。大胆なランで大きくディフェンスをかわした出崎選手がそのままスピードを生かしディフェンスを振り切って左スミにトライ。キックは決まらず、前半5−0で折り返す。
なお、コンバージョンキックは視覚障がい選手が蹴る必要があるため、サポート役が声でキックの方向をガイドする場合もある。
この「声」について、当日エキジビジョンマッチに参加し、また自身の運営する特定非営利活動法人One Rugbyが大会協賛をおこなっている元日本代表の廣瀬俊朗は、「コミュニケーションをしっかり取らなければならない競技。相手のことを考えて、伝えるべきことを伝えないとならない。実はこれは通常のラグビーでも同じことなんです。ブラインドラグビーから学べることはたくさんあると思います」と述べた。
試合の方は後半になって大阪がさらにワントライ、キックも決まって12-0とリードのまま、残り時間が迫る。
その後、愛知がようやく持ち味を発揮し、期待の林がワントライを返し12−5とする。1トライ決まればまだまだ勝負の行方はわからない。雨でボールの扱いも難しい中、ミスがゆるされない緊迫した場面が続く。
しかし結局大阪がここは守り切り、愛知は追い上げをみせたもののもう一歩及ばなかった。
大会MVPはBALs 大阪の出崎が選ばれた。
「日本代表になるためにブラインドラグビーを始めました。持ち味であるスピードを生かして、ぜひ代表入りを果たしたいと思います。」と、今後の意気込みを語った。
先日車椅子テニスの国枝慎吾選手が国民栄誉賞を受賞し、野球WBCでも日本人選手が多くの国民に感動を与えた。
ブラインドラグビーをじっくり1日観戦して感じたことは、一般スポーツでもパラスポーツでも、同じように我々に勇気と感動を与えてくれるスポーツならではの力になんら変わりはないということだ。
今後ブラインドラグビーからも国民を感動させるプレーヤーが現れることを想像せずにはいられない。
そのためにもブラインドラグビーの発展を支援する輪が広がること、そして選手各位の一層の活躍を期待してやまない。