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スピアーズ対ダイナボアーズではワラビーズの司令塔が対峙。両軍のプランは?

2023.02.24

今季8節まで全試合出場のスピアーズSOバーナード・フォーリー(撮影:高塩 隆)


 曇天に包まれたスタンドをオレンジ、緑の応援ウェアが埋める。

 2月19日の東京・江戸川区陸上競技場であった国内リーグワン1部・第8節では、この熱心な愛好家たちを唸らせるマッチアップがあった。

 どちらのチームも、司令塔のSOに「ワラビーズ」ことオーストラリア代表の経験者を並べた。

 ホストのクボタスピアーズ船橋・東京ベイでは2019年加入のバーナード・フォーリーが、敵地に乗り込む格好の三菱重工相模原ダイナボアーズでは新加入のマット・トゥームアがそれぞれ先発した。

 いずれも、チームが定めたプランを高次で体現しようとした。

 果たして、ファンと同じオレンジのジャージィを着たスピアーズに軍配が上がった。

 60-22。

「本当にふたつの試合のようでした」

 こう振り返ったのは、敗れたトゥームアのほうだ。ハーフタイムを挟んで、まるで異なる展開になったことを悔やんだ。

 確かに前半こそ、スピアーズ側から見て13-8と接近していた。ところが味方がイエローカード(10分間の一時退場処分)を受けた後半2分からの10分間で、28失点を喫した。

「後半はイエローカードが出た時にメンタル的に耐えきれなかった。いい相手との試合でそうなってしまったら…。ここが敗因です。自分たちのミスをした後の反応が遅かったり、対応が遅れたりもした」

 緑のファーストジャージィではなく青のセカンドジャージィをまとった33歳は、この日が故障明け2戦目。初めてのスターターだった。

 グレン・ディレーニー新ヘッドコーチは、ラン、パスの技術のあるトゥームアをSOに据え、もともと主戦SOだったジェームス・シルコックをFBへ移した。

 キック力と突破力に長けるシルコックには、戦術上、タッチライン際でのチャンスメーカー役も任せた。

 初昇格した今季は開幕2連勝も、直近では2連敗中だ。シーズン初頭に白星をもたらした堅守を維持しつつ、攻めに新味を加えて状況を打破しようとしていた。

 対するスピアーズが大型選手の圧力を長所としているのを踏まえ、指揮官は言った。

「スピアーズのやっているラグビー(の凄さ)を認めています。大きな選手がいる。それに対して自分たちはスピードを活かし、ボールを動かし、プレーし続けることを大事にしました」

 効果は表れた。

 10点差を追う前半34分までの約2分間だ。

 ダイナボアーズはまず、敵陣10メートルエリア右のスクラムから右へ展開。WTBの韓尊文の突破を引き出すや、左へ振り戻す。

 LOのエピネリ・ウルイヴァイティの突進を挟み、次のフェーズではトゥームアが球を得る。

 トゥームアの左隣には3人組のユニットが横一列に並び、直進し、スピアーズの防御を引き付ける。

 その間、トゥームアは自身の左斜め後ろに立ったCTBの奈良望へパス。奈良は左大外のシルコックにロングパスを通し、シルコックは迫るタックラーをひとり、ふたりと外す。作戦通りの動きで、敵陣ゴール前左まで進む。

 ここからダイナボアーズは、スピアーズの強烈なタックルを食らいながらもなんとか攻撃を継続する。

 最後はトゥームアが、右中間で再び得た球を右端へふわりと浮かせる。キックパスだ。それをFLのサム・チョンキットが捕球し、韓に渡す。13-8と迫った。

 トゥームアがアタックで魅したのは確かだ。

スピアーズの山本剣士を追いかけるダイナボアーズのマット・トゥームア(Photo: Getty Images)

 しかしそれは、トゥームアと同い年のフォーリーも然りだった。ここまで今季全試合に出場中のフォーリーは、何より、理想の位置でアタックするための工夫で光っていた。

 印象的だったシーンは、ダイナボアーズ側が「粘っていた」と自軍の戦いを評価していた試合序盤にあった。

 まだスピアーズが6-3と3点のみリードしていた、前半12分頃である。

 ここではダイナボアーズがハーフ線付近からカウンターアタック。右中間に立つトゥームアが、防御網の裏へキックを蹴り上げる。

 本来ならスペースに落として混とん状態を作りたかったろうが、落下地点には、フォーリーが、待ち構えていた。

 クリーンキャッチ。

 すぐさま、前がかりになるダイナボアーズの死角へ蹴り返した。

 楕円球がひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつとバウンドするうち、駆け戻るダイナボアーズ勢の前にはスピアーズ勢が迫っていた。

 ダイナボアーズは、自陣22メートルエリアまで戻された。シルコックのキックで一時的に難を逃れるも、ピンチは続く。

 ここからスピアーズは、敵陣中盤左の自軍ボールラインアウトを起点に攻めるのだ。

 蹴り合いで得たチャンスをものにすべく、中央では突進役のパワー、右端ではWTBの根塚洸雅のスピードを活かす。

 スピアーズはしばらく敵陣ゴール前に居座り、最後はフォーリーのパスを絡めた動きで両軍通算初のトライを決めた。直後のコンバージョン成功で13-3とした。

 フォーリーは、前半のキックゲームを満足げに振り返っていた。

「2人のキッカーがいた。シルコックとトゥームアです。それを止めたら、カウンター(攻め返す)チャンスを作れると思った。(前節終了後が休息週だっただめ)リフレッシュして、相手のことを勉強した。何をしてくるかをより想像ができた」

 分析に基づく計画は、後半の大量得点にもつながった。

 この日のスピアーズは、ダイナボアーズの防御が鋭く飛び出してくると見立てていた。パスの受け手がその網にかからず、かつ勢いよく走れるようするため、攻撃ラインをやや深めに定めていた。

 その仕組みが効いたのは、20-8と先行して迎えた後半5分である。

 相手ボールキックオフを自陣深い位置で確保し、接点から球を受けたフォーリーが高いキックを放つ。その弾道を追うのは、売り出し中のWTB、木田晴斗。ハーフ線付近左中間でジャンプ。スピアーズは球を再獲得する。

 ここから右に進路を取る。

 縦に、深い、ラインを作る。

 フォーリー、インサイドCTBのリカス・プレトリアスと順にパスをつなぎ、右PRのオペティ・ヘルが力強く前に出る。

 追いすがるタックラーを引きずり、左にいたプレトリアスにオフロードパスを渡す。

 プレトリアスは快足を飛ばす。

 一気に進む。

 結局、ラストパスをもらったFBのゲラード・ファンデンヒーファーのトライなどで、27-8とスコアを広げるのだった。フォーリーはこうだ。

「フィート(相手との距離感)を保って、スペースにボールを運びたかった」

 深い攻撃ラインが機能したのは、後半23分のトライシーンでも然りだ。

 フォーリーが退いた直後にあたるこの局面では、根塚の走力が冴え、NO8のファウルア・マキシがフィニッシュした。46-15とした。

 ノーサイド。7勝1分と負けなしで12チーム中2位についた。

 前節までと比べてプレー中のミスが減ったとあり、それぞれ満足げだった。

 かたやダイナボアーズは3勝4敗1分で7位。正念場を迎えるなか、トゥームアが復調と献身を誓った。

「自分の主な役割はアタックリーダー。どの位置でプレーするかをコントロールしないといけない。今季はタックル、ディフェンスでうまくいくシーンもありますが、いい時とよくない時の差が大きい。一貫性を持ってやるために、(経験者の)自分ができることがあるかもしれません」

 リーグ戦は折り返し地点を越えた。世界で戦ってきたプレーメーカーたちは、引き続きその技術、判断で観客を喜ばせる。

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