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次はブルーレヴズとの「らしさ」対決。サンゴリアス、名手クワッガ・スミスにどう対峙?

2023.02.22

ブルーレヴズ戦へ向けて練習するサンゴリアス。写真手前は中村亮土(撮影:向 風見也)


 JR南武線の高架橋をバックに、東京サントリーサンゴリアスの面々が汗を流す。楕円球を追う。

 2月21日。府中市内の練習場では、午前練習が終盤にさしかかっていた。選手が複数のブロックに散り、それぞれが実戦で起こりうる動きを繰り返す。

 特にきつそうなセッションをしていたのは、線路に近い側のゴールライン周辺の一団だ。

 ほとんどが身体をぶつけ合うFW陣の選手で、攻撃側と守備側にわかれてコンタクトを繰り返す。

 接点ができれば、すぐさまSHの選手が攻撃側のひとりにパス。受け手はそのままタックラーとぶつかる。その繰り返しだ。

「あれ、やばいですよ! 頭がおかしくなりそうになります」

 参加した石原慎太郎は言う。2013年入部の左PRだ。

 ここでの「やばい」とは、「身体に負荷がかかり、極端に息が上がり、意識が遠のく」のくだけた表現か。「ただ…」とこう続ける。

「今年のラグビーでは、壁にぶち当たらなきゃいけないシーンが増える。あれ(当該の練習)からは逃げられない。やらなければいけない。目を背けられない部分ではあります」

 今季のサンゴリアスは、伝統的な部是の「アグレッシブ・アタッキング」を見つめ直している。

 FWの選手は左右、中央に万遍なく散る主流の位置取りをするのではなく、接点や司令塔団の周りに次々とわきあがるのを目指す。勢い、数的優位を作るためだ。

 スタイルの特性上、確かにFWが「壁にぶち当たる」のは不可欠だ。

 サンゴリアスはリーグ不成立となった2020年を除き、5シーズン連続で国内2位以上につける。しかし、日本一なったのは2017年度の旧トップリーグが最後だ。優勝が社命に近いクラブにとって、長らく頂点から遠ざかっている事実は問題視される。

 今季、同部OBの田中澄憲新監督が就いた。周囲の意向でゼネラルマネージャーから転身した。

 新指揮官は、結果を得るためにもまずプロセスを点検する。現状の攻撃方式を導入したのも、その一環だ。

 激しい練習を終えた選手がクラブハウスに引き上げるのを見送り、こうつぶやく。

「ハードワークするようになりました。昔のサンゴリアスに、戻ってきましたよ」

 現在加盟する国内リーグワン1部では、目下7勝1敗。海外代表選手をけがで欠きながら、12チーム中3位につける。いまは、白星を重ねながら反省点を抽出するフェーズにある。

 さかのぼって18日の第8節。それまで2勝のリコーブラックラムズ東京にやや手こずった。18-7。敵陣22メートルエリアへ入った回数は、実際に得点できた倍以上だった。それだけ向こうに防御で粘られたのだ。防御時の判定にも後手を踏んだ。

 舞台は東京・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場だ。試合後、スタンド下の会見場で、先発SHの齋藤直人は反省した。

「何もかもうまくいかなかったというのが正直な感想です。あとでしっかりビデオを観返さなければいけませんが、いろんな選択肢を持ち過ぎ、迷った部分で、相手の圧力を受けることもあった。オプションを持つのも大切ですが、(試合の)最初は勢いを持つための選択肢を先行させるなどの工夫をしていけるかな…と」

練習後、メディアに対応するサンゴリアスの齋藤直人(撮影:向 風見也)

 共同主将でもある齋藤は、21日の練習後にも報道陣に対応した。試合当日に浮かんだ反省点については「そこは、意外とそうでも(大きな問題では)なかったかもしれないです」と相対化していた。

「ただ、少しは(反省する必要が)あって。サポートする人のボールを持つ人への『キャリー(突進)!』といったような明確なコールがあれば、迷いはなくなり、いい球が出るようになる」

 つくづくラグビーはチームスポーツだ。ひとりの選手が「壁にぶち当たる」際にも、組織内には繊細なコミュニケーションが発生する。

 次節は25日。敵地のヤマハスタジアムで、静岡ブルーレヴズが待ち構える。

 ブラックラムズ戦で得た学びを、ブルーレヴズ戦で活かせるか。齋藤は言った。

「先週はチャンスを作れていてもスコアにつなげられなかった。ゴール前での遂行力を上げる(のが課題)。アタックであれば少しでも前に出る、ディフェンスであれば少しでも前に出させないといった最後の細かいところ。それを今週の練習では、特に言って(意識づけて)います」
 
 ちなみにブルーレヴズは現在8位も、組織力と粘りで鳴らす。小柄な日本人FWが多い陣容ながら、落とした5試合のうち3試合が5点差以内。残る2試合も13点差以内だ。

 シーズン序盤の第2節には、国内タイトル2連覇中の埼玉パナソニックワイルドナイツに14-15と接近した。

 ヤマハ発動機時代の2011年からの6シーズン、現日本代表アシスタントコーチの長谷川慎が低く固まるスクラムシステムを涵養(かんよう)。いまなおその形を提唱し、磨き上げる。

 守ってはダブルタックル、機を見てのカウンターラック、ジャッカルが光る。攻めても十人十色の陣容を組織的に活かす。サンゴリアス陣営は、警戒心を緩めない。

 日本代表でもあるインサイドCTBの中村亮土はこうだ。

「(ブルーレヴズは)結果は出ていないですけど、めちゃめちゃいいラグビーをしていると思います。ボールを動かせるし、ブレイクダウンでの圧力がある。サンゴリアスとしてはベストワンを出すだけです。ブラックラムズ戦で学んだことを出していきたいです。あの時は(攻撃時の)接点でターンオーバーをされていた。そこは、直接的にブルーレヴズの強みでもあります。クワッガ・スミスという強烈なジャッカルプレーヤーがいて、ブレイクダウン(地面の上のボール)を乗り越えていく力が組織的にある。そこにプライドを持って、トレーニングをしているんだと思います。それに対し、もう一回、練習し、準備します」

 中村亮土が言ったように、ブルーレヴズには絶対的なキーマンがいる。

 NO8のクワッガ・スミス共同主将だ。身長180センチ、体重94キロと小柄も、密集で球をもぎ取る腕力、握力が際立つ。

静岡ブルーレヴズをけん引するクワッガ・スミス (C)JRLO

 齋藤は展望した。

「(ブルーレヴズは)ブレイクダウン(接点)に(圧力を)かけてくる。そこでいい球を出せないと、やりたいラグビーはできない。こちらはいいキャリー(突進)をして、2、3人目が速く寄る。その全員が、最後まで気を抜かずにボールを出そうと言っています」

 テンポのよいパスさばきを長所に日本代表にも定着する齋藤は、「レースに勝つ」とも宣言する。

 「2、3人目」にあたる援護役が、ブルーレヴズの選手がジャッカルを仕掛けるよりも速く接点に入るのがマスト。ひとたびボールに手をかけたら一瞬で奪い去ってしまうスミスに、指一本もボールへ触れさせないのがベストだ。

 接点に到達する「レース」。サンゴリアスがサンゴリアスらしく攻めるためにも、制したい領域だ。

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