多くの人たちを驚かせた。
昇格を果たしたばかりの関東大学リーグ戦1部の初戦で、4連覇中の東海大を破る。
結果的にシーズン最終戦となった大学選手権3回戦の早大戦では、後半途中までリードを奪った。
2022年度の東洋大は、大学ラグビー界を熱くするパフォーマンスを発揮したチームのひとつだった。
地道に積み上げてきたものが花開いた。
2023年度シーズンに向け、さらに期待がふくらむ同チームには、魅力ある選手が何人もいる。
その中の一人がFLの森山海宇(みう)オスティンだ。
4月から2年生になる。
昨季は1年生ながら、リーグ戦全7戦のうち6戦に出場した。大学選手権の舞台にも立った。
すべて途中出場ながら、攻守にインパクトのあるプレーを見せた。
ナイジェリア人のアレックスさんを父に持つ。
両親に大事に育てられ、立派な体躯を持つ青年になった。東京・大泉学園がホームタウンだ。
中学1年のときに友だちのお母さんに勧められ、練馬ラグビースクールで楕円球を追い始めた。
目黒学院高校時代は、2年時、3年時と花園の芝を踏んでいる。
母・美芳(みよし)さんはタクシードライバーとして勤務する働き者だった。昨年5月にガンで亡くなる前は、時間を見つけてはラグビーの応援に来てくれた。
最愛の人を亡くしたときは悲しみにくれた。
しかし、「母はラグビーが好きでした。だから、もっと頑張ろうと思った」と気持ちを奮い立たせる。
高校時代は95キロ前後だった体重は、いま110キロ。ダイナミックにプレーする。
パワフルさだけでなく、休みなく動き続けられるフィットネスも森山の武器だ。2年生になるシーズンは先発での出番も増えそうだ。
「7番が得意です」の言葉からは、タックルにもサポートにも、真っ先に走る意欲が伝わる。
「高校のときはディフェンスが好きでした。痩せていたこともあり、体力ではFWでいちばんだったと思います」
大学入学後にパワーがついた。
「アタックは強くなかった」と過去を振り返るも、いまは「上書きされた感じです」と、自身の成長を言葉にする。
目黒学院に学んだのは、海外出身者も多く、「楽しそうだと思った」からだ。
大学進学は、福永昇三監督から声をかけてもらって決めた。
同監督が当時の記憶をたどる。
「目黒学院の練習を見に行った時でした。みんなでタックル練習をしていました。繰り返しおこなう中で、前の人の順番を追い越すぐらいの勢いで取り組んでいたのが彼でした」
その積極性に惹かれた。
ナチュラルボーンタックラーだ。自然と相手に体をぶつけられる。
福永監督が大学進学後の進化を話す。
「7番としての才能がある。ディフェンスを大事にしているチームの中で、タックルを自然にできる。何も恐れていない。倒したり、スペースを埋める動きを、考えてやっていない。習慣に見えます」
「鋭角に入ってきた相手も、瞬間的に止められる」と付け加えた。
本人は大学での生活を楽しんでいる。
「先輩たちから話しかけてくれる部です。いい雰囲気。東洋に来て良かった」
人懐っこい笑顔を見せる。
『海』と宇宙の『宇』で『みう』。両親は、「心の広い人に」と、その名に願いを込めた。
「オスティンは、ナイジェリアの偉大な人の名前だそうです」
福永監督は、東海大に勝った試合のノーサイド直後のシーンを覚えている。
相手が逆転を狙って攻めた後半44分50秒過ぎ、SO土橋郁矢のタックルを受けて東海大の攻撃が途切れる。ノックオンで試合終了となった。
選手たちそれぞれが歓喜の雄叫びを挙げる中、森山はタッチラインの外に転がるボールを拾いに走り、その後、仲間のもとへ向かった。
「そういう振る舞いを自然とできる人間なんです」(福永監督)
将来は、人気番組「『世界の果てまでイッテQ!』のアシスタントディレクターになりたい」と言う19歳。
「世界中のあちこちに行ってみたいんです」
憧れの選手は南アフリカ代表主将のシヤ・コリシ(FL)。
ラグビーの世界で階段を昇り続ければ、いろんな国を旅することができる。