北関東を「攻めよう」と思っていた。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイでラグビーをしている海士広大は、昨シーズンを終えたら旅行に行くつもりだった。「攻めよう」は、出かけよう、繰り出そう、との意味合いだ。
予定通りとはいかなかった。日本代表の予備軍にあたる、ナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)に入ったためだ。北関東を「攻める」のではなく、大分のキャンプ地で汗を流した。
6月18日には、そのNDSが日本代表となって臨んだウルグアイ代表戦に後半20分から出た。東京・秩父宮ラグビー場で、代表戦デビューを叶えた。
直近の公式記録では「身長172センチ、体重102キロ」の28歳。トップレベルの舞台では決して大柄ではないものの、最前列の左PRとして渋い光を放つ。
「僕が得意としているのは、地上戦の細かいところ。ブレイクダウン(接点)で相手の球出しを遅くすることを意識してやっています」
秋には辛酸をなめた。
9月上旬から下旬にかけての日本代表候補合宿に加わり、精鋭メンバーが挑む試合期にも10月1日に追加招集の形で合流した。ところがそれから1週間ほどで、帰還を言い渡された。
正式な離脱は7日だった。9日にそう発表された。ちょうど、海士と同じ左PRのけが人が復帰した時期と重なる。
この報せを本人が知ったのは、チームが合宿先の宮崎からゲームのある福岡へ移動するタイミングだった。他の選手と一緒に空港までのバスに乗り、その後は自分だけが別行動となった。
「厳しい世界やな…」
当初は全く落ち込まないわけではなかったという海士はいま、決意を新たにする。
「最初はびっくりしたんですけど、『そういうもんや』と切り替え、またチャンスがあれば呼ばれるように試合でアピールしよう…と。『次、必要とされるように頑張ろう』というメンタルの切り替えの部分を、よくできるようになったと思います」
年が明け、ワールドカップ・フランス大会を今秋に控えるいま、こうも続ける。
「当落線上にいる選手は、厳しい扱いを受けると思う。ただ、ここでもっと必要とされれば…」
現在、国内リーグワン1部に参戦中だ。昨季12チーム中3位のスピアーズは、6節までで5勝1分の2位につける。
海士はここまで5試合でプレーし、要所でジャッカルを決める。普段は、ナショナルチームで得た財産も活かす。
「日本代表の選手は、エキストラ(練習時間外)でもスキルを磨いていた。僕もクボタで、スラッシさん(田邉淳アシスタントコーチ)、他のフロントロー(両PR、HOの選手)とパスの練習をしています。ひとりじゃ寂しいんで、皆を巻き込んでレベルアップできたらなと」
1月29日には、本拠地の江戸川区陸上競技場で1番をつけた。リコーブラックラムズ東京との打ち合いを、40-38で制した。序盤に24点リードを奪いながら、一時、勝ち越される展開だったとあり、反省を忘れない。
「去年に比べたら、勝ち切るという部分はよくなっている。あとは、ミスをした後すぐにディフェンスに戻るという細かい切り替え(の質)を高めていきたいです」
続く2月4日には、愛知のパロマ瑞穂ラグビー場でトヨタヴェルブリッツと戦う。
今度のように、日曜に試合をして次戦を土曜に控える状態はショートウィークと呼ばれる。身体のリカバリーと準備に使える時間が通常よりも1日、短くなるとあり、日程上、ショートウィークに当たったチームは試練を迎えることとなる。
しかも、これからスピアーズがぶつかるヴェルブリッツは、潜在能力に定評がある。
2019年の世界最優秀選手であるピーターステフ・デュトイを擁し、前節で連敗を4で止めたばかりと持ち直しつつある。
世界的な選手のひしめくリーグが中盤戦に入るなか、優勝を目指すスピアーズは正念場を迎えているようにも映る。
「必要とされる」のを目指す海士は、苦境を乗り越えるための下働きをいとわない。