しぶとい。あきらめない。
三菱重工相模原ダイナボアーズは今季、国内リーグワンの1部に上がって1年目だ。
現役の日本代表はいない。元トヨタヴェルブリッツの岩村昂太主将をはじめ、他部から出場機会を求めて移籍してきた選手が多い。
それでも開幕4戦で3勝。有名選手を擁する上位候補から白星を得て、団体競技としてのラグビーのおもしろみを示した。
防御担当コーチから昇格のグレン・ディレーニー新ヘッドコーチは、例年より約1か月も早い7月中旬に始動した。フルコートを走り続ける猛練習を重ね、試合終盤まで粘る気質を長所にできた。
つまり、苦しい思いをした分だけいい思いができた。日大の大学院を経て2022年に加入の左PR、坂本駿介は、こう苦笑する。
「勝つためにはきついことをしないと。プレシーズンに自分を追い込んで、キャパを上げることが重要です」
1月14日の第4節では、旧トップリーグ時代に5度優勝の東芝ブレイブルーパス東京を23-19で制した。
その午後、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いたのは坂本侑翼。名字の同じ先輩の坂本駿介より1シーズン、先に入部し、いまや主力のオープンサイドFLだ。
身長176センチ、体重95キロとトップレベルにあっては小柄も、大型選手の足元へ何度も刺さる。果たして、対峙した大物選手を驚かせる。
リーチ マイケル。日本代表で主将経験のある34歳だ。
某日、自身が対戦したなかで「すげー強い」と感じた選手の名を順に挙げることがあった。ここで、ダイナボアーズの7番が話題になった。
東京サントリーサンゴリアスのFL、山本凱と並べ、リーチは「勉強」になると繰り返した。
「坂本と、凱。彼らの試合を見て、勉強しています。タックルの強さ、間合い…。勉強になります」
言われた本人はまず恐縮する。「えー…」。対戦した日に話をしたわけでもないのに…。
「憧れの選手にそう言ってもらえるのは、嬉しいですね。畏れ多いです。ワールドカップで見て、凄いなぁ、凄いなぁ、と思うだけで。対戦できるとも思っていませんでした」
問答を通し、手応えも口にする。
「あの、自分の形でタックルすれば、通用…する…な、と、思ったところはあります」
第6節からは4連敗を喫し、4勝1分5敗。第10節終了時点で12チーム中6位となった。対戦相手のレベルや試合数が2部と異なるステージにあって、選手は気持ちの切り替え、疲労回復の難しさを実感しているようだ。
しかしディレーニーは、白旗を上げない。
「いいスタートが切れた。周りをびっくりさせられた。その後、いろいろな学びがあった。これからもどれだけ成長できるかがキーになります。私たちは2部から昇格したばかりのチーム。1部の強度、1部でどんなプレーが必要なのかについて経験をしていない選手も多いです。ただ、点差を離されて負けた試合でも戦えている時間帯がある。それを80分通しでできるか、できないかが、次なる学びとなります」
いまはメンタルトレーナーの支えも借り、レフリングをはじめとした外的要因に左右されない逞しさを染み込ませている。
「ラグビーでは間を見て、状況判断をして、必要なスキルを出さなくてはいけない。スキル自体はグラウンドで練習できますが、見たものを受け、どう判断するのかはメンタルに左右されます。だから毎回、毎回、精度高くプレーできるよう、メンタルの準備もするのです」
3月12日には地元の相模原ギオンスタジアムへ、目下4位の横浜キヤノンイーグルスを迎える。第12節は神奈川ダービーとなる。
相手は南アフリカ代表SHのファフ・デクラーク、日本代表で経験が豊富なSOの田村優を擁する。元日本代表コーチングコーディネーターの沢木敬介監督のもと、組織的に攻めるだろう。
粘りが信条のダイナボアーズは、どう対峙するか。
坂本駿介は言う。
「自分たちにできることは、ダイナボアーズらしく前に出る激しいディフェンスで流れを作り、試合が終わった時に1点でも上回ること。ワンプレー、ワンプレーにフォーカスする。全員が同じベクトルを向いている」
日大にいた頃、イーグルスの仕事が決まる前の沢木からチーム練習を指導してもらったことがある。沢木の好む実戦仕様のトレーニングを体験しているだけに、イーグルスの特徴にも想像が及ぶ。
「テンポがどんどん上がり、自分たちも考えなければならない練習ばかりでした。身体も、頭も疲れて、終わった時に『これは、(その日の練習に費やした)1時間の疲れじゃない』と感じました。(自軍の鍛え方と)似ている部分もあるかもしれないです」
ハードワークの勝負が見られそうだ。
10日のダイナボアーズの練習では、司令塔のジェームス・シルコックや元ニュージーランド代表でNO8のジャクソン・ヘモポが概ね別メニュー調整だった。今回は欠場となる。
長丁場のシーズンを戦うべく、主力選手の体調管理にも神経を注がねばならないのが現状だ。
しかし指揮官は、こう断言する。
「全選手がどれだけ努力していて、どれだけ学ぶ姿勢があるかを私は知っています。どの選手も信頼して起用できます。誰かを休ませないといけないから誰かを出そう、より、 手を挙げてきた選手にチャンスを与えよう、という言い方が合っています」
歩んできた道のりを信じられるから、破壊力のあるチームを前にもそう簡単にギブアップしない。