ラグビーリパブリック

【コラム】スタイルを信じ切る――トンネル脱出のカギは。

2023.01.26

1月14日、キヤノンには74-7となす術がなかった。写真は豪州代表110キャップのSHウィル・ゲニア(撮影:佐藤真一)

 ラグビーはボールゲームだ。そしてラグビーはコンタクトスポーツでもある。

 試合では激しいコリジョンが連続する中、心身両面で重くのしかかるプレッシャーを跳ねのけ、あるいはかいくぐって、ボールをつなぎ前進するチームとしての力が求められる。うまい。速い。大きい。強い。賢い。どれも大切だがそれだけでは勝利に届かない。そこが競技の難しさであり、醍醐味であると思う。

 この冬、日本一の栄冠を手にした帝京大学と東福岡高校は、ともに球技的スキルと格闘技的支配力を高い次元で兼ね備えたチームだった。存分にボールを動かして相手を振り回しつつ、圧倒的なフィジカリティによってスクラムやブレイクダウンをねじ伏せる。ディフェンスにプライドを感じさせるのも共通点で、球を持たない時にも厳しく体を当てて圧力をかけ続けた。だから他校はつけ入る隙がなかった。

 高校生ばなれしたアタッキングラグビーで旋風を巻き起こした花園準優勝の報徳学園も、同様の強さがあった。FL三羽了、NO8石橋チューカ、CTB炭竈柚斗の象徴する一人ひとりの推進力こそは、ほれぼれするようなオープンスタイルの源泉だ。おもしろいようにパスをつないで走り回るチームは、ぶつかり合いでもたくましかった。

 どれほど優れたテクニックを有していても、コンタクトのバトルで対抗できなければ持ち味を発揮させてもらえない。ボールゲームの要素だけでは勝負できないラグビーの困難なところだ。実際、ゲームのレベルが上がるほど接点のせめぎ合いは激しさを増し、その優劣がダイレクトに試合展開を左右するようになる。

 1、2回戦で思い通りに攻めまくって快勝したチームが、対戦相手が強くなる次の試合では手も足も出ず完敗を喫する。そうしたケースは高校、大学いずれの大会でもしばしば起こる。前に出られていたところを逆に押し戻され、ボール争奪局面を支配されて攻める機会を作れなくなるからだ。その結果、オセロの白と黒が反転するように、内容も勝敗もまるきりひっくり返ってしまう。

 できていたことができなくなると、自分たちの戦い方に自信を持てなくなる。今季よりリーグワンのディビジョン1に昇格、ここまで5連敗と苦しい戦いが続く花園近鉄ライナーズの現状もそう映る。ディビジョン2なら敵なしだった自慢の攻撃力が、上位リーグでは突出した強みとはならない。同じ昇格組ながら、運動量とタックルを軸にしたディフェンシブなスタイルで好成績を残している三菱重工相模原ダイナボアーズとは対照的だ。

 どのエリアからでも果敢にボールを動かして仕掛けるラグビーは魅力的だ。やるほうも観戦するほうも楽しい。ただしそこには、表裏一体の危うさもひそんでいる。ゲインラインの攻防で差し込まれると、途端にシステムが機能しなくなるからだ。ボールを保持する時間が長くなるぶん、コンタクト回数と走行距離が増え、ダメージもかさむ。

 キックを蹴り込み、いいフィールドポジションでのディフェンスからプレーを組み立てる――という試合運びが現代ラグビーで主流になっているのは、そうした理由からだ。いったんは相手にボールを渡すことになるが、自陣ゴールラインまで距離がある位置でしっかりと防御陣形を整備しておけば、そう簡単に崩されることはない。相手が強引に攻めてきたところを狙いすましてターンオーバーできれば、一気にビッグチャンス到来となる。

 いまリーグワンでもっともこの戦い方に長けているのが、埼玉パナソニックワイルドナイツである。まずキックそのもの、そしてそれに対応するチェイスとディフェンス陣形のセッティングの精度が極めて高く、相手はなかなか突破口を見つけられない。反対に蹴り合いの中でわずかでも隙が生まれると、たちまちチーム全体で連動してカウンター攻撃を仕留め切ってしまう。

 1月21日、駒沢オリンピック公園陸上競技場。リコーブラックラムズ東京との一戦を注視してつくづく感心した。

 ワイルドナイツのプレーヤーは、蹴り込まれるキックをめったにバウンドさせない。的確なポジショニングと鋭い読みで地面にはねる前にキャッチし、すぐさま次の展開に移る。その結果、相手に体勢を整える間を与えず有利な状況で仕掛けられる。不規則なバウンドに手間取ることもない。

 何よりその意識が、特定の誰かではなくメンバー全員に浸透している。チームとして身体化されているとってもいい。不戦敗を除けばこの日で公式戦26連勝、「負けないワイルドナイツ」の真髄が、そこに垣間見えた。

 ライナーズはワイルドナイツではない。だから同じラグビーをする必要はない。ただ、一人ひとりの選手がチームの方針に沿って真摯に責任を果たす姿勢は、きっと参考になるはずだ。

 心優しきファンがホストスタジアムの花園ラグビー場の観客席を埋めた1月21日の東京サントリーサンゴリアス戦。タックルを改善し気迫をみなぎらせて挑んだら、前半の40分は対等に戦えた。フィジカルに関しては慣れの部分も大きい。1対1の接点とブレイクダウンで対抗できるようになれば、昨季ディビジョン2を席巻した攻撃力が輝きを放つシーンも自然と増えていくだろう。

 まずはここまで築いてきたチームのスタイルを信じ切ること。その上で、すべてのメンバーが全力を尽くして役割をまっとうする。その先に、トンネル脱出の光が見えると思う。