日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛けに迫る連載の第5回!
今回は開幕6戦目にして今季初勝利を挙げたグリーンロケッツ東葛戦の直後に、山谷拓志社長に話を聞いた。プロスポーツチームの経営者としてのチームへの関わり方や、コロナウイルスが収束に向かう中、あらためてホストゲームの演出について語ってもらった。(取材日1月30日)
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――グリーンロケッツ東葛戦での今季初勝利、おめでとうございます(5日には2勝目、現在8位)。
ありがとうございます。負けは続いていましたが、ほとんどが接戦だったので、そこまで悲観することはないと思って見ていました。とはいえ早く勝ちたかったですね。
強化部長を兼務してるので、僕もすべてを現場スタッフ任せということではなく、いまチームでどういうことが起こっているのか、どういう状況なのかは堀川(隆延)HCとも話していましたし、コーチ陣のミーティングにも顔を出しながら確認していました。
ラグビーの競技経験はありませんが、どんなことが起きているのかや、会話の内容は多少なりとも分かります。ある意味では競技経験のない人にでも、どういう課題があり、どうすれば問題を解決できるのかは、わかりやすく明確になっているべきですよね。わからないことがあれば僕も質問しますし、ラグビー以外のところで話せることがあれば発言することもあります。
――経営者という立場でも、現場にも積極的に顔を出す。
プロスポーツにおいては”チーム”が最大の商品ですし、チームの勝敗が商品価値に結びつく構造です。スポンサーから支援をいただき、ファンにチケットを買っていただくことで成り立っている。
なのでチームがうまくいっていない、成果が出ていないことに関しては責任を持たないといけません。経営者としても、強化部長としても、そこからは逃げずに向き合っていきたいと思っています。
――集客を見ると、第4節のブラックラムズ東京戦の2836人からは、1000人ほど増えました(3721人)。
世間的にも1月、2月は新商品は出すべきではないと言われているくらい消費が落ち込む時期です。この寒さもあって正念場ではありますが、まだ少ないなと。
ただグリーンロケッツ戦では仕掛けてきたことが形になりました。うちの吉沢(文洋)選手とグリーンロケッツの細田(佳也)選手が飯田市の上郷RS出身ということもあり、上郷RSさんを招待してラグビースクールの前座試合をやりました。親御さん含めて100人ほど来ていただき、試合後には五郎丸くんと写真を撮れたりして喜んでくれました。そうした施策や他にもいろんなキャンペーンを打ったことで、前回よりも客足が伸びたと思っています。
――2月25日には3週間ぶりのホストゲームを控えています。相手は東京サンゴリアスです。
良いカードでもありますから、観客7000人の目標を掲げています。サントリーさんは敵チームですが、われわれのスポンサーでもあるんです。スタジアムで販売しているのは、すべてサントリーさんのビールです。吉野俊郎さん(元日本代表、現ワセダクラブ。62歳現役)が以前に静岡の支店長をされていたこともあり、相当ラグビーに熱い。
それで今回、静岡支店さんのご協力で試合会場でのビールにちなんだ企画を予定しています。サントリーを飲み干そうと(笑)。
――ヤマハスタジアム内には、工夫されたスポンサーのアクティベーションがいくつもありますね。ビッグプレーが出た時のビズリーチの広告はとてもマッチしていました。
できることはどんどん工夫して取り組んでいこうと思っています。スポンサーのアクティベーションや企画は、なにか面白いことができないかなと、雑談ベースで話が進むことが多いです。
トライの時は地元の運送会社さんのトラックがバーンと走ってくるのですが、これも先方と話していた時に、それ面白いねと。そこですぐに動画のサンプルを作って出してみたり。面白いと思っていただければ、一気に商談が進んだりもします。
バスケの時はビジョンにファンの方を映して、ポーズしてください、ダンスしてくださいということをよくやっていました。これも例えば焼肉を食べてる仕草をしてくださいという企画に焼肉店にスポンサーになっていただくとか、クスッと笑えて話題にもなるような企画をアクティベーションとして活用できます。
――ホストゲームの演出も、かなり浸透してきたように見えます。
これまでホームゲームの演出にラグビーファンの方は慣れていなかったと思いますが、ブルーレヴズのホストゲームではホームチームを後押しする、盛り上げるというところはだいぶ定着してきたと思います。スクラムの時に手を叩いたり、足踏みをしたりする”スクラムノイズ”だったり、グリーンロケッツ戦もかなりノリが良かったです。
ただ僕は一番応援したな、楽しかったなと思うのは、声を出すことだと思っているんです。声出し応援が解禁された時(リーグワンは2月4日の試合から、マスク着用を前提とした声出し応援を解禁)には、声を出したくなるような雰囲気づくりをしていきたいです。
宇都宮ブレックスの時も声出しの応援にはめちゃくちゃこだわっていました。はじめは日本人は声を出さないという意見もあったのですが、MCなどが誘導するのではなく、観客の皆さんから(自発的に)声が出るまでじっくり待ちました。
声を出さないと盛り上がらないようにわざとしたんです。例えばディフェンスの時に「ディーフェンス」とコールをするのですが、そこでMCを使わずに「トントン」というリズムの音だけを出した。そうすると何か喋らなければいけない空気になって、だんだんと声が出るようになった。周りのみんなが声を出せば出したくなるんです。それでいまでは宇都宮は声出しの応援がウリになった。他のチームはみんな嫌がっていました。
ヤマハスタジアムでもそういう雰囲気を作れると思っています。スクラムの時はうるさくてすごい、みたいな。うちのチームは勢いに乗って、相手チームは戦いにくいと感じる。それがホームアドバンテージですよね。
もちろん、相手へのリスペクトといったラグビーらしさを残しつつも、ホームのチームの後押しをする、みんなも一緒に戦うという雰囲気はぜひ作っていきたい。
相手がやりにくいと言うとラグビーでは誤解を招く可能性があるのですが、キックの時に邪魔するとかではなく、自チームへの応援の熱そのものが相手からするとプレッシャーになるような状況です。ラグビーでもテストマッチではアウェーの国はやりにくいですよね。
あとはどういう言葉を発するか。バスケの「ディーフェンス」にあたる言葉を見つけたいです。一番分かりやすいのは日本代表の時のリーチコール。お約束の言葉と、言うタイミングが分かればみんな言える。
レヴズであればそうしたフレーズを例えばスクラムの時に言いたい。そういう下地はできてると思います。
――山谷さんからラグビーファンはどう見えていますか。バスケよりも年齢層は高めで、静かに見る人も多い印象です。
ノリとかは年齢関係ないと思います。グリーンロケッツ戦でも、勝利してテンションが高かったこともあり、出口でみなさんとハイタッチもしました。周りが声を出したり踊り出せば、みんなやる。どこかにそういう境界線があるんです。アメフトのライスボウルでは、マカレナダンスを観客の5万人全員が踊るシーンを見てきましたから。
勝ったら社員もボランティアも周りのいたる人とハイタッチしまくる、みたいなのも面白いかもしれません。そうしたホームの色を出したいですね。
――山谷さんはホストゲームの演出にどのくらい関わっていますか。
僕もミーティングに入って、いろんな案を出しますよ。このシーンでこの曲使ってみたらどうか、とか。それはラグビーには合わないと言われたりもしますが(笑)、楽しい議論です。
スタジアムでかかっている音楽のCDを日本で一番持ってる自信があります(笑)。NFLだとチームごとに演出でかける曲をまとめたCDが売っているので、旅行で行くたびに買い漁ってきました。(アメフト)選手の時から好きで、こういう曲をかけて欲しいとかリクエストもしていました。
バスケの時は最初、お金がなくて外注できなかったので、曲出しスタッフを僕がやっていたりもしました。パソコンの前に向かってiTunesで選曲して…。
だからこの曲をかければ必ず盛り上がるというのを知っているつもりです。経験則でいえば、この曲は盛り上がる、この曲はすごく緊迫した雰囲気になる等、そのシーンごとにお約束の曲がある。
スタジアムやアリーナでかかっている音楽は、奥が深くて面白いんです。
※2月25日にヤマハスタジアムでおこなわれる東京サンゴリアス戦では、声出し応援を解禁(予定)。
PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任
静岡ブルーレヴズ立ち上げの際の記事はこちら(ラグビーマガジン2021年9月号)
リーグワン2022を振り返った記事はこちら(ラグビーマガジン2022年7月号)