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リスペクトが根底。近いけれど近すぎない“体育会同期”。「野澤武史」×「二ノ丸友幸」

2023.03.28

二ノ丸友幸氏(左)と野澤武史氏。43歳の同期。(写真/ともに本人提供)



 混迷の時代をどう生き抜くのか。これからの体育会系人材はどうあるべきか——。

 スポーツ、ビジネスの両面で活躍するトップランナーであり、ラグビー界の“同期”である2人の対談に、「これから」を切り拓くヒントを探った。

 1人は、日本ラグビーフットボール協会のユース戦略TIDマネージャーであり、山川出版社代表取締役社長としても知られる野澤武史氏。愛称「ゴリさん」。

 慶應高、慶應大、神戸製鋼(現コベルコ神戸スティーラーズ)で活躍した元フランカー。日本代表キャップ4を持つ。

 2020年のコロナ元年にはアスリートを支援する一般社団法人「スポーツを止めるな」を仲間と設立。現在は女子学生アスリートに向けた生理とスポーツの情報発信活動「1252プロジェクト」も積極的に推進する。

 もう1人は、ユース世代の著名プロラグビーコーチであり「Work Life Brand」代表の二ノ丸友幸氏。愛称「マルさん」。

 啓光学園高時代に2年生で高校日本代表に抜擢され、同志社大−カネカ−クボタ(現クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)でプレーした元スクラムハーフ。

 現在はラグビー以外にカーリングなど他競技を含めた10チームと契約し、さらにハンドボールやサッカーのコーチ個人のコーチング(コーチのコーチ)に加え、企業研修を行うプロスピーカー(講師)として人材育成プロデュース事業も展開する。

 経営者として、またコーチとして、社会で横断的に活躍する43歳同士の対談は「2人の出会い」から「デュアル・キャリア」、そして「体育会系人材のこれから」まで多方面に及んだ。

■「ライバル」から「親友」へ。根底にはリスペクト

二ノ丸:「神奈川に『ゴリ』というとんでもない奴がいる」というのは噂には聞いていたけど、初めて会ったのは、高校3年の高校日本代表の候補合宿だったね。

野澤:俺は高校1年だったか、同期と見に行った花園でマル(二ノ丸)のバックフリップパスを見たことがあった。当時の慶應高校はスクリューパスを入れるかどうかという段階。後に同級生だと知って、こんなやつがいるのかと驚いたな。

二ノ丸:初めて会った時の一言が衝撃だった。合宿初日のオリエンテーションが終わった後、大阪勢で喋っていたら、ゴリが僕のところにやってきて「お前が二ノ丸か」と。「そうだ!」と答えたら「お前は高校2年から高校ジャパンに選ばれてるかもしれないけど、俺には通用しないからな」と言った。本当にそう言ったのよ(笑)。僕はポカンとして「はぁ」という感じだった(笑)。

野澤:選抜に慣れている大阪勢は、いつも代表合宿でワイワイやっている。俺の中で「打倒関西」というテーマがあったんだよね。だから、まずは去年から選ばれている二ノ丸の心をへし折ってやろうと思った(笑)。

二ノ丸:見事にへし折られたし、怪我を負わせたからな。セレクションマッチでゴリにレイト気味にタックルされて、アキレス腱を痛めた。結局それがトップリーガーを引退するまで長引いて、現役引退のきっかけになっている(笑)。

——そんな2人が現役引退後、先にユースの日本代表コーチになっていた二ノ丸さんが推薦する形で、ユース世代のコーチ現場で再会。現在の関係性は?

二ノ丸:信頼できる唯一無二の親友ですね。ラグビーにしてもビジネスにしても腹を割って話すし、本気でケンカできる相手。こんなこと言ったら機嫌悪くなるかな、とか考えたことは一切ないです。だから何か依頼されたとしても、興味がなければ「俺は興味ない」と断れます。

野澤:マルはいつも刺激をもらえる同期。これだけ多岐にチームや業界を横断して顧客を毎年獲得していくのは、想像しただけでも大変な作業。コーチングという切り口で、スポーツの分野からも飛び出して価値を創出する手法は、他者に真似できない「マル・スペシャル」になっている。僕はそこをリスペクトしている。あと、マルは強心臓だね。

二ノ丸:ゴリこそ、プレースタイル同様にストレートにいくタイプ。言わなければいけない時に下を向いている人間だったら、リスペクトしていないし、こんな関係にはなっていない。

野澤:言葉に行動を合わせるか、行動に言葉を合わせるかだと思う。俺の場合は、言葉に行動を合わせた方が、自分の苦手分野に突っ込んでいける。でかい口を叩くと責任が出るけど、そのぶん面白い。

二ノ丸:やっぱり、これだけ率直に言い合える信頼関係の根底は「リスペクト」だと思うな。ゴリとはよく意見がぶつかるけど、それはお互いがリスペクトしているからこそ。だから遠慮なく本音をぶつけ合えるし、彼の意見も聞いてみたいというところもある。それだけの根拠やブレない考えをゴリは持っている。

■「ビジネスパーソン」であり「ラグビーコーチ」

——お互いに「ビジネスパーソン」であり「ラグビーコーチ」。2人のように将来スポーツ・ビジネス両面で活動したい現役選手もいるのではないかと思います。

野澤:知っておいて損はないと思うことは「目標」と「目的」の違いです。自分は「目標」と「目的」の違いに気付くのに時間が掛かってしまった。23歳から10年間くらいは人が立てた目標に一生懸命。そのうち「目標」では人生を引っ張れなくなってきて、そこで初めて「目標」と「目的」に違いに気付きました。本来なら神戸製鋼時代に気付くべきでした。

二ノ丸:競技を問わず、プロ選手でも社員(アマチュア)選手でも人生設計(セルフプロデュース)が重要だよね。例えば、ラグビーをしていない時間にラグビー以外の教養やスキルを身につける。それが選手としても社会人としても必要であるし、現在進行形で成長に繋がると思う。

野澤:良い視点だね。それがのちの人生に繋がっていく。

二ノ丸:僕自身、「デュアルキャリア」の考え方を軸に固定観念や前例踏襲には囚われない考えを大切にしているから、ラグビーコーチだけではなく企業研修の講師をしたり、コーチ業でも競技に囚われることなく、カーリングチーム(北海道北見市の「KiT CURLING CLUB」)に関わらせてもらったりしている。

野澤:お互いにたくさんのことを同時にやった方がはかどるタイプじゃないかな。ラグビーで学んだことは仕事でも使えるし、コーチングで痛い目にあったことが経営で使えたりもする。たとえばコーチになりたての頃は「目の前の試合にいかに勝つか?」の対処に追われていたけど、そうなるとチームは大きくならない。軸を作って太くして、枝葉を付けていく。加えてチームの成熟度も考慮しなくてはいけない。MBAでのフレームワークなど学びは助けになった。ただの壁打ちじゃなくて、スカッシュみたいに多面的にパコパコ壁打ちすると、返球されるまでの時間が短くて両者にいい影響がある。

二ノ丸:勘違いしてほしくないのは、引退後のキャリア、つまり「セカンドキャリアの準備をするべき」と言いたいのではなく、いろんな学びやスキルを身につけることは現役選手である今のキャリアにプラスになるということ。それが結果として、セカンドキャリアに繋がることもある。相談を受ける選手(アスリート)には、毎日10分でも何か続けたらどうかと提案している。プロ選手でも24時間はラグビーをやってないわけだから可能なはず。僕も今後のキャリアアップのために、毎日取り組んでいる活動がある。



■今の子ども達に「体育会」は選ばれるのか

——「体育会」は男同士の強すぎる連帯関係を生みがちですが、2人の場合は「お互いへのリスペクト」が適切な距離、関係性を生んでいる印象です。近いけれど、近すぎない同期ですね。

二ノ丸:少なくとも自分のことを「体育会系」だとは思っていないですね。「体育会系ですね」と言われたら、あまり褒められている気はしません。

野澤:僕も「体育会」はあまり好きな言葉ではないかな。唯一体育会の良いところを挙げるとするなら、すぐ椅子から立つ力、行動力かなと思う。

二ノ丸:「体育会」については、古き良きものについては継承したり、現代社会に通じるものがあれば残したらいい。ただ体育会の常識が社会の常識ではないものもたくさんあるので、どんどんアンラーン(過去の成功体験・学びを捨てる再学習方法)してアップデート、融合をしていけば良いと思う。

野澤:たぶんU17世代のトライアウトをした時に、体育座りをして並んでいるのは日本しかないんじゃないかな。日本の体育会にいると、不必要なことに耐える力がついてしまう。それは良い部分でもあるけど、疑問を持っておくことはすごく大事。

二ノ丸:体育会の常識でいえば「度が過ぎる上下関係」には常に疑問を抱いている。高校時代、「なんで後輩が先輩の洗濯をしなきゃいけないのか」と思っていたので、もちろん、1年時は先輩の洗濯をしたけど、3年生になった時は自分でしていた。あとは「全員で同じ体操をする」とかも苦手だったな・・・。自分が関わっているチームでは伝統なものは残しつつ、セルフウォーミングアップを取り入れている。人によってコンディションは違うわけだし、時間制限の中でどんなアップをするのかは、自分で考えて身体とコミュニケーションをとってほしい。高校時代(啓光学園)の時もセルフでアップをする時間があって、それが自分にとってのスタンダードだった。

野澤:脱体育会系を含め、現代に通じる取り組みをしていたチームは昔からあったね。

二ノ丸:啓光学園もチームカラーとして上下関係はあまりなかったと思う——と思っているのは僕だけかな?(笑)。でも試合で敬語は喋らなかったし、例えば、3年生にリーダーがいなかったら2年生の自分がゲームリーダーになっていた。

野澤:それはゴール思考だね。積み上げ思考ではなくて、「こうやったら勝てるんだからこれでいいだろう」という逆算の考え方。

二ノ丸:「練習は毎日するべき」も疑っていい常識。時期によっても異なるけど、やりすぎるから練習以外の日は「休みたい」が優先する思考になる。海外でよくあるように、全体練習を週2日にして「そこでレギュラーが決まります」と伝えれば、練習がない日に主体的に練習する文化に変わっていく。アップデートには時間が掛かるからすぐ理想にはならないけど、体育会の「常識」はそこから見直してみるのも必要かもしれないな。

野澤:今まで通りの「体育会」だったら、今の子供たちに選ばれなくなるのではという危機感はある。今の子たちに「3年生になったら面白くなるから待ってくれ」と言っても、待たないと思う。

二ノ丸:企業(社会)でも、もう年功序列から成果主義に移行しつつある。大学生の起業も増えているし、大企業よりもベンチャー、スタートアップの方が良いという価値観も生まれ出している。

野澤:あまりにも他の変化のスピードが速いから飽きられてしまう。いま変化のスピードが速い。昨日までやっていたことがいきなり0点になったり、昨日まで稼げていた商売がある日突然一切稼げなくなってしまうかもしれない時代。だからこそ、自分で判断できる人間を育てていかないといけない。

二ノ丸:自らで考えて判断し、動くことができる人間を「自考動型人材」と提唱している。ラグビーは戦術戦略のあるスポーツだから集団でやらなければいけないところはある。ただ「自考動型人材」への仕掛けはいろんな場面に散りばめることができる。今後は自分で判断できる人材がスタンダードになっていくと思う。

——変化の速い現代を生き抜くために心掛けていることは?

野澤:重要なのはインプットし続ける環境に身を置くことだと考えていて、常々「見る、読む、出会う」の実践を心掛けています。どれだけ現場を見たか、本を読んだか、人に会ったか。そのインプットが、ある日社会課題に対峙した時、自分の原動力になると思っています。

二ノ丸:先ほども述べましたが、固定観念や前例踏襲に陥らないために、常に広い視点を持ちながら、井の中の蛙にならないように、感度を高くして、自ら積極的に行動を起こしていくことが重要かなと思っています。色々な常識やルール、価値観が変わろうとしている変革期でもあることから、リスキリング、アンラーンを実践し、自分で自分をコントロールしながら、みずから正解を創っていくことを意識して行動しています。

◇ ◇ ◇

 ラグビーで培ったスキルを駆使し、ビジネスパーソンとしても精力的に活動する野澤氏と二ノ丸氏。お互いに認め合い、近すぎず遠すぎず「リスペクト」の距離で切磋琢磨する姿が印象的だ。

 さまざまな境界を横断する2人の対談には、多くの示唆があった。幅広く活動するからこそ、新しい視点やヒントも生まれるのだろう。今後も日本ラグビー界の発展に貢献する「横断者」の活躍に期待したい。