浪人生活を乗り越えた苦労人か。
その肩書きがつけられそうになると、原田衛は「それは本当の浪人の人に怒られると思います」。10代の時点で、自分の立ち位置を俯瞰していた。
桐蔭学園高ラグビー部の主将として冬の全国大会に出ながら、高いレベルで競技を続けられる大学の一般入試を受けた。不合格だった。
卒業後、慶大のAO入試を経て9月入学を果たした。その間、試験対策と同時にトレーニングにも力を入れていたから、自身の苦労を誇っては「本当の浪人の人に怒られる」と感じたわけだ。
以後は日本で最も歴史のあるラグビー部のレギュラーを張り、最終学年時は主将となった。そして2022年春、東芝ブレイブルーパス東京へ入った。
12月中旬からの国内リーグワン1部では、スクラム最前列のHOとして第9節まで全試合でメンバー入り。先発は5回である。
身長175センチ、体重101キロの身体で繰り出す突進とタックルは、昨季4強入りの老舗クラブでも重宝される。
リーグワンで戦う手応えを、本人はどう捉えているのだろうか。
王者の埼玉パナソニックワイルドナイツとの開幕節で19-22と接近した2日後、このように答えた。
「大学も年々、レベルが上がっているので、フィジカルの部分は困ることはないです。ただ、スピードはリーグワンのほうが速い。そこへの対応は、少し、難しいかなと」
少なくとも、競技の幹をなすぶつかり合いでは手ごたえを感じる。
滝田陽介ヘッドアスレティックトレーナーに上手な「身体の使い方」を指導されたことで、激しいゲームに出ても疲労感を最小限に止めてもいる。
オフシーズンに走り込んだことで、ブロンコテストと呼ばれるタフネスぶりを測るランニングテストの数字はチームのFW陣でトップクラスとなった。
同じポジションで11学年上の森太志から、スクラムを組む際の心構えを説かれたのもよかった。
「相手をリスペクトしすぎるなよ、と」
謙虚でありつつ堂々とする。それが性分だろう。同じ働き場の選手には、ウェイトトレーニングの数値でも「負けたくない」という。
徳永祥尭共同主将は、こう補足する。
「このチームに足りないことはどういうことかについても、自分なりの回答を持って接してくれる。気づかされることも多いです」
自分が、自分のいる組織が勝つため、積極的に意見を述べている様子が伝わる。
原田は「具体的なことはあれですけど」と同僚を気遣い、こう重ねる。
「向上心を持って取り組み、自分に何が足りないのかを考えて行動する。それをずっとやっていけば、全体として(進歩できる)。もちろん、それが東芝に足りないというわけではないんですが。…僕と(同期で左PRの木村)星南は個人練習をして、先輩たちにもプレッシャーをかける。これで、チームとしてどんどん成長できると思います」
進路選びの際は、大学の同級生で副将だった山本凱と複数のクラブの練習に出かけた。後に山本が入る東京サントリーサンゴリアスへも一緒に参加したが、原田は、ブレイブルーパスを選んだ。
どちらがよいかではなく、どちらが自分に合っているかで決めた。
「凱は、サントリーに行くだろうなと。僕は、東芝っぽい感じ。必然的に、そうなりました」
どうやらサンゴリアスはスタイリッシュに映り、ブレイブルーパスにはどこか「高校の部活のよう」な朗らかな印象があったという。
振り返れば少年時代から、両軍が対決する際は「東芝を応援していました」。2006年度まで5シーズン主将を務めた熱血漢、冨岡鉄平氏のファンだった。
時を経て、好きなチームの一員になることを選んだわけだ。いまは、そのチョイスを正解に変えている最中である。
一緒にいる仲間の「向上心」に火をつけ、ひとつひとつの白星をつかむ。その流れで、自身は一日でも早く日本代表に入る。
「ワールドカップに出ることが、目標です」
今秋、社会人になって初めて迎えるワールドカップがフランスで開かれる。