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【ラグリパWest】アーリーエントリー。 福井翔 [帝京大学→花園近鉄ライナーズ]

2023.03.22

学生時代に鍛え上げた技と肉体を早くも披露している。(撮影/平本芳臣)



 リーグワンはこの2022−23年シーズンからアーリーエントリーを導入した。大学卒業を控えた選手をリーグ戦に出場させられる制度である。

 福井翔(しょう)もその制度の適用を受けた。花園近鉄ライナーズのフッカーである。帝京から親会社である近鉄グループホールディングスへの総合職入社が内定している。

 ここまで3試合に出場。初先発も記録する。3月5日の相模原DB(旧・三菱重工相模原)、11日のトヨタを経て、17日の東京SG(旧サントリー)である。3戦目は先発だった。

「こんなに早く試合に出られるとは思っていませんでした」
 日焼けした端正な顔が緩む。出場2戦目のトヨタ戦では、後半7分に出場。先発の樫本敦との入替だった。その1分後、ラインアウトのファースト・スローイングを決めた。そのボールは保持され、ロックの菅原貴人がトライに形を変えてくれた。
「野中さんが前に出て来てくれたので投げやすかったです」
 捕球者になったフランカーの野中翔平を讃えることを忘れない。野中は主将でもある。

 花園近鉄は昇格後初のディビジョン1(一部)の戦いで不振にあえぐ。開幕12連敗。主たる要因は「6割」と言われるケガ人の多さである。

 スタンドオフのクウェイド・クーパーは開幕から欠場している。オーストラリア代表キャップ76を持つ文字通り「司令塔」がチームにいない。昨年8月、左アキレス腱を切った。東京SG戦では受傷後初めて、日本で公の場に姿を見せている。

 フッカーのポジションもケガに見舞われる。二番手と見られる4年目の金子惠一がそのケガ人入り。主将経験者の樫本も35歳と年齢が上がる。東京SG戦は欠場した。福井は起爆剤としての役割を期待されている。

 ヘッドコーチの水間良武からは「ヒットスピードがいい」と評価された。水間の現役時代は同じ位置。スクラムにおける重要な部分を知る。福井は172センチ、100キロと身長はそう大きくはない。しかし、組む時に速く、強く相手に当たれれば、優位性を保てる。トヨタ戦では2回あったスクラムを押されなかった。

「自分としてはセットプレーのところは印象付けられているようには感じています。一方でフィジカルのところはまだまだです」

 自分を客観視できる。帝京時代には絶対的なフッカーが1学年下にいたこともある。江良颯(えら・はやて)である。

 江良と重なった3年間、福井は勝てなかった。江良はルーキーイヤーから正選手。福井は最終学年のこの4年生でリザーブに入ったきり。福井も東福岡では主将をつとめ、2018年度の高校日本代表にも選ばれた。その経歴を凌駕(りょうが)される。

「ラグビーをやった中で、同期やひとつ下に負けたことは今までありませんでした。すごく悔しかった。文句ばっかり言っていた時期もありました。でも、4年生になってようやく自分にベクトルを向けられるようになりました」

 帝京の練習は午前中の3時間ほどだが、福井は単位を順調に取得しており、午後は個人練習に時間を割いた。最大で90分ほど。ヒットにこだわったのは、OB監督の相馬朋和の教えでもある。同じフロントロー、プロップだった相馬はパナソニック(現・埼玉)で日本代表キャップ24を得た。

 福井は3、4年と大学選手権で連覇を経験する。今年1月、59回大会決勝の早稲田戦では、国立競技場の緑芝を踏んだ。後半29分、江良に代わる。
「つらいこと、楽しいこと、色々ありましたが、あの優勝ですべてが報われました」
 大会最多の優勝16回を誇る早稲田を73−20で降す。帝京は大会優勝を11に伸ばした。明治の13に次ぎ、歴代3位である。

 福井が今に続く競技を始めたのは小6だった。京都のアウル洛南ジュニアである。
「それまではアメフトをやっていたのですが、プレーの最後はタッチで終わっていました。ラグビーは何でもあり。最高でした。弟のレンがやっていたこともありました」
 蓮は同じ帝京の新3年生ナンバーエイトである。

 中学は藤森(ふじのもり)。東福岡の名や強さにあこがれ、関門海峡を渡る。モスグリーンのジャージーを着たのは2年から。冬の全国大会はその97回、そして98回大会とどちらも4強で敗れた。主将をつとめた3年時は桐蔭学園に38−46のスコアだった。

 帝京進学の理由を語る。
「成功させてもらえる場所だと思いました」
 花園近鉄から声がかかったのは昨年の9月。GMの飯泉景弘はOBでもある。
「小学校から近鉄の試合を見ていました」
 実家の最寄り駅は丹波橋。チームも鉄道もなじみがあった。15の年まで暮らした関西に戻る。今はチーム寮に住まう。

「今まで僕は帝京のリザーブでした。4年間を通してインパクトを残せていません。だから、このチームでは、スタメンを目指しながら、チームを強くしていきたいです」

 採用してもらった恩返しに燃える。そして、大学時代を振り返る。
「彼がいなければ、今の僕はありません」
 江良への感謝も口にした。

 福井の座右の銘がある。
「置かれた場所で役割を果たす」
 厳しさに見舞われた4年間をくぐり抜け、福井は真理にたどり着く。花園近鉄にとってはプレーのみならず、心のある新人を獲ったといえるだろう。