ラグビーリパブリック

ワイルドナイツ、スピアーズとの無敗対決を修正力と防御で攻略。

2023.03.05

スピアーズ相手にディフェンスするワイルドナイツのベン・ガンターと平野翔平(撮影:松本かおり)


 見た目以上にスリルを味わっていよう。

 国内タイトル2連覇中の埼玉パナソニックワイルドナイツは、各クラブにヴィヴィッドな策を講じられるなか、自軍の型を保ち、適宜、微修正を施し、今季のリーグワン1部で勝ち続ける。

 3月4日、本拠地の熊谷ラグビー場で対峙したのは、8勝1分のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ。無敗同士の第10節だ。

 この試合も快適な時間にはできなかった。

 縦への推進力と多彩な連携の光るスピアーズに、ワイルドナイツはいくつも好機を与えたのだ。

 特に前半は再三、自陣で反則を犯した。接点への働きかけで、不要な妨害をしたと見られたか。

 左PRとして好タックル連発の稲垣啓太も、首を傾げた。

「反則への意識づけが、足りていなかったかなと。自分たちの判断(合法的に球に絡んでいるという感覚)がレフリーと合わないことはあります。それが重なってきた時に見切りをつけ、球の争奪戦にコミットしないようにしてもよかった。…それにしても、前半、(反則を)重ね過ぎました」

 日本代表でも船頭役を担うHOの坂手淳史主将は、渦中、久保修平レフリーにくぎを刺されたようだ。

「次、やったら(反則を犯したら)、イエロー(10分間の一時退場処分)もあるからね」

 問題は放置しなかった。10-12とビハインドを背負いハーフタイムを迎えると、久保レフリーに声をかけ、足を止めてもらった。

 ぶつかり合いでの判定基準、自軍の問題点を整理した。

 仕切り直しの、これがプロローグとなった。

 まずは後半5分頃だ。自陣深い位置までアタックされながら、攻防の境界線の後ろで堅陣を張れた。

 その延長線上で生まれたのが、可視化されづらいファインプレーだ。

 対するFLの末永健雄が駆け抜けようとした右端のスペースを、アウトサイドCTBのディラン・ライリーがカバーした。

 末永の手前にいた相手WTBの木田晴斗に迫りながら、木田が末永にパスを出した瞬間にそのコースへ回ったのだ。

 クラッシュした。

 まもなくLOのルード・デヤハーが駆け寄り、スピアーズの作った塊をタッチラインの外へ押し出した。

 末永は悔やむ。

「内側(中央方向)にもスペースが見えて、どちらへ行くかを迷ってしまったのが(トライを)取りきれなかった要因かなと。(ライリーの)スピード、凄かったです」

 規律と防御がスコアにつながったのは、その直後の10分頃だ。

 ワイルドナイツは自陣22メートル線付近で、1人目がタックルし、起き上がる間に2人目が球に絡むか、絡まないかをジャッジし続ける。まもなくFLのベン・ガンターの地面への働きかけで、スピアーズのミスを誘った。

 対するSH、藤原忍にこう嘆かせた。

「言葉にするのは難しいですが、ちょっと、(接点でボールの)出しづらさがあり、僕自身にもプレッシャーがかかるような感じがありました」

 こぼれ球は左タッチライン際へ回った。ワイルドナイツはキックとチェイスで一気に敵陣へ侵入。自軍ボールを得てからトライを決めるまで、わずか、16秒だった。

 その瞬間に走り、球を前方に蹴り、弾道に追いついたWTBのマリカ・コロインベテからラストパスをもらったSOの山沢拓也がコンバージョンも決め、17-12と勝ち越した。

 続く15分にも自陣で好ジャッカルのガンターは、自分の、もしくは自分たちの反射神経をこう表した。

「刻一刻と状況は変化する。そのなかでどのようにプレーするか(を考える)」

 スピアーズは後半24分頃、SOのバーナード・フォーリーのランをきっかけにトライラインまで迫る。

 ここで魅したワイルドナイツの戦士は、FLの福井翔大だ。

 インゴールへ飛び込む選手を捕まえ、トライを防いだ。

 その直前にペナルティがあったため3失点も、すでに交代済みの坂手は仲間を誇った。

「あそこでトライを与えなかったのは大きいです。相手に流れを渡さなかった」

 さらに坂手が名場面に挙げるのは、23-15とリードしていた後半32分頃だ。

 前に出て守るスピアーズにインターセプトを許し、敵陣中盤から50メートル以上もゲインされていた。相手CTBのハラトア・ヴァイレアが、逃げ切りにかかっていた。

 ここからが肝だ。球を持つヴァイレアには俊足のライリーが飛びつき、その間、ガンターが、山沢が、コロインベテが一斉に駆け戻る。決壊を防ぐ。

 坂手は振り返る。

「私たちのディフェンスを象徴するような瞬間でした。大勢で大きく後ろに帰っていた、いいシーンでした」

 この壁には新人WTBの長田智希も入り、「点数的にも1本、取られたら厳しい状況。全員で必死にディフェンスしていた」。ここを乗り切ると、試合終了間際に長田自身がだめを押せた。

 敵陣中盤での連続攻撃のさなか、左タッチライン際からパスを呼び込む。左中間にいたライリーにゴールラインと平行に放ってもらい、空洞を破る。聡明なルーキーの心境。

「(スピアーズの)カバーが最後の最後で…。そして、スペースが空いた。いくしかない、と」

 ノーサイド。30-15。前後半の反則数はワイルドナイツが「8」「3」で、スピアーズは「4」「5」。ロビー・ディーンズ監督は、部下の順法精神と辛抱強さを哲学的に称えた。

「ラグビーという試合をリスペクトしたから、このような結果になったのだと思います。タフに攻めてくる相手に、ディフェンスをしなければいけなかった。ここでもし、リスペクトがなかった場合、自分たちは痛手を負ったでしょう。1インチの隙を与えたら1マイルは押し込まれる、そうした細かいところを抑えられた」

 ワイルドナイツにとってのリーグワン。それをあえて娯楽にたとえるなら、次々とハードなイベントが発生する冒険ゲームのようだ。

 第11節は3月11日、東京・秩父宮ラグビー場であり、前年度のファイナルを戦った東京サントリーサンゴリアスが待ち構える。

 ライバルの脅威を等身大で認識し、かつハードワークする「リスペクト」。今後も不可欠なファクターとなろう。

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