ラグビーリパブリック

アイザック・ルーカスが閃光放つブラックラムズ。ハードワークを勝利につなげるには?

2023.01.31

ハイボールに挑むアイザック・ルーカス。アグレッシブなランでゲームを動かした(撮影:桜井ひとし)


 23歳でニックネームは「ミルキー」。白い肌とブロンドが映えるアイザック・ルーカスは、フィールドに違いをもたらす。

 国内リーグワン1部のリコーブラックラムズ東京に加入3季目だ。身長178センチ、体重84キロの体躯で、しなやかに走る。いつも謙虚だ。

「(黒子役の)FWが頑張ってくれているおかげで、私の目の前にスペースが空くんです。僕ひとりの成果ではない」

 1月29日、東京の江戸川区陸上競技場で第6節に挑んだ。

 相手はクボタスピアーズ船橋・東京ベイ。旧トップリーグ時代から2季連続4強入りの強豪だ。前年度12チーム中9位のブラックラムズは、前半19分までに0-24と大差をつけられる。

 それでも、沈まなかった。

 対するSOのバーナード・フォーリーがイエローカードで一時退場していた前半33、36分と、立て続けにトライとコンバージョンを決めた。

 そのうち2つめのトライシーンでは、キック捕球後の展開からルーカスがパス。自身の左側を、FLの柳川大樹に走らせた。

 ここで14-24と点差を詰め、やがてフォーリーの復帰を受け入れてからも、ブラックラムズはタフだった。

 ハーフタイムが明けてからはしばらく自陣で防戦一方も、大きく駆け戻ってからのタックル、ジャッカルを重ねた。スピアーズの攻めを未遂に終わらせた。

 左PRの谷口祐一郎は言う。

「泥臭く、地道なことをしっかりやってきた」

 8分。自陣ゴール前でターンオーバーを決めた。ここから大胆に球をつないだ。

 最後は右端をメイン平が快走し、キック。それをルーカスがインゴールエリアで押さえ、ゴール成功もあり21-24と追い上げた。

 直後のキックオフからの攻防で、相手ボールスクラムを与え、まもなく失点を喫するが、ギブアップは、しなかった。

 光が放たれたのは、21-34で迎えた後半21分だ。

 ハーフ線付近左のラインアウトから、ルーカスが球を受ける。低い前傾姿勢で、右へパスの動作を仕掛ける。

 前を見る。直進する。

 敵を欺く動きとダンスのステップを重ね、一気にトライラインまで駆ける。コンバージョン成功に伴い28-34と追い上げる。本人はこうだ。

「目の前の状況を見て、対応してプレーするのが得意。ちょうどギャップが空いていて、よかった」
 
 両軍はここからさらに点を取り合い、27分には33-37とスピアーズがわずか4点のリードを保った。勝負はそのままでは、終わらなかった。

 続く30分、ブラックラムズはグラウンド中盤右のラインアウトから展開する。左中間へ回り込んだルーカスにつなぐ。球を得たルーカスは鋭く駆け出し、目の前の防御を2人もひきつけて大外へさばく。

「スピアーズの防御はいいラインスピード(出足)。ちょっとそれが気になるタイミングもありましたが、いいアタックをしている時はダイレクトに行けた」

 おかげで、左端でフリーになったWTBのネタニ・ヴァカヤリアが気持ちよく走った。最後はFBのマッド・マッガーンがフィニッシュ。38-37。残り10分でこの日初のリードを奪った。

 ブラックラムズを率いるピーター・ヒューワット ヘッドコーチは、「うちにはロックスターはいない」と強調する。スピアーズがワールドカップ優勝経験国の代表を多く並べるなか、若手の多い自軍を「スコッド(総力戦)で、戦う。それが強みです」と分析する。

 その「スコッド」にあって異彩を放つルーカスは、この日、4試合ぶりの先発だった。今季は開幕2連敗を受け、第3節からベンチスタートに回っていた。

 指揮官のヒューワットには、時間帯ごとのプレー選択について課題を与えられたようだ。「僕はまだまだ完ぺきではない。ハードワークしながら、自分のベストバージョンになれるように」と本人。試合途中からインパクトを示し、直近の3試合は2勝1敗とした。

 スピアーズ戦では満を持してスターターに復帰し、相手の本拠地を自らの舞台に変えた。ヒューワットは満足げだった。

「彼の準備が整ったなと思って(先発させた)。23歳にとって(試合を制御する)10番は大変な仕事です。まして母国語ではないチームを動かさなくてはならない。ただ、しばらくスポットライトから引くようにしたことで、自分のゲームコントロールを磨いてくれました」

 試合は38-40で惜敗した。ラストワンプレーで得られたペナルティゴールが決まらなかったことで、今季3勝目を逃した。

 課題は明確だ。

 流れの悪い時間帯、得点した直後で波に乗りたいタイミングをはじめ、多くの局面で笛を吹かれたことだ。

 犯した反則数はスピアーズより1つ多い13。ここまでの6試合で計90と、目下リーグワーストを記録する。それだけ相手にボール、得点機を渡しているわけだ。

 普段の練習では、タックラーが境界線の前でプレーしないよう「オフサイド係」を設ける。順法精神を養おうとしているのは確かだ。ところが本番になると、その成果を発揮しきれない。

 日本代表でもあるメインはこうだ。

「ディシプリン(規律)に足を引っ張られた。そこさえ修正すれば、いい(チームはより)ポジションに行ける。自分たちでコントロールのできる反則については、練習で厳しくレビューしてちょっとでも減らしたいです。(体力的に)しんどくなってしまった時に(合法的な位置より)一歩、前でプレーしてしまっている。外のポジションの余裕のある選手が、内側の(視野が狭まりがちな)選手に(立ち位置に気を付けるよう)声をかけていきたいです」

 ルーカスもうなずく。

「(反則は)ここ最近の自分たちにとっての問題だと捉えています。必要なリアクションができていない。引き続き見直したいです」

 2月4日の第7節では、横浜キヤノンイーグルスとぶつかる(神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場)。ひたむきに働くチームにスマートさを付与し、自身の才能を勝利に直結させたい。

Exit mobile version