笑顔だったかと思えば悔しがり、またすぐ笑い、喋る。
そんな女子大学生の横で指導者の顔になっていた。
バックローとして日本代表9キャップ。東福岡、早大、コカ・コーラで活躍した男が、いま女子ラグビーの指導者として経験を重ねている。
九州産業大学女子ラグビー部の強化にあたっているのが豊田将万ヘッドコーチ(以下、HC)だっだ。
同チームは、3月25日、26日と、静岡・エコパスタジアムでおこなわれたリージョナル・ウィメンズセブンズに出場した。
最終的には6位(全9チーム参加)に終わり、目標としていた太陽生命ウィメンズセブンズシリーズのコアチーム昇格(4チーム)はならなかった。
しかし、勝てば昇格決定だった準々決勝の横河武蔵野アルテミ・スターズ戦では前半を5-0とリード。後半も残り2分までリードしていた。
5-12と逆転負けを喫して目標には届かなかったものの、その後の順位決定戦でも自分たちらしい戦い方を見せる逞しさを感じさせた。
トップリーグ2018-2019を最後に現役生活を終え、2年間はラグビーの現場からほぼ離れていた。現職に就いたのは2021年の春だった。
コカ・コーラでの仕事を続けながら、平日は18時からチームの指導にあたっている。
「学生たちは、自分の仕事の都合に合わせてくれています。本当にありがたい。周囲で支えてくれている方々も含め、感謝しかありません」と話す。
選手たちのコンディションを整えてくれるトレーナーや、アドバイザーとしてチームを支える平野勉さん、グラウンドを貸してくれる九州電力キューデンヴォルテクスなど、協力者は何人もいる。
今大会を「素晴らしい場所で、多くの試合をできました。試合数が限られている女子ラグビーチームにとっては貴重な経験でした。目標には届かず残念でしたが、またここから、と思っています」と振り返った同HCは、「(みんなを)勝たせられなくて申し訳ない」と続けた。
あらためて、「競った試合をものにできるチームが強いチーム」と感じた。
「これまで経験してきたことを、まだ練習の中に落とし込めていませんでした。選手たちも、小さな差によって結果が変わると知ったと思います。いい勉強になりました」
4月になれば指導3年目。自分自身も、選手とともにステップアップしていきたい。
順風満帆な2年間ではなかった。
指導の現場は初めてだ。学生たちは、10歳以上年齢が離れている自分のことなんて知らない。
「検索してある程度のことは分かっても、『この人だれ?』という感じだったと思います」
そんな中で大切にしたのは、自分がどうなりたいかではなく、「選手たちと一緒にどこを目指したいのか、を伝えることでした」という。
「自分も一緒に成長していきたいと言いました」
その気持ちに応えてくれる選手たちと感じていた。「学生たちから学ばせてもらうことも多い」と話す。
コカ・コーラ時代の向井昭吾監督や、かつての職場の上司で、現在は日本経済大女子ラグビー部の指導にあたっている渕上宗志監督。大学時代の清宮克幸監督、中竹竜二監督と、多くの指導者の影響を受けてきた。
「真似ではなく、それぞれのいいとこ取りをしています」と笑う。
自分自身は、モノ言う選手だった。「(コーチに)言われるばかりじゃつまらない、と思っていた」と認める。
現役時代のミーティング、意見が出ないまま話がまとまりそうになると、本当にいいのか、と問いかけていた。雨を降らせて地を固める。穏やかな海より荒海を進む。そんなタイプだった。
だから、いまも意見を言ってくる選手がいるとかわいい。
「嬉しくなります。その選手の考えが、きっとチームを強くします。選手は一人ひとり違う。その人に合った接し方をするように心がけています」
正直、自分が女子チームの指導者になるとは考えていなかった。「頭の中で将来を考えた時、男子のイメージしか持っていませんでした」と回想する。
しかしいま、目の前にいる選手たちの成長が楽しみで、性別なんて関係ない自分がいる。
自信のなかった選手たちは、近隣の強豪チームと練習試合を組んだら、雲の上と思っていた存在と自分たちの距離が正確に分かり、グンと伸びた。
そこに男子、女子の差はない。ラグビーはラグビー。みんな、うまくなりたい。強くなりたい。楽しみたい。
それをサポートしてあげたい。
現在、部員は九産大の学生ばかりの15人。4年生が2人卒業し、4月になると、2人の新入生が加わる。
選手たちの経歴は様々だ。トップチームと伍していくには十分な人数ではないけれど、一人ひとりと向き合い、育てていくのが自分の仕事と考える。
「外国出身選手もいるチームと戦うのは不利と見られますが、考えて、みんなでつながってプレーし、スキルがしっかりしていれば戦えるし、勝てると思います」
それが実現すればもちろんのこと、それを可能にしようとする経験は、彼女たちの人生の中できっと役に立つ。
リージョナル大会の会場に足を運んでいた恩師、清宮氏に「いいチームじゃないか」と声をかけられた。
「私服になればラグビーをやっていると分からないと思う」(豊田HC)小柄な女子たちのプレーは、観戦者の心に響いていた。
「清宮さんには、勝たせてやれよ、と言われました」と笑顔を見せた。
恩師は、選手たちを幸せにするのがコーチという理想を実現してきた人だ。「勝たせてやれ」の言葉には、「期待を込めてくれている」と感じた。
選手たちとともに前へ進み続ける。