ラグビーリパブリック

王者ワイルドナイツに第6の刺客イーグルスが「プレッシャー」をかける。両軍の思惑は。

2023.01.27

打倒ワイルドナイツを狙うイーグルス。写真中央は主将の梶村祐介(撮影:向 風見也)


 事前ミーティングを終えた。練習の時間だ。

「あー、こりゃ凍ってるねー。凍っちゃてるねー」

 1月28日に埼玉・熊谷ラグビー場であるリーグワン1部・第6節を2日後に控えた朝、横浜キヤノンイーグルスの面々が、三々五々、グラウンドへ出て、芝の硬さを確かめていた。

 折しも列島には、極度の寒波が襲っていた。それでなくともこの時期は、町田市内の練習施設の天然芝は凍結しがちだ。

 各自、震えた身体をほぐす。間もなくグラウンドの真ん中にいた沢木敬介監督が、「ビッ」と笛を鳴らす。

「やるよー! ハードワーク!」

 合図とともに選手たちが集まり、ボールをあちこちへつなぐ。動き回る。規則性を持ったゲームライクなウォーミングアップだ。

 やがてトレーニングが進むと、28日の試合で用いる攻撃オプション、起こりうる場面のシミュレーションを確認する。メンバーが公式発表される直前のタイミングだ。出場予定の23名が控え組とぶつかりながら、息を合わせる。

 合間、合間には、やがてNO8での先発がリリースされたアマナキ・レレイ・マフィが「シェイプ(攻撃陣形)、作るの、遅いでー!」と関西弁で周りに発破をかける。円陣を組むと、アウトサイドCTBに入るジェシー・クリエルが防御の確認で反則が起きなかったことを日本語で讃えた。

「皆さん、ディシプリン、めっちゃいい!」

 相手は国内タイトル2連覇中の埼玉パナソニックワイルドナイツだ。国内屈指の選手層を有し、蹴り合いのうまさと堅守でライバルの芽を摘むのが特徴である。今シーズンもこれまで5戦全勝で、単独首位をキープする。

 対戦する全てのチームが、いつキックを使い、いつ攻めて防御を崩しにかかるかの判断力を問われる。

 その領域でイーグルスはどうするか。

「言わねぇよ」

 就任3季目の沢木監督はこう述べる。勝負の前なのだから当然。こうも補足する。

練習で目を光らせるイーグルスの沢木敬介監督(撮影:向 風見也)

「ただ、(プレー選択の)バランスは大事。テリトリーをコントロールするためにどういうキック、プレーが必要か(を理解して動くの)も大事」

 司令塔のSOとして今季好調の田村優は、コンディション不良で出られない。さらには元ウェールズ代表LOのコリー・ヒル、スクラム最前列のHOでの主力候補2名も、けがで離れている。

 それでも指揮官は、「この(現存の)メンバーでパナのディフェンスを崩す。準備したことを(試合で)やれれば崩せると思う。セットピースで優位に立てない場合の策も準備している」。いまのベストメンバーにとっての最善手を用いる。

 かつて沢木監督が率いていた東京サントリーサンゴリアスに在籍し、いまのイーグルスで主将を務める梶村祐介も、インサイドCTBで先発するワイルドナイツ戦へ覚悟を示す。

「いまの自分たちは、しっかりとポゼッション(ボール保持)を取って、ハイボール(高い弾道のキック)で相手にプレッシャーをかけることがうまくいっている。(球の落下地点に)プレッシャーをかけられる選手が、たくさんいるので。彼ら(ワイルドナイツ)もハイボールの処理は得意にしていて、そのボールを速いランナーに渡したい。そうさせないためにも、プレッシャーをかけたいです」

 これまで田村が務めたSOには、防御へ仕掛けるのが得意な小倉順平が入る。梶村はこうだ。

「優さんがいればキッキングメインのプレー選択になりますが、順平さんが入ればボールが動く。そのよさを出せるよう、常に外側からいい情報を与えたいと思います」

 イーグルスは元日本代表コーチングコーディネーターの沢木を招き、3シーズン目を迎えている。前体制で臨んだ2018年のトップリーグは16チーム12位も、昨季は最後までプレーオフに行ける4強争いに絡んだ。

 最後は惜しくも6位に止まり、今季はここまで3勝1敗1分で12チーム中4位につく。沢木は、今後のチームの伸びしろが「マインドセット」の領域にあると指摘する。

「スキルは絶対に伸びてきているし、やっているラグビーへの理解度も、質も高くなっている。じゃあ大事なのは何か。マインドセットのところだと思う。自分の持っているパフォーマンスを(本番で)遂行する力です。クボタだって…」

 ここでの「クボタ」とは、イーグルスと上位を争うクボタスピアーズ船橋・東京ベイ。2016年に現在のフラン・ルディケ ヘッドコーチ体制を発足させ、段階的に互いを思いやるクラブ文化を醸成した。

 さらにオーストラリア代表SOのバーナード・フォーリーら、グラウンド内外で献身的な大物外国人を加えた。有望な新人の獲得にも成功したことで、経験豊富な世界的名手が綺羅星に知見を与えるという理想的な関係性も作り上げた。

 果たして昨季まで、2年連続4強入りと躍進した。

 沢木は「クボタだって…」の後をこう続ける。

「…フランが来てから、6~7年をかけてやっとああいう(現在の)マインドになってきている。トップ4に入っていないチームがトップ4に入るには、カルチャーも変えていかないといけない。いろんな経験をしながら、成長しなきゃいけない」

 特に王者と戦う日は、対戦相手の圧力はもちろん、表面化しづらい無形の脅威にも打ち勝たねばならない。そう言いたげだった。

ワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督。写真は1月15日のトヨタヴェルブリッツ戦前(Photo: Getty Images)

 翌日、対するワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督が会見した。かつてオーストラリア代表も率いた指揮官が、オンラインで応じた。

「フィジカルな試合になるのが予想されるなか、選手層の厚さは増しています。全選手が試合に向けて集中でき、いい取り組みをおこなえている。それをラグビーの内容、コンテンツにつなげていけていると感じています」

 首のケアのためチームを離れていた堀江翔太をリザーブのHOに戻し、脳しんとうからの復帰プログラムを受けていた日本代表のベン・ガンターもFLのスターターに入れられた。ボスが「選手層の厚さ」に満足できるのはそのためで、イーグルス戦へはこう展望する。

「キヤノンはチャレンジングで、クリエイティブ。試合で見られるスペシャルプレーから、そう感じさせられます。まず、彼らにフィジカル(ぶつかり合い)で挑みたい。コンタクト周りの精度が重要です。もうひとつの鍵は、規律です。キヤノンはモールも好きだと拝察している。私たちが反則を犯したら、彼らは私たちの陣地のゴール前まで(タッチキックで)進んでモールを組む。それを避けたい。そして、(フィジカル勝負と規律という)ふたつの要素は、つながっていると感じています」

 ラグビーではルール上、球の位置よりも前でプレーできず、倒れたまま球に触れてはいけない。そのため、当たり負けしたり、相手に押し戻されたりした方が反則を取られやすくなる。

 この原則を踏まえてか、ディーンズは「規律」と「コンタクト周りの精度」は「つながっている」と話したわけだ。

 いずれにせよ、ライバルが組織的に攻めたがるのに対し、自分たちは攻めの起点を断つつもりだと述べた。

 果たして試合は、どちらの思い通りに進むだろうか。

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