人呼んで「東芝対トヨタ」。旧トップリーグ時代から上位争いにかかわってきた屈指の名カードが1月22日、東京・秩父宮ラグビー場でリーグワン1部・第5節として実施された。
63-25。「東芝」ことブレイブルーパスが大差で今季3勝目を挙げた。「トヨタ」ことヴェルブリッツは4連敗となった。
いずれも各国代表経験者、期待の若手をずらりと揃える。
特にヴェルブリッツは、2019年のワールドカップ日本大会で優勝した南アフリカ代表のメンバーを2名も先発させていた。ピーターステフ・デュトイをFL兼ゲーム主将、ウィリー・ルルーをFBとして芝に立たせ、国産戦士にも代表候補を並べる。
要は、メンバー表の豪華さと試合結果が不釣り合いだった。
歴史的背景と当日の陣容を踏まえてか。現役時代に日本代表として活躍した「東芝」のOBは、控えめに呟いた。
「少し、寂しいですね」
かたや「トヨタ」のOBで、いまのヴェルブリッツでアシスタントコーチを務める馬場美喜男氏は唇をかむ。
「皆、自信は持っていると思うんです。(試合までの)1週間のプロセスはよかった。別に(防御の)スキルがないわけではない。ただきょうは最初の1対1で(気圧され)、向こうのキープレーヤーにいい形でボールを渡してしまった。何がうまくいかなかったかは見返さないとわからないです。もう一回、冷静になって考えないといけないです」
先制したのはヴェルブリッツだった。
前半4分、自陣でペナルティキックを得るやSHの福田健太が速攻を仕掛けた。
あっという間に敵陣ゴール前へ突入し、右への展開でWTBの高橋汰地がフィニッシュする。
スコアはブレイブルーパスから見て0-5となった。ブレイブルーパスのSHで共同主将の小川高廣が「難しいゲームになるかな」と気を引き締めたが、以後、ヴェルブリッツのベン・へリング ヘッドコーチが嘆く展開に陥る。
「練習してきたことが発揮できなかった。タックルミスが多かった」
ブレイブルーパスの組織的かつ勢いのある攻めで、ヴェルブリッツの防御網が翻弄されたのだ。
前半23分。自陣10メートル付近右で相手ラインアウトからの展開を待ち構えるも、左大外に穴をあけてしまった。攻防の境界線に多角度的に駆け込んできた、ブレイブルーパスのおとりの動きにつられた。
最後はCTBのセタ・タマニバルのタックルを受けながらのつなぎ、右タッチライン際にいたWTBのジョネ・ナイカブラの激走などで20失点目を喫した。得点板は「20-8」と光った。
なんとか走者を止めるシーンでも、後手を踏んだ。ブレイブルーパスが意識したという、接点への分厚い援護にタックラーが巻き込まれる。撤退しそびれたところ、オーストラリアから来日のニック・ベリー レフリーに反則を取られた。
攻めても圧力下で落球を重ねた。
象徴的だったのは、ナイカブラのトライが決まる直前の一幕だ。
グラウンド中盤の左に数的優位を作りながら、右の接点から球をもらったルルーが手前側の防御の厚いエリアへパスを放つ。デュトイが走り込んでいた。落球した。
当のデュトイは、チームにミスがかさんだわけをこう分析する。
「フィジカリティで相手に上回られたことが大きい。なかなか勢いが出てこなかったことで、キャッチ、パスがうまくいかない状況に陥ったのです」
後半もブレイブルーパスの猛攻は続き、ヴェルブリッツがチャンスをつかんでも密集で対するワーナー・ディアンズ、ジェイコブ・ピアスの両LOに苦しめられる。走者を羽交い絞めにするタックルで、球出しを防がれた。
20歳ながら日本代表の主軸となったディアンズが「相手のボールキャリアが高い姿勢だったら…と(相手をつかみ上げるタックルを)狙っていました。(総じて)いい感じで前に出られていました」と微笑むなか、デュトイは会見で問われた。
多くの実力者を擁しながら結果を残せないのはなぜか。
「メンタリティが要因です。向こうのほうがいいハングリー精神、情熱、プライドがあった」
この日ヴェルブリッツでハットトリックと気を吐いた高橋は、同じ趣旨の問いにこう述べる。
「日本人選手が外国人選手に意見をぶつけられていないのかな…と。外国人選手の言ったことを、日本人選手が素直にやり過ぎてしまっている。日本人選手も試合中に『こうしたい』を伝えられたらよかったです」
チームは元ニュージーランド代表ヘッドコーチのスティーブ・ハンセン氏をディレクター・オブ・ラグビーに招き、今季ヘッドコーチに就任のへリングが簡潔な戦法をアウトプットする。
へリングやハンセンと指導にあたる馬場は、こう説明する。
「ウィリーやロブ(・トンプソン=インサイドCTB)の指示でプレーが変わることもあると思いますが、基本は北村(将大=この日の先発SO)の指示で動いている。その週でやることは決まっている」
そのため、昨季、日本代表でもプレーした26歳の高橋は、「1週間を通してのオーガナイズはベンさんがしている。選手とヘッドコーチのバランスは、そんなに悪くない」と前置きはする。
ただし選手たちの間に、レジェンドへの過剰なリスペクトがあるのを否定しない。
折しも、NO8で共同主将の姫野和樹をけがで欠いている。日本代表の主力としてワールドカップで8強入りした姫野が不在ななか、高橋は「基本、僕は自分の意見を言うタイプじゃないんですけど」としつつ主体性を持ちたいと話す。
その高橋と同期の福田は、自責の念を込めてこう言葉を選ぶ。
「それぞれの能力が『1』ずつあるとしたら、出ている選手の『15』を最大限に出せているチームが強いと思うんです。(昨季まで2連覇の)ワイルドナイツさんがそう。いまのトヨタは、個人だけを見たらいい選手が揃っている。ただ、組織になりきれていないところがあるのかなと」
福田は明大にいた2018年度、チームの主将として大学日本一を経験している。加盟先の関東大学対抗戦Aで8チーム中4位と苦しんだが、大学選手権の直前に4年生だけで本音をぶつけ合い、結束した。
当時の経験を踏まえ、この先のヴェルブリッツで取るべき態度を明かす。
いま歩いている道が間違っていないと信じ、信じさせる。
「明大も順風満帆ではなかった。負け続けた時、僕たちのやっているゲームがいいのか、信じていいのかという話が出る。人間なので、愚痴とかも出るとは思うんです。ただ、そういう時でもリーダーは一貫性を持ってやらないとチーム(選手)はいろんな方向に行ってしまう。コーチの出したプランを信じ続けてやることに意味がある。ひとつの『電車』に乗れるよう、ドライブしたいです」
名門の苦労が報われる日はやってくるか。